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井伏鱒二「黒い雨」

井伏鱒二著の戦争文学「黒い雨」を拝読した。久々に「自分の生き方はこれでいいのか」ということを考え直させられた。


この小説の題材は、広島原爆罹災者の体験談である。はなしは、姪である矢須子の婚姻がなかなか決まらないところから始まる。健康に特に問題はないものの、黒い雨を被った姪。恐らく、そのことが婚姻のネックになっているのだろう。

彼女の健康を見合い相手に証明するために、主人公の門間重松は日記を清書し始めた。その日記から、終戦間近の広島と人々の様子が再び描き出される。日記の清書する現在と日記の中の過去の話が同時進行的に進んでいき、8月15日の清書を終えたところで物語は幕を閉じる。


数多い、終戦間近の広島の惨たる描写のなかでも、特に印象的だった部分がある。

自分の息子が瓦礫の下敷きになり、助けようとするものの三方から迫る火に、救助をあきらめ逃げた父と、その後、奇跡的に自力で助かった息子との再会の場面だ。


私は、己が生きるためなら息子を犠牲にしたって構わない戦時下と、身内のためならいくらでも冷徹になれるコロナ時代に、何かしら通底するものがあるように感じた。


ウイルスとの戦時下に在る現在、過去の戦争から生まれた「差別」と「エゴ」について、もう一度振り返ってみてはいかがだろうか?


過去を知ることは未来を知ること。きっと、「自分は今、どう生きるべきか」を、見出だすことができるはずだ。



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