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母からの手紙と、教室でウケなかった名前の由来。#292

「ほんとうは女の子が生まれてきてほしかったので、名前を全然考えていませんでした。」

からはじまった母からの手紙。それは小学校2年生の時。ちょうど一週間前に先生から、

「来週の宿題は、あなたの名前の由来について、ご両親からお手紙として書いてもらってくること。当日みんなで読むので、絶対、先に見ちゃダメだよ。」

って言われて、まだ少しだけ残されている素直さを存分に発揮したぼくは、一度も手紙を開くこともないまま、当日その場で、朝に母親から渡された手紙を、みんなの前で読みはじめた。そんな、最初の一文。

母よ。たしかに、「正直であれ」といつも言ってくれていたけれど、そこは正直になっちゃいけないとこだよね。

っていうか、昨日、すぐに破れる餃子の皮の薄さに荒れ狂っていたのに、この手紙、薄皮一枚すら包まれていないやん。

どこいった薄皮。

とりあえず自分が発した一言にいつもの数倍はメガネの奥の瞳を大きく見開く先生。その表情を見て、凍りつく生徒たち。生まれて10年以上経ってから、生まれてくる性別に誤りがあったことに気づいて、凍りついて言葉を失う本人。

そのあとは、なにを話したか覚えてないけれど、なんかいろいろあって、父親の文字をもらう形で、無事、自分の名前は決着がついたらしい。

書き出しの最初のインパクトが重すぎて、もはや父親から託された文字の理由は、軽いまま、ふわふわと記憶から飛んでいった。

帰って教室のみんなの反応を伝えたら、その場で解凍しようとしていた凍ったままの鶏肉をわしづかみにしながら、「ウケなかったのね。。。ごめん。。。」と、その場で凍りついた母だけ、よく、印象に残っていたりする。

「もう一度、関西で出直してこないとね。」と、岐阜に引っ越す前の関西に期待を寄せていたけど、たぶん、問題はそこではない。

読んでくれたかた、ありがとうございます。その後何十年と母親をいじるネタに使えるようになったことを思うと、あの時すべっておいて良かった。


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