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月曜日。先週の日記「まるごといっぽんのにんじん」をだらだら書き終える。気がついたら5,000字を超えていた。あ、長すぎるわ…と思ったので、どこから齧ってもにんじんです。にんじんアイランドです。という変な気持ちで変なタイトルをつける。色んな生活を描いたが、1番気に入っている箇所は「今日はブロッコリーではなく豆が入っていたカレーを食べ終えて」という一文。あまりにもどうでもいい…おまえがブロッコリーを食べようが豆を食べようが私には知ったこっちゃないよという感じだ。日記を日記たらしめる一文に思わず気が抜けた。

日記の面白さはなんだろうと最近考えている。今日は「オーライ、オーライ〜」と叫ぶセカンドが突然ライトに捕球を任せる絵がふと浮かんだ。そういえば日記には「何やってんだ!しっかりしろ!」と怒鳴る監督が登場しないなあ。登場するのは変幻自在な球を投げる投手に、エラーばかりする野手たちだ。試合前の整列をする彼らはいつもさっぱりした表情をしている。三塁側に走ったり、トンネルしたり、ツーアウトなのにベンチに帰ったり。これから散々なことを仕出かすというのに、まったくそんなこと気にしていないのだ。ん、もしかしてその自由さが面白さを引き出すのでは…意味なんてあってもなくてもいい。読みたい、書きたい理由はたくさんあっていい。とりあえず早く試合をしたくてうずうずしている彼らに合図を送ってあげよう。

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ブログの楽しさについて考えていたこともある。去年の秋頃だろうか、宇宙からやってきた女性が「アルバム作るの、きっと豊かで楽しいと思うよ」などと言いながら焼きそばを食べている場面に遭遇したことがある。
ほう、と思った。アルバムといえば、うたを歌ったり、写真を撮ったりを想像していたが、ブログでもできないことはないなとそのとき思った。

一緒に音楽をやっていたともだちが、たまに夜中にデモを送ってくる。せっせとアルバム制作に励む人たちに紛れて僕も執筆を続けている。コンセプチュアルな作品かどうか、という点においてはそれこそ「意味」が内包されるのかもしれないが、ひとまずそれは置いといて何かしら書いていたい。今日はそんなことをひたすらに思う日だった。明日になったら「にんじん」を投下しよう。もしかしたら嫌いな人が多いかもしれないなあ、茄子に変えようか…などと考えているうち夢の中に到着した。


火曜日。お菓子になるなら何になりたいか考えていた。好きなお菓子ランキング1位は「じゃがりこ」だけれど、「じゃが、じゃが、りこりこ、じゃがりこっ!」のリズムで食べられたらなんだか泣けてくる。あまりにも早い一生である。ならば耐久力のあるガムなんかはどうだろう。飽きられる恐れあり…か。いっそのこと高級ケーキはどうだろう、買ってもらえないまま廃棄されるだろうか…うむ、それは1番嫌だ。できれば程よく味わってもらえて、美味しく完食されるお菓子になりたいものだ。

そんなことを考えながら缶ビール片手に柿の種を食べていると、声が聴こえてきた。「あんさん、最初は味ちゃいまっせ〜」ハッ!この声は…柿ピーの神様!「まずは棚に陳列されること、パッケージのデザインで目を惹くことが大事やねん」「分かる?わしも最初からピーナッツくんと仲良うしとった訳ちゃいますねん」は、はあ…いやでも確かにそうかもしれない。食べてみるまで味は分からない、表面的なものに惹かれて買ってみるのが常だ。「最近はチョコでコーティングされたり、わしもわしで大変なんやけどな」そうなんですか…「だからまあ上手いことやりなはれ。変わらない味、目指しなはれ」そう言って柿ピーの神様は消えていった。

味じゃないのは最初だけ、分かっている。しかし、その最初が難しいのでは…どうやったら棚に陳列されるお菓子になれるのか。世はインスタント、消費、誰時代。柿ピーの神様は商業的に成功したがゆえに、チョコをかけられて自分を見失っている現状が嫌なのだろうが、僕にとってそれは遥か遠い未来の悩みでもはや羨ましい。それにしても、上手いことやれるほど僕は正直器用ではない。それでも、どんな形のどんなお菓子でもいいから早いうち棚に座らなければとも確かに思ってきた。お菓子になることを考えていると、やることが自然と見えてきて焦った。曲げずとも折らなければならない気持ちがたくさんあることにまで気付かされてやるせなかった。ただの妄想が…柿ピーの神様のせいで…うう、頑張ろう。


水曜日。折坂悠太の新曲「スペル」が最高だった。今月末にリリースされるニュー・アルバム『呪文』には、そっと大切にしたくなる魔法の言葉たちがたくさん詰まっているのだろうなあ。栄養、ええよ、ディダバディ、ディダバディ。ついでに夏が待ち遠しくなってきた。芍薬の雲の下、呪文を口ずさみながら過ごそう。

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今日は警察署に行ってきた。そのことを友人に話すと「なんか悪いことしたん」と返ってきた。「そうそう。自首しに行ったんやけど、なんか帰してもらえたわ〜」平和な会話で満たされる平日の昼下がり。帰り道、スーパーマンみたいなカメみたいな雲に遭遇した。それにしても免許更新、早く行かないとなあ…

ところで警察署に向かう途中、中学生の頃の将来の夢をふと思い出した。そういえば警察官だった、正確には「白バイ隊員」と言っていた気がする。「密着警察24時!」の見すぎだろう。大学生の頃、夏祭りなどで2回ほど「君も警察官になろう!」的な募集チラシを貰ったことがあるが、そのときは何とも思わなかった。今日、警察署に入ったときのキビキビした空気感に触れて、やっぱり格好良いなと少し思った。しかし今からでは遅いなとも感じてしまった、これは歳の問題ではない。真面目だった中学、高校時代の自分ならまだしも、現在の自分ときたらもう…ふらふらだ。こんなにキビキビ動けない、大きな声もろくに出やしないだろう。ああ…白バイ隊員の俺よ聴いてくれ、こんなはずじゃなかったぜ。そんなことより免許更新、早く行かないと本当にまずい…


木曜日。「いいね」が見れなくなったと聞いた。そんなことはまあどうでもいいのだが、「いいね」を「ええな」に変えてくれないだろうか。いいね!なんて日頃言わないし、使わない。「ね」と相槌を打つだけでしばかれる都市もあるのだ。メールも通知も全部標準語、たまには画面のなかにも西の風を吹かせてくれ〜と思う。
いや、やかましすぎる気がしてきた…やっぱいいです。

ところで、「いいね」の数がどうたらこうたらで、承認欲求がどうたらこうたらみたいな話を聞いたことがある。気持ちは分かる、それはきっと目に見えるものに安心を抱くからだろう。しかし、待てよと思う。そもそも「いいね」も「ええな」も要らないのかもしれない。自分がこれで「ええねん」と思えたらそれだけで素晴らしいのではないか…とはいえ資本主義社会、数字がものを言う世の中でもある。僕は火曜日の日記で、お菓子になることを考えていると書いた。「いいね」が付き纏う世界で生きていこうとしているのだ。くだらないなあと思う、本当にそう思いながら生きているというのに…ぼちぼち両足を踏み入れようとしている。今ならまだ引き戻せると思う。企業に勤めてアーリーリタイア、自然豊かな場所でのんびりライフ。夕方には仕事を終えて、縁側で桂馬をにょーんと動かそう。そんな地図を広げるのもありだ、いや、大ありだろう。

東京で暮らしていると、無性に気だるくなることがある。全世界へ、いざ発信!が色んな物事の根底にある気がする。これも大事なことだと思うが、実際は頭の中でだけ考えていればいいことだと今の僕は思っている。SNSの使い方も正直まったく見えないし、生意気にもバズりたくない理由がある。性格からしても、もう少し落ち着いたやり方を模索したいのだ。甘えているだろうか、恵まれているだろうか。5年後の自分はどう思っているのだろう。これから生きる世界は、あまりにもどうでもいいことが多すぎる。もしかしたらそれは、どうにもならないことなのかもしれない。だるい、つまらん、くそったれだ。


金曜日。よれよれのスラックスに夏っぽいイラストが描かれたダサいTシャツ姿で飲みに出掛けた。今日は起きたときから飲みに行くと決めていたので、服装によらず気合いは十分だった。店に入ると「お!夏だね!」と言われた。Tシャツに棲むサングラスをかけた人々のせいで、夏が来たと思っている人に見られたようだ。しかし、実際はまだ来ていない。例えば、透明少女のイントロがまだ鳴ってないことがそう思わせる。夏を感じる瞬間はこれから爆発的に出てくるだろう、勝手に気持ちが高揚するあの暑苦しい瞬間が。来たる夏に備えて補充するロマンは今日もキラキラ輝いていた。


土曜日。考えてばかりでまったく動けなかった今週を反省しつつ、今日は二日酔いでなお動けなかった。頭がガンガンする…頭痛薬と胃薬を飲んで再び眠る。夢の中で何かを書き殴っていた。起きると変な汗をかいていて、何を書いていたかは思い出せなかった。太陽の光を浴びないで夜を迎えたことに絶望しながらコンビニに向かう。「ガツンと気合いを入れるぜ」カツカレーと「これから夜更けなんて知らないぜ」コーヒーを買って、部屋に戻ってやっちゃいけないことをする…これすなわちカレコセットだ。目が覚めたところで、現実でも言葉を紡いでいく。結局、何が書きたいのか分からないまま朝がやって来た。そろそろ寝ようと目を瞑って思い出す、そういえば今日は給料日だ!少ないけど、いつも嬉しい。起きたら美味しい珈琲でも飲みに行こうか。


日曜日。ライブのリハ終わり、本番まで時間があったので、トロワ・シャンブルで美味しい珈琲を飲んでいる。友だちがずっと鶏肉の調理法について語っていた。今このタイミングでする話かなあと思いながら「フォークでプスプスやったりするやろ?」などとテキトーに相槌を打っていた。下北沢は賑やかで、今週の自分にはとても追いつけない時間の流れ方をしていた。早く家に帰って漫画でも読みたいなあ…という気分。ライブは全然ダメダメだった。

2024.06.10~16

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