シューレvol

好かれるためには《要努力》?ー「当事者が語る、摂食障害の作り方」


食べること。そして、からだ。

食べることは、世界の一部を自分の内に取り入れること。
一方、からだは、自分と外の世界をつなぐ《扉》です。

私たちは、世界との繋がりなしには生きていけません。

したがって「世界との繋がり方がなんだかおかしい」と感じた時、私たちは食べ方と身体を変えることで、しばしばそれを修正しようとします。

特に、思春期の女子が食べ方を変え、身体を細くすることの効果は絶大です。

たとえばシューレ初の試み『当事者が作る、摂食障害の作り方』に登壇してくださった、大貫詩織(しおりーぬ)さんは、中2の時、8キロのダイエットに成功しました。

するとクラスの中で一番キラキラしていた女の子たちが突然やさしくなり、さらにはじめての彼氏までできてしまいます。

「中2・大貫詩織」のはじめての成功体験。
次の言葉が、大貫さんの心にしっかりと刻まれます。

「好かれるためには《要努力》」

大学になってできた彼氏は一目ぼれでした。
そのこともあって大貫さんは、好かれるための努力をたくさんします。

彼氏は大貫さんにたくさんのことを要求してきました。

ショートカットにはしないでほしい
自分の前であぐらはかくな
一人暮らしの家のシンクに洗い物をためておくのはNG
彼氏が訪ねてくる時に部屋着でいるのはだめ。

そしてー

テレビに出てくるモデルみたいな体型になってほしい。

大貫さんは彼の好きな女の子になろうとし、再びダイエットを再開。なんと13キロもの減量に成功しますが、途中から抑え込んでいた食欲が爆発し、食べ吐きが始まってしまいます。

最初はどんどんと体重が落ちて行きましたが、そのうち体重はあまり落ちなくなり、むしろ少しずつ増えて行きました。

すると彼氏にこう言われたそうです。

「やせてたころはかわいかったのに」

この言葉は大貫さんが彼との関係性を冷静に考えるきっかけになりました。「こんな人と一緒にいて幸せなんだろうか」、そう心底思った大貫さんは別れを決意します。

好かれるための努力

大貫さんの言葉は参加者の方にも響いたようです。

ある方は、「好いてもらおうと、高校の時は友人に笑顔で手ばっかりをふっていた」と話してくれました。シューレメンバーのNaoさんは、前の彼氏から「ショートカットにするな」と言われていたと話してくれました。

よく摂食障害と自己肯定感の低さは結びついていると言われます。その意味で、大貫さんの場合はそれによく当てはまるといってよいでしょう。

ですがその自己肯定感の低さが、なぜ拒食や過食、体重への強烈な固執という形で現れるのか。

大貫さんは自分の「作り方」をふりかえりながら、やせていると得をすることが、この社会にはいくつもあること。そして、中2ではじめてのダイエットしたときの強烈な成功体験が、とてつもない影響を与えたことを話してくれました。

大貫さんは、その後もう一度、過食嘔吐に陥りますがそこからも抜けだし、いまは「やせたい」という気持ちは頭の片隅にはありつつも、過食嘔吐といった状況に陥ることなく、生活をされています。

いまの状態でいられるのは、大貫さんの体型でなく、彼女がやっていることにフォーカスを当ててくれる、多くの大切な人たちに囲まれていることが大きいと話してくれました。

自己肯定感が低かったわけではない

大貫さんの大変に魅力的なトークを引き継ぐ形で、かなりのプレッシャーを抱えながら登場されたのが(笑)、シューレメンバー真美さんです。

真美さんは、「いままで言いにくくて言えなかったことを、今日ここではじめていいます」という一言から始めてくれました。

真美さんは高1の時に過激なダイエットをし、35キロまで体重が落ちてしまいます。ですが、外見に関しては褒められることの方が多かったため、「見た目に自信がない」といったことはありませんでした。

でも「自己肯定感が高い」ようなことをほのめかすのは、なんだか良くないことのような気がしていたため、ブログ等でもあまり発信してはなかったのです。

そんな真美さんが中学の頃から気になっていたのは「脚の細さ」。新体操部に入り、毎日部活を楽しく頑張っていた真美さんが、たまたま観た新体操の番組で表示されたのが、160cm・38kgという体型でした。出場選手の1人の数値です。

それを観てからというもの、なんとなくその体型が気になっていた真美さん。

中学を卒業し、高校に入ると、同級生で自分より脚の細い子が何人かおり、「その子たちみたいになりたい」という淡い考えが浮かびます。

何の気なしにダイエットを始め、カロリーと体重を記録し始めると、みるみるうちに体重は落ち、なんと10キロの減量に成功しました。

ここまで来ると、外見がどうの、というより、体重が落ちていくことが最も大事。人に何かを言われようが、とにかくもっと体重を落としたいそんな気持ちになり、ますます体重のことだけを考えて過ごすようになります。

そんな拒食状態に変化が訪れたのは、真美さんがパン屋でバイトを始めた時でした。

余ったパンをもらえたため、それをクラスの友人と食べるようになったところ、そこから食欲を抑えることができなくなり、パンを食べるようになって行きます。

でも太ることは絶対に避けたい。

「だったら吐けばいいんじゃないか」、と試しましたがうまくいかず、飲まずに吐き出すチューイングをするようになってしまいました。

このままじゃいけない、と感じる瞬間

このように、「作り方」に大きな違いのある大貫さんと真美さんのお話でしたが、一方で共通点もあります。

その一つが、摂食障害が「作られて」から抜け出すまでの過程で、「このままじゃ絶対にいけない」という瞬間が訪れているということです。

大貫さんの場合は、職業が看護師であるということ、そしてある時「常温の豆腐が歯にしみた」ことが大きかったそうです。

自分が他人の健康を扱う仕事をしているのに、知識もあるのに、自分の行動が完全にそれに反している。夕方になるとまともに立っていられない。

「常温の豆腐が歯にしみる」ということは、もしかすると自分の歯がかなりまずい状態になっているのではないか。

「このままじゃいけない」

そう痛切に感じたことが、抜け出すきっかけになったそうです。

これは真美さんも同じです。

チューイングを始め、袋に向かって食べ物を吐き出している自分が、どうにもこうにも惨めに思えてしまった。

生理がずっと止まっており、「このままだと子どもを産む時に問題があるんじゃないか」と感じた。

そしてちょうどそのころに、鈴木その子さんが書いた『やせたいならご飯をしっかり食べなさい』という、1食につき白米を240g食べることを推奨する本を読んだ。

これらのことが重なり合い、やせることに全精力を注いでいた真美さんの生活が少しずつ変わって行きました。

摂食障害からの「抜け方」は、100人いれば100パターンあるといっても良いほどの多様でしょう。

ですが「作り方」の対照的な、大貫さんと真美さんの「こわしかた」は似ていました。

自分と世界をつなぐ《扉》としての身体に一心に注がれていた関心が、ある日、扉の外側に向かう。

その上で、「外側の世界と具体的に繋がるために、自分はいまどうするべきなんだろう」という問いが湧き上がる。

それが、「作られた摂食障害」を解体するきっかけになった、といってもいいかもしれません。

身体が《扉》であるという比喩は、『身体の社会学:フロンティアと応用』(2005年・世界思想社)の第1章、「身体論への知識社会学的断章 ― 「身体」という場所」(三上剛史・著)からの引用となります。三上さんはこのアイデアを、社会学者ジンメルの『橋と扉』から得たと本文でお話しされています。

「THE・摂食障害」は存在しない

ここまで読んできてくださった皆さんの中には、摂食障害の当事者の方もいらっしゃると思います。そして自分と似ていると思ったり、全然違うと思った方もいらっしゃるでしょう。

私たちは、今回の大貫さんと真美さんの体験が摂食障害の典型例だとか、これをもって「摂食障害」のなんたるかを語りたい、とかは全く考えていません。また大貫さんと真美さんの抜け出し方が似ているからといって、「こうやれば回復できる」と宣言したいわけでもありません。

なぜなら「THE・摂食障害」なるものは存在しないからです。

そもそも「摂食障害」の定義自体が、世界的な精神疾患の診断基準であるDSM改定の度に変わっています。また摂食障害が世界に広がり始めた90年代の時点で、この分野で著名な精神科医のMervat Nasserが、「『摂食障害』と一口に言っても、はっきりと境界をつけられるものではなく、それはむしろグラデーションであり、病院に現れない人の方がはるかに多いだろう」と述べています。

私も日本とシンガポールの調査の中で、さまざまな当事者の方に出会いました。

たとえばシンガポールでは、統合失調症と摂食障害の両方の診断を持つ女性と話しています。彼女は統合失調症の症状がひどい時には摂食障害は治り、摂食障害の症状がひどい時には、統合失調症の症状が和らいでいました。

もし彼女がイベントに来て「作り方」を話してくれたら、その内容は今回のお二人とは全く違うかもしれません。(同じかもしれません)

なので同じであるか・違っているか、あなたの“摂食障害”が十分に深刻かどうか(実際にこれを心配されていた方が複数いました)、とかはこのイベントでは全く重要ではないのです。

当事者のお話を通じて、「THE 摂食障害」を学ぶのではなく、多様な現れのいくつかに耳を傾けることを通じて、「食べることと、からだ、そして生きること」について考えてみる。

それがこのイベントの趣旨でした。

暖かい雰囲気でよかった。また来ようと思います!

このイベントは、シューレメンバーの林利香さんと1年前から温めていたイベントです。

とはいえ初めての開催であったため、司会の私もかなり手探りで、「これでいいのかな?」と感じながら、進行役を務めていました。

ですが、アンケート結果が思った以上に好評だったので、胸をなでおろしています。

お二人の真摯なお話と、参加者の皆さんの相手の声に丁寧に耳を傾けようという姿勢が、よい雰囲気を作り上げたのでしょう。

「また来ようと思います!」といったご意見にはじまり、「摂食障害であるなしにかかわらず、フラットに話せたのがよかった」、「生きていく上で楽になるヒントをもらえてよかった」、という声をいただいています。

今回は、ダイエットを入り口に摂食障害が「作られた」ケースでしたが、そうではない摂食障害ももちろんあります。

例えばご来場の方の中には「私は、やせるより『吐く』ことが大事だった」といった話をしてくださった方もいらっしゃいました。

だからこそシューレで“摂食障害”を扱う際は、この言葉に何かを感じて集まった人たちが、ともに考え合うイベントでありたいと思っています。

ご来場くださった皆さん、本当にありがとうございました。

(今回のレポートはいそのが担当しました。)

次回のシューレは…「だって私、かわいくないから、の呪い」

次となる、15回目のからだのシューレは、女性ならだれでも気になる「かわいい」がテーマ。

3月9日(土)に、女優・ライターの石川優実さんと、シューレメンバーのNaoさんのトーク、そこに磯野が「かわいい」についての学問的なスパイスをちょっと足す形で開催します。

このイベントを開催するきっかけとなった、現在#Kutooムーブメントで大活躍中に石川優実さんのブログ、「だって私、可愛くないからの呪い」はこちらから読むことができます。

お申し込みは下記のイベントタイトルをクリックしてください。

3/9(土)「『だって私、かわいくないから』の呪い」ー石川優実×吉野なお トークショー 
(18:45〜20:30@東京ウィメンズプラザ 視聴覚室A・B)

講師:石川優実さん(女優・ライター)、吉野なお(Nao)さん(プラスサイズモデル・シューレメンバー)
参加対象:どなたでも
参加費:1000円(前売り)・1500円(当日)

石川さんとNaoさんと一緒に、かわいいについてまじめに楽しく考えます。
ご関心のある方はどなたでもお気軽にご参加ください。

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からだと食べ物についてもっと自由に考えよう。「からだのシューレ」は、摂食障害で悩んでいる方、体型や食事に難しさを感じている方、からだと食べ物について社会と自分とのつながりを考えてみたい方のためのイベントです。

コメント1件

摂食障害とは何だったのか、25年の経験者として考え続けています。回復して○○ダイエットカウンセラーとかになる人を目にするし、抜け方も語り尽くせないものがあると思います。
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