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お客様からの究極の質問

営業の現場でよく聞かれる質問の一つに以下のものがある。

よく御社と比べられる競合製品はどんなものがありますか?

これにどう答えるかが非常に重要だと最近強く感じている。皆さんの会社は、自社の製品・サービスがどの会社の製品と競っているのか、明確に把握しているだろうか。

そもそも企業が売上を伸ばすにあたって、マーケティングはとても重要な役割を担う。特にSTP(Segmentation, Targeting, Positioning)の検討は事業戦略そのものだと思っている。

入山教授の名著「世界標準の経営理論」のSCP理論パートで言及されているように、競争戦略においては「自社の競争環境を完全競争から離し、独占に近づける戦略」が望ましい。それを検討する際の一つのヒントとなるのが戦略グループという考え方だ。これは自社と競合他社をいくつかのグループに整理し、グループ間の違いを明らかにするという考え方だ。例えばスマホという製品で言えば「一般向け」「産業用」「シニア向け」「キッズケータイ」などに分類することもできるし、「ハイスペック」「低価格」「特定用途」などと分けることも可能だ。

このようにグルーピングすることにより、市場を分解することができる。この際、よりマーケットボリュームがあり、かつ競合が少ないグループを見出すことができれば、魅力的なセグメントを独占する可能性が高まる。

そして冒頭のお客様からの質問は「自社がどの戦略グループに属しているか」を問われていることに他ならない。

弊社の例で言えば、チャットボットの会社として自社を位置付けてしまうと、競合は無数にある。しかし「精度の高いAIチャットボット」というポジションに身を置けば、競合は絞られてくる。或いは「CS特化型チャットボット」と言えばマーケティング用途のチャットボットなどは競合から外れる。そしてお客様もそれを聞いて改めて我々の製品がどういうものなのかを再認識することになる。もしかしたら、「あぁ、そういうところと比較される製品ということはうちの目的には合わないかもしれないな」と思われるかもしれない(もちろんその逆も然りだ)。

どのポジション(戦略グループ)に自社の製品を位置付けるかによってターゲット顧客もマーケティングメッセージも売り方も全て変わってしまう。もちろんプロダクト自体に求められる要件も変わってくる。つまりSTPおよび4P(Product, Price, Place, Promotion)の全てがポジショニングによって規定されるとも言える。それほどポジショニングは重要な概念だ。

iPhoneがいい例だろう。それまでの携帯電話は主にハードウェアのスペックや機能で競争していた。そこにソフトウェアを持ち込み、「スマートホン」という新しいポジションを作り出してしまった。後にGoogleがAndroidを投入し、それは携帯電話市場内の一ポジションから新たなスマートホン市場に成長した。

このように「お客様がまだ気づいていない新しい価値」に基づき自社のポジションを規定し、そこで他社が(その時点で)真似できない強みに基づいた製品を投入することができれば、一時的にせよ独占状態を作り出すことができる。そのようなポジションを見出す作業は、まさに事業戦略そのものだ。

そしてこれはセールスパーソンの間では割とメジャーだと思われる「チャレンジャー・セールス・モデル」の主張そのものだったりもする。同書はセールスパーソンを5つのタイプに分類し、その中でもチャレンジャーというタイプが重要だと説くエンプラセールスにとって示唆深い名著だ。

チャレンジャータイプの営業はお客様を「指導」し、お客様固有の状況に「適応」し、商談プロセス全体を「支配」するという。この指導とは「お客様のビジネスに関する独自の視点を提供し、その視点を熱意をこめて的確に伝えることで、顧客を会話に引き込むこと」だという。ここでいう独自の視点は、お客様のビジネスに貢献するまだ知らないチャンスやリスクなどを指す。同書では指導において重要なルールとして以下の4つを挙げている。

・自社ならではの強みにつながること
・顧客の仮説を覆すこと
・行動を促すこと
・他の顧客への拡張性があること

同書の詳細は以下に簡潔にまとまっているので参照していただければと思うが、この4つのルールは上述したポジショニングのエッセンスが凝縮されているように思う。

お客様の仮説を覆すようなまだ知らないチャンスやリスクを発見する。それが幅広いお客様に共通のものだと確信を持った上で、他社には真似できない強みによってそれを解決するプロダクトを作り込む。これはポジショニングを考える際にとても重要なことだ。そしてそれはマーケティングやセールスだけで取り組めることではなく、全社で取り組むべきことだろう。


よく御社と比べられる競合製品はどんなものがありますか?

この質問をお客様から問われる度に、私は事業戦略に思いを馳せることになる。これに明確に、自信を持って答えられる企業は間違いなく、強い。

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