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ヤカラエビアン

ねぇ。ふと思い出した他愛ない昔話をしてもいいかしら。最初に言っておくけど、オチはないわよ?

あれはボサノヴァを始めた頃…わしはまだ20代じゃった…。いまから20年ま…ごく最近の話ね。


あの日、駅の売店でエビアンを買ってね。
昼下がりのホームは、人もまばらで。
少しはなれたところに、若いヤカラっぽいイカツイお兄さんと、ベンチに座ってる誰か。

のどかだなぁ…


電車が来るまでは、まだもう少し時間があって。

髪が首筋にひっつくくらいには汗ばむ、夏の暑さ。私はエビアンのボトルの、結露した水滴をぴっぴっと払いながら、あけたのね。あけ……

あかない。

……。


あかない。


「かっっった…」
憎々しくつぶやいてキャップをよく見ると、つなぎ目のプラスチックが伸びてる。うん、手ごたえある。あと1〜2回もすれば開くはず。よしよし。

じいいいいっとキャップを観察していたら、さっき少し離れたところに立ってたはずのヤカ…お兄さんが私の隣に立っていてね。

マイルドヤンキーなお兄ちゃん


「あの…。それ、開けましょうか?…ふふっ」

って、ちょ、笑ってんじゃないのよ。

勘違いしないでほしいんだけど、わたし、そんなに可愛い性格じゃないのよね。

や、もうすぐ開くので大丈夫です✋ビシィッ
…って言いそうになったけど、あまりにその、笑いを堪えながら、でもちょっと気恥ずかしそうな姿にきゅんとして、

「ありがとうございます…」
って素直に差し出しちゃったのよ。もう開くんだけど。

「いや…どんだけカタイんだって思って…。ふふっ」

また笑いを堪えるカワイイ顔して、エビアンを手渡してくれたお兄さんは、サラッとまたちょっと離れたところへ行ってしまったわ。


やだ…出逢いなの?🥺
追いかけるべきなの?

いやでも……

……話すことないなっ☆


3分の1くらい一気に飲み干したのは、夏のせいであって恋のせいではないわ。

ありがとうお兄さん。
見た目じゃない。私もあなたみたいに、さりげない優しさを他人にあげられる人間になるね。

どうして可愛かった頃のカワイイ話を今ごろ思い出したのかしら。いまは秋だし、私が今飲んでるの、箱根の水なのにね?

…え?

今でもカワイイですって?
ありがと、知ってるわ。



(イラストはみんな大好き いらすとやさんからお借りしました。ほんとなんでもあるなあ)

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