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第二回座談会⑤富澤豊「馬の結石、虚実と生死のあわい」

かれら:つぎは富澤さんですね。

小野寺:富澤さん大丈夫ですか、いつも遅い時間(収録時は22時だった)まで会社にいますけど、帰れるんですか(笑)

富澤:大丈夫、大丈夫(笑)今、銀座のエルメスでシャルロット・デュマの展示がやっていますけど、これは馬がテーマなんですけど、エルメスというブランドも、貴族に馬具を売っていたところから始まってるわけですよね。そういう単純な繋がりもあると思うんだけど、そこを超えてすごく面白かったんですよね。すこし展示の説明をすると、一階と二階に分かれていて、一階は広い空間で、二階は人が歩ける空間が意図的に狭くしてある。で、二階は馬の生死にかかわるものを作品化したものが多い。これは言ってしまうと、結石なんだよ。これは馬にとって死因になるくらいの病気で、この結石は、ものすごく大きい。つまり馬にとっては死の象徴なんだけど、一方ですり潰して飲むと漢方になる。つまり、人間にとっては生につながるものなんだよね。この関係が、今回『NO PROGRESS』と繋がるところがあるんじゃないかと思った。
それからもうひとつ、最近見た『夢の島少女』は、これをNHKで放送してたのが今では信じられないくらいコンプライアンスとしてはヤバいものなんだよね。この作品はすごく岩井俊二的なんだよね。岩井俊二は、モロこれしかやってない(笑)撮り方も似ていて、この作品の影響力はすごいんだなと思った。作中、馬が登場するシーンがあるんだけど、この馬の登場を境にして、作品が一気に破綻していく。冒頭、浜に打ち上げられた女を男が発見するシーンから始まって、この女の子は作中、生きているふうに見えるんだけど、多分このとき、すでに彼女は死んでる。つまりこの作品全体が、一種の死姦=ネクロフィリアなんだよね。最後のシーンは男と女が〈夢の島〉で縄跳びをするシーンで終わるんだけど、多分全部が妄想で、ある意味、死姦し続ける映像を一時間以上流す。もうひとつ、言い方悪いけど、演技がものすごく下手だよね。それが逆に面白い。今回、かれらはあんまり演技経験がないひとばかり集めたけど、この〈下手さ〉が逆に新しいものを生む。似てるところがあるな、と思ってこの作品を今回挙げてみた。

かれら:ありがとうございます。デュマの展示は、僕も見ました。モチーフが与那国島にいる馬だったりして、僕は素朴に、見ていて癒されました(笑)

富澤:現代だと競馬が好きだったり、馬肉が好きだったりしないと、そもそも馬についてあんまり考えないでしょ。でも今回、20分弱の映像を見ていると、馬にとらわれる。馬って自分にとってなんなんだろうと思ったり、人間の共生のこととか。象徴的だったのが、テキスタイルを被せられた馬の写真があって。これは馬が怪我しないようにという〈いたわり〉なんだよね。そういう美しさにとらわれる。

かれら:僕は実家の近所に馬事公苑という場所があって、そこに10年以上すんでたんですけど、馬が車道歩いてるんですよ。これは『配置された落下』でも書いています。今回の戯曲でも馬が出てきますけどね。『夢の島少女』だと葬式に参列するシーンが入ると、シュルレアリスムのような世界観に入っていく。これはすごい良いなと思いました。僕は映画の撮影法とかに詳しいわけじゃないけど、突然、いつどこなのかわからないふうに突然文鳥が映し出されたりする。それが説明されないというのがいい。たとえば、文鳥が出てきて、そのあとに登場人物が映ることでそのひとの妄想であることや、現実と妄想の主従関係が作られていくというのが一般的なやり方だと思うけど、この映画ではその主従関係自体が存在しない。なにが現実か?なにが妄想か?という構造自体がないから、観客は作品の外に出られなくなっていくんですよね。映像ではショットのモンタージュでそういうことが可能であると。じゃあ、舞台というものがあって、それは現実そのものでしかなく、俳優の身体も目の前にある、というふうになったときに、どうするか。

(富澤さんのテクストはこちらから閲覧できます。)

第二回文字起こし_富澤_ページ_1

第二回文字起こし_富澤_ページ_2

富澤:そこまで意識していなかったけど、そういう曖昧さみたいなものは、かれらの戯曲にはかならずあるね。おれは記録映像で『配置された落下』を4回見た、世界でただひとりの人間だからわかるんだけど(笑)でも、4回見てやっとすこしわかった。『夢の島少女』も、何度も見ることが重要になる作品なんだよね。

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——この不完全に、戦慄せよ。「NO PROGRESS」は、リアルタイムで演劇の制作過程を見ていただくことにより、より制作者に近い観点から演…

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