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松雪泰子さんについて考える(87)『ビギナー』(はじめに)

FODの作品ページ

松雪さんを初めて知った作品。2003年秋クールのフジテレビ。
 
21年も前とは信じられないが、10月6日が第1話だったようで、まさに今頃の時期。
 
昨年(2023年)の春から1年半かけて、松雪さんの出演作品を観られる限り観てきた。90年代前半の作品のように観る手段や機会に恵まれないでいるものもまだ多いが、それでも約80作品を観ることができた。感想はこれまで投稿してきたとおり。
 
それで改めて思ったことは、やはりこの『ビギナー』は個人的に別格だということ。松雪さんの出演シーンの充実度という意味でも、作品の面白さという点でも。
 
『きらきらひかる』(1998年)、『なにさまっ!』(1998年)、『救命病棟24時』(2001年)のように甲乙つけがたい作品もあったし、最新作『マル秘の密子さん』(2024年)は松雪さんの見所の多さではキャリアハイと言っても過言でないくらいだったと思うが、それでもやっぱり『ビギナー』が個人的に最も好きである。
 
高校生だった放送当時、たまたま観てハマった。この辺のことは第1回の投稿に記したとおりのため今回は割愛するが、あれから20年も歳をとるあいだに多少なりとも世の中を知り、感受性が変わった。それに、他の出演作品を観たことにより、松雪さんの演じた森乃望という役柄も以前と見え方の異なる部分があるはず。

そこで、改めて作品をFOD配信で鑑賞し直して、感想を記したい。
 
この投稿はいつも冗長で読みにくいと恥じ入りつつ、本作については書きたいことがいつも以上に多いため、1話ずつ分割して投稿していくことにしたい。もし、気長に読んでくださる方がいらっしゃれば幸いです。
 
ただ、実際に第1話の感想に入っていくのは次回の投稿にするとして、今回はドラマ全体に関して少し記しておきたい。



■主役級が多い贅沢なキャスティング


堤真一さん・松雪泰子さん・オダギリジョーさんという当時既に主演クラスの俳優を、レギュラーとはいえ、主役でない役柄で起用している。放送当時はそんなことも分からず観ていたが、今考えるとなんと贅沢なことか。
 
なぜこうなっているかというと、主演をオーディションで選ぶというかなり挑戦的な試みを山口雅俊Pが行ったからなのだが、そうしてデビューを果たしたのが美村里江さん(以下、当時の俳優名の「ミムラ」さん)。今も女優活動を続けている。産経新聞の連載エッセイは時々読んでいる。読書家らしい文体。
 
なお、山口雅俊Pがなぜオーディションを活用するかについて、最近(2024年7月)You Tubeの対談動画でご自身が語っていらっしゃったので、参考までにリンクを。
 
上記4人の他にも奥菜恵さん、横山めぐみさん、北村総一朗さん、我修院達也さんがレギュラー出演。メイン8人は以上のとおり老若男女が揃っていて、それぞれの会話劇と交流が作品の見所。

■堤真一×松雪泰子コンビが面白い


8人の中で、この2人のコンビがあまりにも魅力的。つかず離れずの距離で、尊敬・恋愛・友情いずれともつかぬ曖昧な関係性。群像劇なので8人それぞれにスポットが当たるが、その中でもこの2人の配分が多い気がする。
 
水橋文美江さんの脚本らしい、健全で小気味よい漫才的やりとり。そして、回を重ねていくにつれ、アルコール弱めのカクテルみたいな間柄に。
 
ちなみに、この作品より前のお2人の共演は、2001年の映画『MONDAY』(ダンスシーンが最高)、2002年の映画『DRIVE』(一瞬だけ)の2作。

その後、2005年の劇団☆新感線『吉原御免状』(近々10/25からゲキ✕シネで上映)、2008年の映画『容疑者Xの献身』(まさに"競"演)、2012年の舞台『シダの群れ 純情巡礼編』、2016年の舞台『るつぼ』となっているとおり、共演機会が多い。近年は無く淋しいが、是非また観てみたい。
 

■司法修習×ライトミステリーの掛け合わせ


メインの8名は全員、司法修習生。司法試験合格者が過ごす1年半の研修期間。この研修期間と卒業試験を経て、裁判官・検察官・弁護士になる。
 
作品が放送された2003年当時はまだ、司法試験受験資格に法科大学院卒業という条件が加えられる前だったので、基本的に誰でも受験可能。そのため経歴も年齢もバラバラの8人が集まることができたが、2006~12年頃の制度改正を経た今では、こういうことももう無いのではないか。
 
それはさておき、彼ら司法修習生が実際の刑事事件・民事事件をもとに、どういう法的判断を下すのが妥当か議論し考察する一話完結型になっていて、各回最後に事件の謎が解明されるというちょっとしたミステリー要素を備えている。
 
司法修習という舞台はドラマや映画として大変珍しく、そこにミステリーや謎解き的な要素を盛り込んだ斬新さは、今観ても色褪せない。
 

■ドラマアカデミー賞


この2003年秋クールのドラマアカデミー賞(テレビ雑誌「ザテレビジョン」の企画)では、最優秀作品賞が『マンハッタンラブストーリー』(主演:松岡昌宏)で、『ビギナー』は作品賞2位だった。(公式サイトはこちら
 
そうした中、主演女優賞3位にミムラさん、助演女優賞2位に松雪泰子さん、助演男優賞2位に堤真一さんが入っているなど健闘。
 
以上はドラマアカデミー賞のサイトにも出ているが、賞を創設した1994年春からの丸10年分をまとめたムック本「連ドラ10年史」には、他の受賞結果も載っている。
 
これによると、上記以外では、新人俳優賞をミムラさん、ベストドレッサー賞を松雪さんがそれぞれ受賞。
 
著作権的にアレかもしれないが、もう古いムック本だし、ごく一部ならそれほど問題もないだろうということで、ここに一部転載させていただこう。
 
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▽ベストドレッサー賞
 
(短評)
松雪が8年半ぶりにV!
黒にビビッドな色のししゅうが施されていたり、赤いバッグでアクセントをつけたりと。チャイナテーストを基調とした主張のあるファッションが、暴力団員の元愛人という、人生の修羅場を乗り越えた森乃という女性の強さや洗練をよく表現していた。
 
 
(受賞のことば)
森乃の服装は、クールで大人っぽいけどどこか遊び心がある服。カワイイ大人の女って感じです。私も好きな服装だったので、受賞はとてもうれしいですね。“チャイナ”っていうテーマがあって、必ずいろいろししゅうで遊んでいるのが楽しかったです。黒のジャケットにチャイナとか、ふだんあまりしたことのないマッチングで、参考にもなりました
 
 
▽当該クール全体についての審査員短評(関係する部分のみ抜粋)
 
松尾羊一
「ビギナー」と「ヤンキー―」は、甘さ控えめ的な作りでオンリー度は抜群だった。
 
麻生千晶
実験的な「ビギナー」に見所
一応、「マンハッタン―」を投票するにはしたけれども、今期はめぼしい作品がなかった。実験的な「ビギナー」にある種の見所があったくらい。(中略)公募の新人ミムラは予想外の収穫。カーペンターズも新鮮であった。
 
北川昌弘
救いはクドカン、ミムラ、北村
う~む、全面的に支持できる作品が……。特に1クール1時間新作連ドラは袋小路状態。そんな中で希望というか、救いなのが、脚本の宮藤官九郎、オーディションで選出されたヒロインのミムラ、狂気の北村一輝と言ったところか。「ビギナー」で主演級の松雪泰子や奥菜恵は必要なのか。(後略)
 
・・・
 
衣装に関してはたしかに、このメイン8人の中でも一人だけ凝っていたし、役柄を際立たせる効果は大きかったと思う。
 
上記引用部分で「8年半ぶり」と書かれているのは、1995年「毎度おジャマしまぁす」で受賞したことを指す。
 
審査員短評を見て分かる通り、『ビギナー』が万人から絶賛されるような衆目の一致した名作というわけでもないのは事実。ただ、ネットやSNSで今でも時々同作を懐かしむ書き込みを見掛けるにつけ、決してファンは少なくないのだろうと思う。

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では今回は以上にして、ドラマ本編の感想を次回から書いてまいります。

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