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播磨陰陽師の独り言・第512話「難しい日本語」

 以前、海外、特に英語圏の人々にとって日本語は最も習得が困難な言語と書きました。それだけ複雑だと言うことですが、最近の日本語はずいぶんと単純になったものだと思います。と言うのは、戦前はもっと難解な日本語を使っていたからです。さらに言うと、江戸時代は難解ではなく、かなり複雑な日本語が使われていました。
 難解なのと複雑な日本語の違いは、明治の頃に言われた言葉にあります。
 当時の人は難解な日本語の使い方に対して、
「漢語ばかり多くて分かりませんわ」
 と感想を述べていました。
 この〈漢語〉と言うのは、今で言う熟語のことです。当時は外国語を訳して勝手に作った和製漢語が増えてしまいました。それらは目新しい言葉なので理解も困難でした。今で言う和製英語をカタカナにした言葉のような感じです。この時に生まれた、たくさんの和製漢語はかなりまとを射た言葉でした。
 その後、和製漢語は日本語ばかりではなく、K国語やC国語に多大な影響を与えました。しかも言葉として原語よりも意味が深くなってしまいました。その結果、物理学などは、日本語で正しい意味を理解しないと難しい学問になってしまったのです。しかし、近隣諸国には翻訳された和製漢語由来の言葉として伝わったため、必ずしも正しい言葉として使わりませんでした。
 一方、江戸時代の日本語はさらに複雑です。と言うのは、当時のルールとしては、漢字にどのようなルビを振っても良かったからです。このルールの名残りが〈クラゲ〉と言う言葉です。昼間のクラゲは〈水母〉と書いて、夜のクラゲは〈海月〉と書きます。どの字にも、単独では〈クラ〉や〈ゲ〉と言う読み方はありません。それをルビをつけて読ませています。これだと漢字はその形を見るためのガイドとなります。もちろん、読み方はルビに従います。そうです。実は漢字はイメージを表すための文字なのです。少なくても古い日本語では、そう言う使い方がなされています。どの漢字にも特別な読み方の場合はルビがついていました。また、難しい、あまり目にしない漢字にもルビが振られていました。しかも、すべての文字は手書きのため、ある程度の大きさがありました。つまり老眼になっても見えるサイズなのです。文字さえ読めれば、何歳になっても読み書きが出来た訳です。大きな字で読み方も分かるので、複雑と言ってもの読めないことはありません。平仮名さえ分かれば、すべて読めたのです。そうして、当時から世界に誇る識字率を持った国となっていたのです。複雑で文字による効率的な伝達が可能な言葉を駆使することが出来たため、皆、頭が良かった訳です。

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