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酒場の記憶は忘れても、一緒に呑んだ相手への愛着は忘れない

僕は、お酒が好きだ。

酒場という空間が好きだ。

今まで居酒屋の接客業を10年以上やってきたのは、「酒場に集まった人々が醸し出す雰囲気を側で感じたかった」という理由が大きい。

酒場にはクセの強いお客さんがたくさんいるし、人の個性を垣間見ることができて、義理と人情に溢れているから。

新潟で働いてた時の写真

僕ら人間は酔いが回ると、一般的には『共感能力』が低くなって、他者の気持ちに鈍感になったり、自分の言ったことが周りにウケるかどうか?が分からなくなる。

要は、スベりやすくなるわけだ。

酔っ払っている人同士で盛り上っているけれど、シラフの人からしたら何も面白くないよ〜という場面に、多くの人が遭遇した経験があるはず。

ただ、僕は今までたくさんの酔っ払いさんとシラフで接してきたけれど、それはそれで楽しかったなぁと思っている。

色んなクセを知ることができたし、酔っ払いさんの行動は僕の想定を必ず超えてきて、『より、やわらかくなること』ができたから。

居酒屋で長年働いたことで、「こうゆう人もいるよね」と受け入れる許容範囲が、大きく広がったのは間違いない。

朝6時まで働いて、8時までやってる居酒屋に飲みに行って、2件目に24時間営業の店で飲んで、3件目にカラオケに行って飲んで、少し寝てからまた居酒屋に出勤する。

・・・みたいなことをやっていた、僕みたいな人もいるよね〜、と。

ただし、「酔っ払ったから」と言って、お酒の責任にできないこともある。

たとえシラフであっても、酔いが回っていても、お酒の力で人の『倫理観』が変わることはないからだ。

例えば、酔った末にお店のトイレを汚しまくって、そのままにして帰るようなお客さんは、日頃から周りの人を雑に扱っていたり、「自分が立場的に上なんだから」という横柄な態度を取っているはず。

酔って暴力を振るってしまう人は、普段は隠している自分の暴力性を、お酒の力を借りて開放しているだけだったり、言いたいことを本人に伝える努力をシラフの時に怠って、酔った勢いに任せて暴れることで、相手をコントロールしようとしているのかもしれない。

…その反対に、酔ってもお店の人への感謝を忘れなかったり、周りをよく見えている人は、日頃からそういうことを大切にしている人だ。

シラフの時の倫理観と、酔っている時の倫理観に、お酒の影響は関係ない。

『倫理観』は、お酒に頼って変えるものではなく、自らの意志で、行動と認知によって変えていくものだと思う。

・・・ところで、僕は今まで、店員としてもお客としても色んな酒場の雰囲気を味わってきたのだけれど、「いいお店だなぁ」と感じる基準は、『倫理的な文化』が醸成されているかどうか?にあると感じている。

『倫理的な文化』というと堅苦しいけれど、要は、酒場の醸す雰囲気が「そこにいる皆にとって温かいか?」ということ

一部のお客さんだけが楽しそうにしていて他のお客さんが楽しめていなかったら、その酒場は冷たいし、店員さん同士が仲良くしゃべって働いているのは一見すると温かいけれど、その内輪だけで楽しんでお客さんの居心地に注意を向けていない酒場は、とても冷たい。

『文化』は一夜にしてできるものではないからこそ、日頃から、その酒場にいる人(店員もお客も)が「何を大切にしているのか?」「誰を想っているのか?」が如実に現れる。

「自分のことや、自分に利得がありそうな人にだけ温かいお客さん」ばかりが集まるお店は、最初こそ酒場が盛り上がって温かくなるけれど、気づかぬうちに『ウチとソト』が出来上がり、ソトの人がウチに入ってくることはなくなって、持続しない。

利得を用意した時だけはソトの人も入ってくるけれど、その人の目的は利を得ることだけだから、「安い!」とか「お得ですよー!」といった目先の利得を用意し続けなければならなくなる。

酒場の「値打ち」が下がり続ける一方で、その空間の「価値」が高まらない。

ウチ側にいる店員や常連が謙虚さを忘れてどや顔をし出し、ソトの人が入る余白を潰してしまえば、そのウチ側の円(縁)はこれ以上大きくならないし、萎む一方だ。

酒場の雰囲気が『醸される』ためには、人と人の温かな交流が生まれるのはもちろんのこと、その温かさの中心にいる人物が、周りにいる人の個性と自然に結びつくことが必要だと僕は思う。

そこを結ぶのは、例えばスナックのママであったり、店員さんであったり、僕ら人間の人柄や活き活きとした思いやりだ。

日本酒が醸造される時だって、原料となるお米に熱を加えて蒸してから、麹や酵母といった個性的な微生物と化学反応を起こすことで、時間をかけてアルコール発酵し、お酒が醸造されていく。

お客さんや店員が「お米」だとして、そこに温かな交流がどれだけ生まれても、酒場の中にいる他の人(お酒の醸造で言えば「個性的な微生物」)と繋がることができなければ、温かな雰囲気が醸成されることはないのだと僕は思う。

・・・酒場とは、人と人の結びつきを強くし、温かな繋がりが育まれる空間。

僕がお酒を好きなのは、酔うためではなく、酒場に醸される温かな空気感に浸りたいんだ。

(幸せすぎると、酔っちゃうんだけどね…)

酒場にいると、僕の感受性も研ぎ清まされるから好きなんだ。

だからこそ、「定期的に呑める居場所があったり、サシで呑みに行ける相手がいるかどうか?」が、僕にとってはすごく大事。

今まで通った酒場で、酔って忘れた記憶は数知れないけれど、「その酒場で一緒に呑んだ相手のことがスキ」という愛着だけは、お酒と一緒に身体へ染み込んでいる。

お酒はやがて分解されるけれど、その大切な記憶だけは、温かな優しさとなって僕らの繋がりを深めてくれるんだ。

・・・今、酒場は大変な苦境に立たされているからこそ、お客の僕らが倫理的な行動を取れるかどうか?がカギになる。

自分にとって身近にある酒場が、今どんな苦悩を抱えているのか?を、想像し、自分にできることを精一杯やっていきたい。

・・・読んで頂きありがとうございます(*^^*)

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【軟水のたそがれ】
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このnoteは筆者の思想を深堀りするエッセイです。
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