セックスワーク従事は自由意志か

はじめに、タイトルについてまず結論をいえば、自由意志であることもあれば、自由意志とはいえないこともあります。(ここでは自分の意志が自分の自由になることがあると仮定してお話しします。「自由意志」はゆるく「自分の自由に定めた意志」くらいに読んでください。)

まず、本当に好きでやっているという人はいるかもしれないし、そういう人が自分の望む報酬を得て、危険な目に遭わず、何かあったら守られるような労働環境を整えていくことは非常に大切です。

また、違法薬物の販売のように法にふれることでなければ、その職業に就くことを理由に差別を受けてはなりません。違法である場合でさえも、足を洗って罪を償ったあとに差別を受けるような社会であってはならないと思っています。

なぜ「違法かどうか」という書き方をしたかというと、法と倫理は必ずしも一致するとは限らないからです。性産業を人身売買として、本人の了解があっても人の体を売買してはならないとする考え方もありますし、そこはまだ決着がついているとは言い難いでしょう。(日本ではいわゆる本番行為も黙認されています。)

また、「自由意志」がそのまま尊重されるかどうかは、実際の運用上、未成年者か成年者かで線引きがされていますが、その是非はここでは置いておきます。

さて、「本当に」自由に選択した人についてはここまでです。

ここからは、本人の自由な意志は尊重することは前提として、「自由な選択が本当に自由なのか」について考えていきます。

まず、貧困、そしてAV強要問題で言われるように周りにうまく言いくるめられて、という場合については、自由意志とは言えないと思います。このうち貧困については、想像力の問題で異論があることもあるでしょう。貧困とは一般には生活するお金に困ることですが、どうしてそのような状況に陥ってしまうのでしょうか。どうして他の職業を選べなかったのでしょうか。

まず、私を含めた多くの人が、自分の強者性を自覚する必要があります。

健康な体も、就学させてもらえる家庭環境も、就職時に差別に遭わない境遇に生まれたことも、学校や会社で何かあったとして結果的に屈さずに済んでいることも、当たり前でない人がいるのです。

(屈さないための努力を否定するつもりはありませんが、今の自分の状況を当たり前だと思えるほどにラッキーだという自覚を促しています。今貧困にあえいでいる人はその限りではありません。)

それらが欠けているために貧困ならば、生活保護に頼ればいいと思うでしょうか。生活保護以外にも、自治体によっては支援がありますね。その通りなのですが、全てのセックスワーカーにその選択肢が思い浮かぶと思いますか?役所が積極的に呼びかけることは今後もないでしょう、予算の問題があるからです。(本当なら今スマートフォンで自分の状況を入力して支援の対象である可能性が高いかどうかの簡単な診断くらいは作れるはずなのですから。)

就職したとして、その人の状況では生活できるレベルの収入にはならない、ということがあれば、それも貧困です。学歴で差別されたり障害により差別されたりして、十分な収入を得られず生活保護も受けていない人がいます。

同じことで困っている人たちの自助グループに入れない、その存在を知らないだとか、ネット環境が整っていないとか、検索しようにもその発想がなかったり上手くできなかったりといった状況は、周りにそういう人がいない私でも想像がつきます。ほとんどのケースは「知らないから」で説明がつくでしょう。“誰でも”情報にアクセスできる環境が整わない限り「自由意志」であるとは言えません。

厄介なのは、私なんかが社会の支援を受けていいわけがない、と思ってしまっているなど自己肯定感がない場合です。社会に迷惑をかけるくらいなら死んでしまおうと思っているかもしれません。私たちはそういう人にも「助けるよ!」という声が届くようにしなくてはなりません。

この件について、「『自分の価値探し』のためにその職に就いている人…異性に求められていることだけに自分の価値を見ている」そのためにセックスワークをしている人の存在を教えていただきました。(Ken-wolfさん)

そういう人たちがどうして「自分の価値探し」なんてしなくてはならなかったのか。どうして自分に愛着を持てなかったのか。その気持ちになるに至った過去の環境などを考えた上で「自由意志」なんていえるでしょうか。本当に必要なのがセックスワークなのか他のケアなのか、本人が選べるようになって初めて自由といえるでしょう。

「自由意志」で選んだ裏には「自己責任」の色も見え隠れします。私は決して自己責任とは言いたくないです。何があっても、その人が不遇である限りあなたのせいではないと言いたいです。

ここまで「自由意志かどうか」についていくつか考えられる点を挙げてきましたが、現時点でさえ少なくともこれら全てが解決されないと「自由に選んだ」なんて言えません。

共に生きているのです。どうかそれだけの想像力を持ってもらえますように。


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