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播磨陰陽師の独り言・第509話「嘘を感じる時〈前〉」

 以前、
「病院に行っている時はYouTubeを聴いています」
 と書いていました。
 多くは怪談ですが、外国人が体験した日本を誉める類のものも聴いています。
 最初の頃は面白かったのですが、最近は、
「何だかおかしいな?」
 と思うことも多くなりました。と言うのは、どう見ても日本人が原稿を書いているとは思えないものが増えて来たからです。
 体裁はあくまでも、日本が大好きと言う日本人が、日本や日本人の民度を褒め称えているものです。日本人の民度の高さを褒め称える種類の映像はたくさんあります。
 しかし、この〈民度〉と言う言葉、少し妙だと思いませんか?
 この言葉を辞書で引くと、

——人民の生活や文化の程度。

 と出てきます。この中の〈人民〉と言う言葉は日本では一般的な言葉ではありません。むしろ〈中華人民共和国〉と言う国名を思い出してしまいます。ちなみにこの国名は日本語です。現代の中国語の七~八割はすでに日本語由来の言葉です。われわれが学校で習う漢文は純粋な昔の中国語なので、今では理解出来る中国人も少なくなっているそうです。
 日本人のふりをして、日本を誉める映像には、他にも日本人があまり使わない言い方や言葉が多くみられます。
 もちろん〈てにをは〉は変ですし、代表的な表現に〈杞憂きゆう〉と言う言葉があります。杞憂とは、あれこれ無用な心配をすることです。しかし、この言葉、日本人にはあまり馴染みのない言葉です。と言うのは、中国の杞の国の人が天地が崩れて落ちるのを憂いたという故事に基づいているからです。日本人よりも中国人に馴染みのある言葉なのですね。
 さて、〈神道〉をどう読みますか?
 正解は〈しんとう〉です。しかし日本人のふりをするYouTube映像では〈しんどう〉と発音しています。同じ漢字を書いて、中国では〈しんどう〉と読むことがあります。
 江戸時代に伊勢貞丈いせさだたけが書いた『神道独語』と言う書物の中に、

——それ神道に三種あり。ひとつは中国から来た神道しんどう。もうひとつは仏教と習合した神道しんとう。そして最後のひとつはわが国に元からある神道しんとうである。これらは各々意味するところが違っている。

 と言う一節があります。この中の元々わが国にあるものを今は古神道と呼んでいます。つまりこの〈神道〉と言う漢字を見て、つい〈しんどう〉と読んでしまうのは中国語ネイティブな人に限定される訳です。後編へ続く。

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