ピュアなエールに乗っかれるのは一握りの人間だけでは。そしてドラマは予算ではない(蜷川実花『FOLLOWERS』)

Netflix最新オリジナルドラマ、『FOLLOWERS』を全話観ました。ネタバレありの感想です。辛(から)くなる予定なので凄く良かった、大好きだった人はお控えください。

本当ごめんなさい、お金を大量に注ぎ込んだ、とってもつまらないドラマでした。Netflixって予算が凄いから凄いんだと思うけど、やっぱ予算じゃドラマは作れないんだな。最後の方観るのしんどかった。

ただ少なくとも、作者がものすごく「女の子を応援したい」というシンプルなエールを送っているのはよく分かる。ピュアにそのエールに乗っかることができる女性も一定数いるのだろうし、何というか、シンプルすぎて突っ込みどころ満載なんだけど愛らしい、みたいな気持ちにもなれる。それくらい真っ直ぐに「頑張れ女の子!」なのである。その点においては椎名林檎の作曲モチベーションと完璧に一致なのだろうなという感じ(関ジャム・椎名林檎回参照)。

赤の強さ、東京のギラギラ感、まあもう面倒だから言っちゃうけど「蜷川実花」感についてはもう好き嫌いでしかないよね。私には東京があんなにギラギラしたところに見えたことがないし、セレブリティの生活を何時間見せられても羨ましくも煌めいているようにも特に見えないから合わないのだけど、あれは本当に個性の域なので世界観について「時代錯誤だ!」みたいな批判はお門違いかなと。バブルじゃなくても常にギラついた世界があるという前提で進んでいくのが蜷川実花ワールドなのでしょう。でもよく考えると目は飽きないし楽しいのか。ドラマで何度も出てくる部屋がつまらないと目が飽きちゃうことも、あるかも知れないし?

あとここも「蜷川実花らしさ」なのだろうけど、男の体をエロく睨め回すの苦手すぎる……。ちょっと不愉快なレベルで笠松将の身体が何度も出てくる。好きな人が好きなのは分かるけど、私はちょっと居心地が悪いです。これも好き嫌いですね。

それはともかく、私にとって決定的に「Not For Me」だったのが台詞。正直言ってちょっと考えられないレベルで台詞の質が低いと思う。えっと、あなたも、私も、その台詞、今まで何回聴いたかしら?という手垢に手垢の重なった早くエタノール消毒したくなるような(あーすいません時期柄)言葉の連なりに本当に耐えられない。

ねえ、「働く女性」の形容詞って「バリバリ」しかないのかしら?その他の形容詞は死滅したのかしら?初回から最終回に至るまでで一体何回「バリバリ」言ったか数えたりたい。バリバリバリバリうるさいんだよ、バリバリ鶏か。いやいいんですよ、日常生活で使うには一番便利な言葉の組み合わせで齟齬が起きない分かりやすい表現だと思う。でもこれはドラマだから。台詞には色んな表現の可能性があって、その可能性の中から「そのキャラクターに」「そのシチュエーションに」「その映像に」一番合った、観ている人に届く素敵な言葉を選んでほしい。それがドラマじゃないのか。絶望。

冒頭の方はあんまり台詞も気にならなかったのだけど、そこで思いっきり「昨今のドラマの台詞は手垢がついてばかりで、ヘッ」みたいなことを言ってたんですよね。びっくり。おだまりになればという感じ。どういう心境で言わせてるのかちょっとよく分からないです。その時は普通に受け入れてたんだけど。

ドラマの地の台詞は酷かったけど、「台詞の台詞」だった『食べ物を残す人は、信用できません!』が一番良かった。

そして話題となっている、「女の幸せも仕事もどっちも」の時代性について。監督としては、育児と仕事の両立について悩んだ自身の体験を描くことで、世の悩む女性にエールを贈りたいのだろうけど。残念ながら今って「I LOVE MY JOB!!!!!」な状態と育児を両立したい人たちよりも、「正直言って働きたくない」でも働かざるを得ない&育児な人たちの方が多いのでは。もちろんその間に中間層がいるわけでだけど、後者に寄った議論が色々と交わされるのが昨今。このドラマに出てくる女達は強烈に仕事を愛していて、それはもちろん素晴らしいことだし輝かしいことなんだけど、まあ大抵はそうじゃない、という。

ドラマの女達は全くお金の話をしない。相当稼いでたってあんなに派手な生活してたら案外貯金とかないのかも知れないけど、あくまで「愛と情熱を注ぐもの」としての仕事しか描かれず、「生活のための」仕事は描かれない。池田エライザのサクセスストーリーの前半部分、オーディション受けながらバイト、がそこを多少補ってはいるけれど、一度成功して以降はもう語られない。描かれないこと自体は別に批判するべきことでもないと思うし、そういう作品としか言いようがないのだけれど、結局「古い」と言われてしまうのは目が向いてるのがあくまで仕事情熱な女だけだから、なんだろうな。

もっともっと地に足がついたところでジレンマに陥ってる人たちからしたら、実家から母親ががっつりサポートに来てくれて、さらには夫よりも物理的に遥かに頼りになる(どんなに素晴らしい夫でも、仕事中まで子供の世話してくれることはない)ゲイのサポーターがいてくれる状態なんて全く贅沢極まりない、とならざるを得ない。作品としても監督自身の経験としても全然いいのだけど、あまりにもエールになりづらい構造じゃないかと。片手間だろうと何だろうと生計を立てて育てなきゃいけない人間からしたら、「片手間であること」に悩めるなんて羨ましいだけだよね。

あとやっぱり女を救うのは結局は男、というのが強くあるんだろうなと思いました。これだけ女性のキャラにバリエーションがある中で、ほとんど男に救われて生きるという結論。恋愛、結婚、ゲイの友人、息子。どんな関係性であるにせよ、ほとんどのキャラクターが男に救われて笑顔を取り戻す。逆に言うと、男には「女の救いになる」存在価値しか見出してないんだなあ、とも思います。夏木マリの息子に「バリバリ仕事やってるお母さん、かっこいいにきまってんじゃん!」と泣ける(泣けない)激しい自己肯定台詞を言わせるとか、あまりにもキャラクターの生き方や言葉を無視したご都合展開で酷いなと思う。さらに残念なのは、シングルマザーとして生きようとする中谷美紀も最終的には浅野忠信の父性に救われて終わるオチ。結局は「やっぱりお父さん(的な存在)がいた方が幸せ」を映してしまうんだなあ。うーん。

男と女の関係性の理想像にも入り込めなかったな……。笠松将の夏木マリぞっこん、どういう気持ちで見ればいいのか最後まで分からず居心地悪かった……。夏木マリ最高!なことには私も全力で同意なんだけど、若いイケメンがあそこまでピュアピュララブでやってくるって、どうにも現実味がなさすぎて……。いや、世界のどこかにはあるのだろうけど。あるのだろうし、実際にピュアピュアな年の差カップルを否定するつもりは毛頭ないのだけど、夏木マリだからってすんなり受け入れるの難しすぎる。設定が常識から飛んでるからこそ、二人のエピソードがもっと丁寧に描かれてたら惚れていくさまに感情移入できた可能性はあるのかも。

まあ色々言ってしまったわけですが、蜷川実花ファンがその世界観に高揚するためのドラマだったと思えば全てすっきりします。好きな人は好きなのでしょう!そんなことより川谷絵音最高だったよね。あれのためだけでも観てよかったー!

書き忘れ
・YouTuberは最初「楽な職業でいいすね」煽りを受けていたけど、結果的に地味地味なPC作業頑張る淡々とした設定で良かった。面白い。
・sayoの年齢不詳感がまたどうにも居心地が悪かった。アダルトチルドレン?ピーターパン症候群?って言うのかな、喋り方が子供染みすぎておかしいし、実際おかしい設定なんだろうけど「メンヘラである」以外に全く説明がないのでただただ居心地が悪い。sayoについては誰か説明してほしい……。
・女の生き方についてもっと時宜にあったものをみたい人は是非『問題のあるレストラン』を観て!何と5年前のドラマですが、今行われている議論(モラハラ夫・社長のセクハラ・育児は誰の仕事・名誉男性化した女・セクハラ訴訟の困難)と物凄くリンクしています。FODで観られるよ!
https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4629

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