松雪泰子さんについて考える(06)映画『フラガール』

*このシリーズの記事一覧はこちら*

*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:8点(/10点)
作品の面白さ:6点(/10点)
公開年:2006年
視聴方法:Hulu
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや展開には触れないようしております。
 
一般的に松雪さんの代表作といえば、初期の『白鳥麗子でございます!』を除くと、だいたい映画『フラガール』(2006年)とドラマ『Mother』(2010年)と言われるだろう。

『フラガール』は、公開当時話題を呼んだヒット作で、自分も映画館に観に行った記憶がある。ただし、当時は松雪さんというよりも、作品の内容に興味を覚えて観に行った気がする。
 
公開から17年が経った2023年の今。松雪さんに注目しながら改めて鑑賞した感想を記したい。
 
福島の炭鉱の町で、町おこしのため設立されるハワイアンセンター。そこでは、フラダンスショーのチームが旗揚げされることになり、町の中から募った踊り子候補生たちを育成することが急務となっていた。そこに登場する先生役が松雪さんだ。プロの踊り手として挫折していたところ、ハワイアンセンターの責任者から招聘されたという設定。
 
男勝りで気の強い女性。プロのダンサーとして漂わせる矜持と威圧感。その一方で、教え子たちに向ける優しいまなざし。借金取りに追われる場面では、町の炭鉱夫(豊川悦治)に弱みを晒す。怒りに身を任せて、粗野で無鉄砲な振る舞いを見せる場面もあるが、全体的には凛とした女性の役柄と言える。
 
ストーリー前半で、先生(松雪)が一人で踊りの練習(ウォーミングアップ)をするシーンがある。ここが大きな見どころだ。

スラリと伸びた肢体はまさにダンサー然としており、説得力がある。映画出演に向けて練習を積んだ成果か、それとも持ち前のセンスによるものかは分からないが、ダンスも様になっているし、身のこなしが柔軟。

ひととおり踊ったところで、陰で見ていた教え子たちが歩み寄り、指導を乞う。先生(松雪)は、体の柔軟性をチェックするため、いくつかのポーズをとらせるが、全くできない生徒たち。そのシーンで、先生(松雪)は両脚を前後に開いて床にぴったりとつける。簡単そうにやっているが、松雪さんは元からできたのか、練習したのか…。いずれにしても、プロダンサー役として説得力のあるシーンだった。
 
映画は中盤から、教え子たちとの練習シーンを通して、お互いの絆が深まっていく様子が描かれる。そして後半では、感動的な場面が畳みかけてくるのだが、正直、このあたりの演出がうるさい感じがした。大仰なBGMと妙に説明くさいセリフが相まって、興ざめしてしまった(公開当時劇場で観た時も感じたが、2023年の今改めて観ても)。

人それぞれ受け止め方が異なるだろうが、個人的には、もう少し淡々と描いても十分説得力のある流れに仕上げられたのではないかと思う。
 
他に松雪さんの見所としては、男湯にずかずかと入って行って、教え子の父親を締め上げるシーンがあるのだが、かなり思い切った立ち回りで面白い。
 
松雪さん以外の役者もよい。蒼井優さん、南海キャンディーズしずちゃんは、教え子役としていい味をだしている。ハワイアンセンターの責任者の岸部一徳さんも東北の炭鉱町という雰囲気がぴったり。
 
そして教え子のひとり(蒼井優)の父親役、豊川悦司さん。松雪さんとの共演は稀少だ。2人の共演は、本作と、2018年NHK連続テレビ小説『半分、青い。』の2作くらいしかないはず。その『半分、青い。』にしても、共演シーンは3~4回で、時間も短い。そういう意味で、本作は貴重。
 
このように、全体的には良い作品なのだが、終盤だけが少し残念に感じた。それでも、松雪さんのファンでまだ観たことがないなら、一度は観ることをおすすめする。

ところで、つい最近(2023年10月)、NHK朝ドラ『ブギウギ』の番宣において、主演の蒼井優さんが、次のようにコメントした。今、『フラガール』の松雪さんと同じような指導者の役柄を演じていて、無性に松雪さんに会いたくなった、と。この件はちょっとしたネットニュースになり、松雪さん本人もX(旧Twitter)で反応した。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?