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華胥を辿る

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#連載小説

1. 現世

1. 現世

 <現世>を意識した、居酒屋のような場所で店主の笹川はにこやかに働いている。聞くと平日はスポーツ紙の記者として勤務しており、今も激務の只中だという。居酒屋を開業したいと思ったこともなく、包丁も握ったことがない。ただなぜか夜眠ると自分は居酒屋にいて、客の注文を捌き、鯛を三枚におろすこともできた。
「夜、合コンとかに行くと思い出すの。なんで夢だったら魚を捌けるんだろうって」
 笹川はカウンターの向こう

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2. 悪夢

2. 悪夢

 夢の中、店の前、横転した列車、それを眺める佇む人々。白いスポーツカーが横切ろうとして、先頭車両を掠めた。ネガティブな夢が混ざっているかもしれない。時折、悪夢を見る人がいて、その夢が周囲に伝播することがある。列車内には何もいないようだ。もしくは、覗き見る人しか見れないようになっているのか。
「殺人事件があったらしいよ」
 子どもが俺の手を掴み、話しかけてくる。これもよくない兆候だ。夢の内容は、自分

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