見出し画像

2023J1リーグのトレンド

2023シーズンのJ1リーグも折り返し地点。プレミアリーグと違って全チーム全試合観戦しているわけではなく(毎節平均4〜5試合程度)、解像度にもバラツキは生じてしまうが、今回はJ1のトレンドを探りたい。
後編で、今回の考察から見える(退任となった)アルベル体制のFC東京の問題点を述べたいと思う。

1. 前提条件

今季のJ1リーグの日程は、ACL決勝を戦った浦和とGW期間の1試合を除いては全て週末に組まれている。
これは、コロナ禍やワールドカップ、オリンピックに影響されてミッドウィーク開催が増えていたここ数年とは違った条件になる。

リーグ戦週1試合によって、コンディション回復と相手の対策に時間を割くことが出来る。つまり、メンバーの固定化が比較的容易なので、個の質的優位やユニット単位での関係的優位性を最大化する設計が機能しやすい。そして、相手に応じたプラン・戦術を可能にする、戦略の枠組みの大きさが問われている。

裏を返すと、後半戦を展望するにあたって、夏場の戦いで1試合の中での消耗が激しくなることや、シーズンを通した疲労の蓄積、ACL組は秋以降ミッドウィークのゲームが入るということは大きくコンペティションの環境を変える要素となりうる。

もちろん、夏の移籍で設計の再構築を強いられるチームが出る一方で、質的優位を手に入れたり、選択肢を広げたり出来るチームも出るだろう。

2. 4局面に隙がなく‥戦略面の強さ

目新しい戦術があるわけでもないし、プレミアリーグの上位陣に見られたように自分達の土俵に相手を無理やり引き上げて殴り勝つわけでもない。

ベースとなる強度で引けを取らず、まずは非保持で相手の強みを消す。保持で広さと速さを管理し、トランジションで優位に立って勝つ。特定の1〜2局面で圧倒するのでなく4局面どれも負けないことで僅差をモノにする。

このように戦略面の枠組みを大きく設定し、相手に場所と時間の管理を行わせないチームが上位に立っている。

その中でも、質的優位の箇所と発揮方法、場所と時間の管理方法は異なるのでタイプ別に見て行こう。

2-A 名古屋・神戸

この両者に共通するのは、前線の質的優位を活かした速攻が槍、中盤やサイドの走力と強度、献身性の高さが武器になっていることだ。

非保持では、相手の配置に応じて噛み合うように、前線から制限をかけて相手の球出しのエリアやコースを制限し、中盤とサイドで捕まえる、バックラインが前向きに回収することを第一にする。奪えばまずは縦への速さを出す。大迫・武藤、ユンカー・永井で手前と背後を突いてゴールを陥れる。

ここまでは単なる堅守速攻でないか、という感想を抱くかもしれないが、それに加えて場所と時間の管理の仕方が彼らの強みだ。

前線からの制限が嵌まらなければ潔く撤退を選ぶ。ハイプレスハイラインでなく、縦に伸びる陣形を受け入れる。この盤面はポジトラでも優位性を出しやすい。縦に伸びることで、背後を一気に突くことは難しくても、広がったライン間でも仕事が出来る前線の選手達が引き取って、バックラインと広い場所での勝負に持ち込むことが出来る。

また、保持では後方で枚数をかけてゆったりとパス回しをする場面が頻繁に見られる。狙いは2つ。強度を最後まで落とさないためのペース配分をローリスクで実現すること。そして、相手が焦れて奪いに来ることで作られる背中側のスペースを活用する。

押し込んでからは、サイドでユニットを形成して深部を取り、ボックス周りを囲うようにしてネガトラリスクを軽減する。

このように、広く長い場所を確保し、テンポの緩急の差を大きくする。ビルドアップやハイプレスに強みを持つチームの狙いを外し、強度と速さを持って非保持とポジトラの優位性を発揮することが彼らの強みとなっている。

2-B 浦和・セレッソ大阪

この両者は先ほどの2チームとは異なり、コンパクトに時間と場所の管理を行うチームだ。ただし、ボールを握り続けることに拘ってはいないし、ハイテンポで即時奪回を行って敵陣で2局面を回し続けるわけでもない。

保持では、2ー2と2ー3を使い分けて構築。テンポを調整して配置を整える。浦和はリカルド時代からの積み上げがあるし、小菊体制のセレッソは常に、自分達の秩序を整える手段としての保持が機能している。

非保持では、ベースとなるのは4ー4ー2の型でコンパクトにミドルゾーンでセット。(ただし、相手に応じて敵陣での人基準も見せる。)

トランジションをあまり起こさず、カオスな盤面を嫌い、保持非保持共に自らの秩序維持を最優先とし、そのための意思共有は高い次元で出来ている。

ただ、それだけでは相手の秩序も崩れない。そこでキーになるパターンをいくつか持っている両者。浦和は酒井の右から斜めのランで背後を突く形、興梠の裏抜け、伊藤の3列目からの飛び出し。セレッソはSB,SHの二人称でどちらかをフリーにし、質の高いクロスを放る。

保持と非保持どちらに軸足を置くかに拘らず、落ち着いた振る舞いで相手を観察し、ハイテンポに持ち込ませない。シンプルな構造で盤面を整え、落ち着いた駆け引きで相手に隙を生じさせる。

2-C 鹿島

「全局面を支配する」岩政監督のこの言葉通りのチームになってきた。いや、支配するとまで言うと大袈裟かもしれないが、相手や時間帯に応じて振る舞いは変えられるチームになっている。

相手の保持に対して、人を捕まえてハイプレスにも行くし、ミドルゾーンで構えることもある。後ろで構築してサイドから前進することもあれば、鈴木と垣田に蹴っ飛ばすこともある。

システムそのものも非常に読みにくい。序盤戦は知念が、最近は名古が幅広く動くことで4ー3ー3と4ー4ー2を行ったり来たりしているし、鈴木優磨も定点にいるわけではない。サイドの選手もタイプの異なる選手を使い分ける。直近のゲームでは植田昌子関川の5バックも見せた。

どんなゲームでも、佐野ピトゥカ樋口鈴木のZOCの広さと強度は活きる構造ではあるが、戦略面から幅を広く持ち、相手に応じた対策を披露する。相手の土俵に上がって行って強みを消して制圧しているように見える。

3. 戦術・原則へのこだわり

2で挙げたチームとは違って、戦術面を突き詰め、ミクロな部分まで設計していたり、原則の落とし込みを徹底しているチームもある。成績は上から下まで、と言ったところだが、継続することの力を信じているように感じる。

それぞれに苦手な局面があることは事実だが、自分達に矢印を向けて迷いなく実行することで、試合の評価はしやすいし、チームで同じ方向を向いているように見える。

3-A 新潟

突き詰めと言えば彼らだろう。後方からGKも含めた6〜7人の構築隊で相手を引き出し、相手の背中で受けながら前進。

構築→相手のプレスを空転させる→ライン間に届けて前向きの選手使う・降りた動きに呼応して背後・サイドでユニット形成して幅を使った侵入、という流れ。敵陣では人に基準を置く。

狭いところの打開にこだわってしまうことで侵入が手詰まりになる、CBが広い範囲を守りきれない、オープンに引き摺り込まれると分が悪いという問題点はありつつも、細部へのこだわりで打開しようとする姿勢は崩さない。

3-B ガンバ大阪

前半戦ラストを3連勝で飾ったガンバ。序盤戦から静的な配置での原則の落とし込みは上手く行っていたように見える。

2ー3で構築し、5人の侵入隊は段差を活用してライン間と幅を攻略しにかかる。アナーキーな宇佐美の組み込み、宇佐美がいない時の硬直化が課題だったが、ジェバリ、ネタラヴィのフィットによって進化を遂げる。

構築→侵入の手詰まりを解消すべく、ジェバリが深さを取って相手を押し下げる、そしてバックラインも上げすぎずにネタラヴィやSBが運ぶ余白を残すことで、構築→加速→侵入に。

アラーノ、倉田が横の距離感を調整すると共に、山本とダワンは彼らを適切な角度と距離でサポート。これで、手前と背後、斜めの関係で侵入回数を増やせるようになった。

原則を落とし込み、出た課題を工夫して解決する。正しいプロセスを歩んでいるように映る。

3-C 広島

彼らは緻密なサッカーという印象からは外れるかもしれないが、相手を見て柔軟に振る舞いを変える、というよりは息つく間を与えずに圧倒しようとする姿勢が強い。

主に3ー1型のビルドアップを用い、トップが深さ、WBが幅、シャドーがライン間を取る。サイドでユニットを形成して必ずポケットに走り込む、トップにボールが入った時点で必ず2列目から飛び出す、サイドからのクロスに必ず逆サイドの選手が入る。

というようにいくつかのシンプルな原則を落とし込み、その速さと試行回数の多さで相手に挑む。3バックの対応に全幅に信頼を置いたハイプレスや積極的なトランジションは毎試合敢行しており、どんな相手でも迷いなく自分達の土俵で戦うことを強いている。

3-D 湘南

彼らは非保持の設計から入っているが基本的に戦い方は変えない。3ー3ー2ー2のような陣形で中央を閉じてサイドに誘導。WBとOHとトップが斜めに繋がって面を作ることで相手を閉じ込めてショートカウンター。

WB ,OH,トップの3人でユニットを形成しサイドを攻略。4人目としてHVが後方でサポート。詰まればアンカー経由でサイドを変える。保持でも中央の密度が高いのでアンカーやHVからライン間のシャドーへのパスがスイッチ、無理ならWBを高い位置に送り込むかトップを流すかでサイドに蹴り込む。

強度の高さ、走力に加えて、独特の立ち位置の特性を活かした保持・非保持の振る舞いをブレずに追求している。

3−E 札幌

オールコートで人基準の非保持から、走力で相手を引き剥がしてのショートカウンターを繰り出す。保持では4ー1ー5の陣形で枚数を掛けたアタック、ドリブルでの侵入と正確なクロスを組み合わせてサイドを攻略し逆サイドで仕留めることに加え、シンプルに前線の速さを活かすパスも使う。

どんな相手にも積極的な姿勢でプレス→ショートカウンター、保持で縦に引き伸ばす→加速→侵入を崩さない。ミシャの思想と持ち駒を掛け合わせた最適解がこの形なのだろう。失点リスクも大きい戦い方ではあるが、迷いなく殴り合って多くの得点を奪っている。

3−F 福岡

彼らもまた、札幌同様に長期政権で継続路線を突き詰めている。4ー4ー2をベースに、5バックと併用することはありつつも基本的には前線から中央を閉じる制限を掛けてサイドに追い込んで閉じ込めて奪い切る。あるいは蹴らせてバックラインが前向きに拾う。

ミドルブロック→プレスが機能しなければコンパクトなまま撤退。保持ではサイドで相手を釣り出して背中かターゲットとなる2トップに蹴り込む。陣地を回復できればサイドのシンプルな二人称からクロス、あるいは得意のセットプレーを獲得する。

シンプルな構造ゆえに、上手くボールを動かすチームには攻略されたり、引く時間が長いために相手の攻撃の試行回数が増えてしまう問題はありつつも迷いなく集中力高くアグレッシブな戦いを披露している。

4. 保持型のその先へ

ここまでは、大枠の戦略に強みを持ち、自分達は秩序維持しつつ相手の強みを消して質的優位を発揮するチーム、ゲームモデルを基にした戦術や原則を徹底し、自分達のやり方を突き詰めているチームを見てきた。では最後に、これら2つの要素をどちらも含む、一歩進んだ(ことにトライしている)チームを見たい。

4-A 横浜Fマリノス

昨年までのマリノスは速く広く戦う土俵に相手を引き摺り込み、敵陣で2局面を回すことで圧倒する戦い方を突きつけていた。しかし、今年はテンポを落とすことも厭わない。

常に自分達のやり方を押し通す強さがなくなった、ともいうことができる。実際、相手を圧倒するゲームは少ない。しかし、最終的には相手を攻略して逆転勝利、も多いしそもそもリーグテーブルのトップにいる。新しい進化だとも言えるかもしれない。

保持では、後方でテンポを落として、距離感も近く取って相手を釣り出してズレを作ってからの球出しで、幅やライン間に入れたところから一気に加速して少人数で攻め切る。アンデルソンロペスの最大化に成功している。

ネガトラ対策もあるのだろう。チアゴ、高丘、岩田と2年連続で守備陣の要を失っている中で、速く広くを貫けばリスクがリターンを上回ってしまいかねない。

マンツーで相手が嵌めて来た時に苦しむ傾向はあれど、序盤は不安定だった一森の球出しが安定して+1になり剥がせるようになっている。

押し込んだ状態では、永戸の2ー6、2ー8移動も見せ、彼本人や、大外での時間を得るエウベルが質的優位を発揮することはあれど、可変コストに伴うネガトラリスクは内包しており、16節では仲川に何度も突かれていた。

非保持ではハイプレスをさらに鋭くしている。人を捕まえた上で、GKにも西村を中心にした二度追いで時間を奪う。

ハイプレス→ショートカウンターという速さの中の正確性で勝負する、という昨年までの強みに上乗せして、相手を動かす、出方を観察する間を作って攻略する振る舞いも選べるようにする方向へ舵を切っているように見える。

4-B 川崎

段々と非保持の設計へのこだわりを見せるようになっている川崎。彼らの保持は元々、型というよりは高い技術と関係的優位(風間氏の言うところの「目が揃う」)でボールを失わず構築→侵入で狭いところも打開していた。

そしてハイプレスでの即時奪回を取り入れたことで、侵入→プレス→回収→侵入→フィニッシュというサイクルを回してここ数年圧倒的な成績を収めてきた。

主力の入れ替えが進んだ今季はビルドアップの型の整備にトライ。山根を内側に入れることで3ー2を形成。ウイングが孤立しがちでユニット形成が遅れてしまう問題や、怪我人続出によってCBのところで時間を作れない、裏に抜け出す手札を見せられない、深さを取れないといった問題はある。

しかし、徐々に後方から相手を観察して、出し入れしながらプレスを外して前進することが出来るように。崩しの段階での工夫は様々に持っているのでそれらを相手を観察しながら繰り出す。ライン間、幅→ポケット、背中。

非保持では、ハイプレスがかかりきらない場面も多くなってしまう中で、コンパクトに構えることも厭わずに耐えられるようなチームになってきた。直近の広島戦では広島の勢いを吸収しつつ、大島がドリブルを止めたところからの正確なカウンターで決勝点を挙げた。

元々、保持で相手を攻略し、ハイプレスで時間と場所を奪う2局面を回していたが、残りの2局面も必要に迫られて整備していることで、さらなる進化を目指しているように見える。

4-C 鳥栖

近年リーグタイトルを争う2強と同じく、駆け引き・マクロ・ミクロ全てにこだわりを見せているのが鳥栖だ。

シーズン序盤こそ、ビルドアップ時からポジションチェンジを大胆に行って相手の背中を取りに行く先鋭的なビルドアップを見せたが、自分達がカオスに陥り、ハイプレスを前に沈んだ。しかし徐々に落ち着きを取り戻す。

2ー4,2ー3のビルドアップを使い分け、河原の立ち位置調整とパクで基準をズラす以外はあまり可変しない。2ー4であれば中盤2枚がアンカータスクとIHタスクをシェア、もしくはサイドで相手を釣り出して背中側に岩崎や長沼を走らせる。2ー3ー5を形成すれば、小野や富樫が手前に降り前向きの選手を使い3人目が飛び出す、など構築→加速→侵入をスムーズに行う。

そして鳥栖の強みと言えば走力と強度をベースにしたプレスとトランジションだ。この部分の強みを残しつつ、前述のように相手に応じた保持の手札を増やしている。非保持で押し込まれれば、河原が的確にスペースを埋めて対処。

河原を心臓にして、トランジションの速さや強度と言った元々の強みと、金明輝体制から取り組んできた保持へのこだわりを融合しつつある。

5. まとめ

各チームの現状をタイプ別に見てきた。4で取り上げた、横浜、川崎のようなチームになるにはそれ相応の時間とトライが必要になる。4局面に強みを持ち、時間と場所を支配し、駆け引きを含めて相手を攻略する。

そのためには、2で取り上げたように4局面に隙をなくす・テンポと広さを管理する・相手の強みを消しつつ質的優位を発揮する構造を作るといった戦略面の強さを追い求めるプロセス。3で取り上げたように自分達のゲームモデルを確立して原則を徹底的に落とし込み、戦術を突き詰めるプロセス。

アルベル東京は良く言えばリアリスト、だが実際にはどっちつかずで共通の絵を描くことができなかったと評価することが正しいだろう。

どちらのプロセスから歩むのか。理想は3で取り上げたチームのように自分達のスタイルを確立するプロセスを踏みたいのだろうが、人事や選手編成含めて覚悟の必要な選択になる。

長くなるのでここで切り上げ、FC東京についての考察や今後の評価軸は後の記事に回そうと思う。

(京都、横浜FCについては観たゲーム数が少なすぎるので、柏は監督交代でリセットされたので、ここでは触れませんでした。申し訳ありません。)

この記事が参加している募集

#サッカーを語ろう

11,245件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?