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ひと手間加えたデザインで芳醇な人々の関係性を作り上げる

熊本大学横にリノベーションを施し、装いを新たにした文房具店があります。

カフェのような雰囲気を持つその場所に置かれた什器は、量産型の既製品でした。

卸売業においてその主役は、やはり商品であるためそれは仕方ないことなのかもしれません。

このお店でも什器の存在は溢れ出す文房具によって輪郭を失い、竣工後すぐのカフェのような雰囲気はどこか薄れてしまったように感じます。

何気ない什器の備えが建築空間における雰囲気を形成するものであることをこの場所でまじまじと見せられたのでした。

そんな文房具店にひと手間加えたデザインを施すことで空間の持つ雰囲気を再び呼び起こす什器を提案しています。

何気ない什器にひと手間加えるだけで、そっと主役である商品とそれを取り巻く空間を引き立てるような存在となるデザインを目指しました。

この什器はUlm stoolから形態を参照した手触りの良い木材で作られています。

背板を必要としない30mmの厚い板材による構造は什器を通して方向性を強調し、さねを用いることによって棚板を引き出すことを可能としています。

このひと手間は単にレールを取り付けることでは得難い雰囲気を醸し出すものになるのです。

このようにいくつもの手間が相互に作用することで熟成していくデザインとなっており、什器の存在は空間への輪郭線を強調し、分散して配置された背板のない構造はいろいろな方向へと意識を拡散しながら回遊性をもたらします。

そして背板がないことでどちらの方向へも引き出すことができる棚板は陳列においてフレキシビリティを獲得することができます。

ひとことに家具デザインと言っても、その意味するところはとても難しいです。

家具デザイナーから見た家具は、素材の扱い方から詳細の納まりなどの微細な視点を持っているのかもしれません。

インテリアデザイナーから見た家具は、内装のデザインとの調和を促す形で直感的に魅力的に感じるかという感覚的な視点を持っているかもしれません。

建築デザイナーにおいても違う視点からのデザインの評価はあると思っています。

それぞれがそれぞれの視点を持ち、価値の意味するところが違う中でどのようなデザインを打ち出していくのかということはとても大きな問題となります。

今回はそのような自分たちの視点を模索しながら行ったプロジェクトととして、建築的な空間構成にも関わりながら直感的な魅力と詳細の納まりが程よいバランスとなることを目指したデザインとして紹介をさせていただきます。