お客様は神様じゃないけど、地縛霊だったりする。

クレーマーの心理が気になっていた。人生で、言う側にも言われる側にもなったことがない、つもりだった。ただ「理不尽なクレームを入れられた」と感じるのは言われた側なので、わからないし、何より、人は怒っているときに「自分は正しい」と頑なに思い込んでしまうものだ。そんな私が、クレーマーに出会ったことを通して、自分もクレーマーであったことに気づいた出来事について話したい。

怒っているときに、自分は正しいと思い込んでしまう、その「怒りのスイッチ」が入りやすい人」がクレーマーだ。要するに「地雷だらけの人」ということ。


【こういうクレーマーいるよね】

私は、あるイベント会場でスタッフをしていたときに、クレーマーに頻繁に遭遇するようになった。内容はどれも、たかがアルバイトに言っても仕方ないようなことだ。相手もわかって言っている。ただ怒りを表明したいだけの人たちだが、自分は正しいことを教えてやっているのだという態度も透けて見える。
目立ったのは、お年を召した方が「高齢社会なのだから、それを踏まえて会場やパンフレットの設計をしなさい」というニュアンスのことを言うもの。私に裁量権は無いので、それについて5分も10分も言われ続けても困る。ただ、全員が文句を言うわけではない。言う人と言わない人/不満に思う人と思わない人にはどんな違いがあるのだろうか。

【私自身もクレーマーだった!?】
ここで、自分が実はクレーマーであったことを打ち明けたい。アルバイト先で、勤務時間の15分前には働ける状態で待機しておくようにと言われ、とても腹が立ったのだ。その15分にお給料は出ないのに、理不尽な要求をされていると思った。私が思ったこと自体は間違いではないのだが、(例えばシフトの都合上お互いに譲歩する部分なので、終了時間を切りの良いところまで延ばしてもらったこともある。そう目くじらを立てることでもない。)私が怒りを感じたのは、これが私の「地雷」を踏んでいたからだ。


【私の地雷】

その2年前、あるカフェで働いていたとき、ストーカー被害に遭った。シフト上、一人で勤務しなければならない時間があったのだが、それを狙って来店し、セクハラ発言を1時間以上繰り返された。1ヶ月以上続いたと思う。ある日、①スボンを脱がれたこと②「今夜はおねーちゃん(私はそう呼ばれていた)とエッチする」と退店時に言われたことで、警察への通報に至った。

私がショックを受けたのは、ストーカーそれ自体ではなく、勤務していた店の対応だった。(ストーカーは多分頭のおかしい人なので、仕方ないかなあと思えていた。被害届も結局出していない。)
「身の危険を感じるので、今日をもって辞めさせてもらうか、せめて一人でのシフトを避けるよう組み直してください」とお願いしたところ、「辞めるなら2ヶ月前に言うのが普通、常識がない」と逆に叱るようなことを言われたのだ。あんなに尽くして働いたのに、セクハラについて相談もしていたのに、心配どころか何も対応してもらえないなんて。
「私はどんなに頑張っても、働く先に大事にしてもらえない」。この傷ついた気持ちが、地雷として残った。


【クレームをつけるお客様と、勤務先に憤慨する私の共通点】

2年以上前に働いていたカフェで受けた扱いが心の傷になっていることを自覚できないまま、新しくどこで働いても「私は“また”大事にしてもらえなかった!」と小さなことで怒りを覚える。
この、また大事にしてもらえなかった、がクレーマーの心理の中核にあるのではないだろうか。

どの店に行っても大きな態度をとっていたら、少なくとも格別に大事にはしてもらえない。家族もなかなか自分のもとを訪ねてくれないお年寄り。大事にしてもらえないのではないかという不安をいつも抱えていて、むしろそうである要素を自分から探してしまって、傷つくことを繰り返す。クレームを入れる。また嫌われる。
このサイクルで、傷が深くなっていくのではないかと思う。
ピリピリしている、子連れのお母さん。最初から怒っているお年寄り。きっと家庭や電車の中、別のどこかで人の冷たい視線に傷ついて、地雷をたくさん作っている。私だって、何年も前の出来事に縛られていた。

人は生きている限り、傷を重ねていく。それを自覚できないこともある。地雷を作った環境と、地雷を踏んでしまう人は全く別物なのに、それもわからない。
怒っているから、自分の怒りは正当なものだと信じきってしまう。
だからクレーマーになってしまう。お客様の中に神様はいないけど、何年も前の傷からいつまでも離れられず、それに気づけない地縛霊はいる。それに気づいて以降、何か言われたらまず「この人は何に傷ついているのだろう」と考え、傷ついた人のケアをするよう心がけている。もちろん、自分の新たな傷にならない範囲でね。

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