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一生禁煙

4年半前に何度目かとなる禁煙を始めた。禁煙ガムも、飴禁煙法も、禁煙の本も試した。禁煙パッチもやってみたが挫折した。


結局禁煙は意思ひとつ、癖を治す行為なので、代用品では効かない事がわかった。4年半前にやったのは単に吸わない禁煙方法だった。相当の硬い意思で臨んだわけじゃなく、ある日ふと禁煙しようと思い立って灰皿を捨てた。南部鉄器の思い出のある灰皿も捨てた。思い出のライターも残っていたタバコも捨てた。無心で全部行った。48時間か72時間さえ超えれば最初のニコチン中毒は消えると信じた。


残すはタバコを吸うという癖だ。これが厄介なのだ。癖をそんなに直ぐに治せるはずも無い。これまで飴もガムもダメだったから購入さえせずに耐えた。吸いたくなったら深呼吸をするという方法もやってみた。その数分間、水分を摂るなど、とにかく気を逸らせた。時にはタバコを吸っていた台所の換気扇の下に行って換気扇をまわしてジッと深呼吸をした。面白いもので数分間耐えるとタバコを吸わなかったという充実感が得られる。3日程経つとこれで吸ったら勿体ないという気持ちが湧いてきた。1週間が過ぎ1週間も吸わなかったと思え、私がいつもつまずいていた1年半の厄日も超えた。


一度も吸いたいと思わなかったかと質問されたらそれはノーだ。吸いたいなと、何もない所でタバコの匂いがする時もあったし、癖になっていたせいか無意識で換気扇の下へ行き換気扇を付けてハッとしたこともあった。それでも直ぐに手に届くコンビニにやドラッグストアに行ってもタバコを買う事はしなかった。もうこれは意思から意地へと変わった瞬間だ。


そのうち忘れていた正常な味覚が戻り、糖質制限を始めたお陰で味覚がクリアになった。味覚が繊細になるとヤニで口の中が汚れたり、ふわりと漂ってきたタバコの煙にも過敏になった。もうタバコの匂いが臭くて臭くてたまらなくなった。咳き込むし気持ち悪くなって胸が苦しくなった。


しかし4年半経っていても吸いたいと思うのが不思議だ。吸ったら咳き込んで気管支炎喘息の様な発作が起きることも予想できる。そんな苦しくなる物を、百害あって一利なしと言われているタバコに手を出す方がおかしいと思うせいか、留まれている。この4年半でどんなにイライラする事があってもタバコで解消しようとは思わなかった。それでも一度タバコを吸って禁煙した者は、一生禁煙と言われてる事がわかる。もう身体のどこかにタバコを吸ったという事実が刻まれてる様だ。


私の目の前で吸わないで欲しいだけで、夫や他人がタバコを吸おうが構わない。だけど夫がコソコソ吸っているのはずっと前から知っていた。妻の勘ってやつだ。

最近帰宅すると変な匂いが頭からするから気になっていた。香水なのか消臭スプレーだか判らない様な、複雑で嫌な匂いをさせていた。

私は臭い臭いとハッキリ言えるからいいが、人様に迷惑をかけるのは最低の行為だ。特に女性が多い職場。どうしたものかと考えて、夫が大事にしていたタバコが入っているだろうポーチを隠した。


その朝、何やらゴソゴソと探し回っていたみたいだけど知ったこっちゃない。申し訳ないが、隠し事はもう耐えられない。吸ってはならぬと言ってないのだから。というわけで帰宅後に話し合いを(非常に面倒くさいのだか)行うことにした。


何か言うことはない?


「あのポーチのことでしょ?」


もう散々色んなことで喧嘩してきたせいか、今更喧嘩する元気はない。口調もいつも通り、穏やかに話をした。


「つまちゃんが禁煙できてるのに悪いなと思って黙ってて申し訳なかった。」


話しているうちに夫が吸っているのは電子タバコというものだった。

4年半前に電子タバコが出始めたかどうか位の時期に禁煙したので、私は電子タバコという物がよくわからない。よくよく説明を受けると煙が出るだけで、火も着かなければ灰も出ないという。匂いもそれほどしない。


ではあの頭部から臭うのは何なのだろうか。


夫がわからない事が私にわかる筈もなく、今回は電子タバコを吸っているのを黙っていて申し訳なかったという話し合いで落ち着いた。匂いは加齢臭というわけでもないので、今後気を付けて原因究明していくことになった。ということで、夫の電子タバコ喫煙は容認した。


私は何があっても禁煙した以上一生禁煙だと心に刻んでいるし、やめた事で吸いたいという気持ちも時間も手放せて良かったと思っている。

ちなみにタバコをやめてその分のお金が浮いたかという疑問があるが、残念ながら全く浮いた様な感覚は無かった。これはとても不思議である。

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