10月1日 「とる」ことと「する」こと。

育休をとっていろいろなことがあった。第一の誤算は、育休とればなんとかなるだろうと思っていたが、全然なんとかならなかった。自分は労働法規を超越した場所で働いていて、朝帰りもしょっちゅうだったから、体力には自信があった。他方で激務に耐えるスタミナと、育児に耐えるスタミナは別だったからか、全然なんとかならなかった。激務が短・中距離走だとすれば、育児は長距離走だと思う。まさに足を止める暇がないのだから。

そして一番重要なことは、自分よりももっと辛い、しんどい人、すわなち妻がそばにいるということで、自分は配慮、同情を受ける立場ではなく、する立場にあるということである。この当然のことがなかなかつらい。だってしんどいんだもん。これまで激務は、妻や同僚に「いや~〇〇プロジェクト期間は毎日午前様で本当に滅入っちゃったよ~」などと、愚痴をこぼし、「激務に耐えている自分」をアピールすることで、肉体的にはしんどくても、精神的には安定を保ってきた。

しかし、今はそうではない。知人が産後、父の家庭内序列が3位になるという話をしていたが、言い得て妙だと思う。いやいや、両性の本質的平等というのが日本国憲法24条にあってだな、夫婦というのは対等に支えあって協力していくものだ、少なくとも我が家では・・・と思っていたけれど、つわりをともなう妊娠、そして生死をかけた出産という両性の本質的不平等の前では、男性は無力にならざるを得ない。それでもその両性の本質的不平等を克服しようという試みこそが、「本質的」平等なのかもしれないが、こと妊娠と出産に至っては、圧倒的不平等であって、その克服は非常に難しい。きっと夫は妻のしんどさを完全には理解できないだろうし、逆もまたしかりである。むしろ「自分は妻のしんどさを100%理解している」などとのたまう御仁がいたら、それはおこがましいというほかにない。それにもかかわらず、この両性の本質的不平等を克服しようとする努力は大事である。それがきっと人類の進歩ということなんだと思う。

一方で、自分には職場という別のフィールドがある。そこはもう一つの戦場である。私の勤める職場は、職場全体の雰囲気としては幸いなことに育休に理解のある職場であった(なぜなら部下の育休を承認することが自身への評価につながるから)ので、育休自体を取得することに大きな困難はなかった。しかし、職員全員に理解があるかといえば、そうではない。特に、育休のことを育児休暇と思っている人は、案外多いのではだろうか。正しくは育児休業である。

ところで、まったくどうでもよい話だが、休業はするものであって、とる(or取得する)ものではないから、「育休をとる(or取得する)」という表現はちょっと変な気がする。まぁ現実問題としては、「育休する」という使い方もあまり聞いたことないけれど。なお、育児・介護休業法第5条には以下のとおり、「育児休業をする」とある。

第五条(抄) 労働者は、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。

そして有給休暇については、労働基準法第39条が以下のとおり定めている。

第39条(年次有給休暇) 使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。

有休は使用者が労働者に与える、逆に言えば労働者が使用者から「とる」ものであるのに対して、育休は労働者が「する」ものである。「とる」ことと「する」ことは本質的に異なる。(法律で保障されているにせよ、)有休が恵んでもらうものであるとしたら、育休は労働者の能動的な決断である。

育休といえば、有休(有給休暇)のように軽い響きがあるけれど、なんと言っても「無給」なのだから、重大なことである(ただし、確か半年以内までは、およそ2/3が補填される。)。それでも労働者が「無給」という大きなデメリットを甘受してまで、するのが育休である。なぜか。育児がしんどすぎて、職務に専念できないからである。それが育休である。だから育休が、イクキューという軽い語感のように、気軽にできるようになればいいなと思う反面、その背後には、一時的に育児のために職務専念を放棄するという重大な決断があったということを、本人も周囲を理解するべきであると思う。

一方で、育児経験者と未経験者の相克は、(残念ながら)男女のそれに勝るとも劣らないものである。育児経験者の立場からすると、未経験者に対しては、潜在的に「育児したこともないくせに・・・」、「やったことがないから、どうぜこの大変さがわからないんだ」となってしまう。

ーーーきっと、妻も産後はこんな気持ちだったんだろうな。ーーー

今、少しだけ妻の気持ちがわかったような気がした。


なんだかまとまりのない文章になってしまったけど、今日はひとまずここまで。

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