松雪泰子さんについて考える(52)『松尾スズキと30分の女優2 松雪泰子の乱』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:8点(/10点)
作品の面白さ:7点(/10点)
制作年:2022年(WOWOW)
視聴方法:WOWOWオンデマンド
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的な展開や結末には触れないようしております。
 
大人計画 松尾スズキさん脚本・演出のコントドラマ。松尾さんと松雪さんは、舞台『キレイ―神様と待ち合わせした女―』(2014年)等の縁。
 
タイトルどおり30分弱の尺で、3本のコント。2本目の、小料理屋を営む女将役が良かった。コントなので、変な設定の話だが。
 
腹を抱えて笑うほどではないけど、3本ともクスっとくる。
 
 
一本目:「逃亡したサル、自ら出頭」
 
ニュース番組「NEWS PRIMAL」のキャスター、消音系(松尾スズキ)と滝壺ステンレス(松雪泰子)が送るどうでもいいニュース。中継ハプニング発生中、場をつなぐぎこちない会話。松尾さんの表情が面白いが、もはや冒頭の役名で出オチ感。
 
 
二本目:「寒くはないとよ」
 
港町の居酒屋「デタラメ九州弁と小料理 やすこ」で繰り広げられる、シュールなコント。

まず、店のセットが立派。広々とした内装も、手の込んだ小物も、本物の小料理屋さながら。
 
小あがりに掲げられた大漁旗、壁の演歌ポスターと沢山の品書き。魚拓まで貼ってある。
 
カウンターには、大鉢に盛られた竹輪と小松菜の煮浸し、その隣にはサザエ。どれも本物っぽい。伊勢海老はさすがに美術品か…いや、どうだろう。
 
調理場奥には飲食店でよく見る水のピッチャーまで並んでいて、芸が細かい。
 
板場に立つのは、錆納戸色の着物が似合う九州弁の美人女将(松雪泰子)。意匠を尽くしたセットと相俟って、こんな店があったらいいのにと思わされる。
 
カウンター席で独り酒の男(松尾スズキ)は、風貌も声も明らかに高倉健。映画『幸福の黄色いハンカチ』のパロディ(ビールを飲むシーン)も出てくる。
 
その男性客と女将が、カウンター越しに会話するシーンのしっぽり感がいい。燗をつける女将のこなれた手つき。お銚子に酒を注ぎながら「お兄さん、やっぱり九州の人やったいね」と話し掛けるときの、視線を手元からそっと客に向ける表情が、婀娜っぽくて秀逸だった。九州弁の響きもいい。
 
本物(?)の九州弁に続き、デタラメ九州弁を繰り出す。何の意味も無い言葉なのに情感たっぷりに話せる松雪さんも面白いが、松尾さんの困った表情が笑える。ツッコミ不在の中では、松尾さんのこの表情がコントとしての成立要素の働きをしている気がする。
 
ここから風向きが変わり始め、女将が男にお酌をするあたりから一気にオチへと向かっていくが、ネタバレになるので割愛。
 
映画さながらの本物感あるセットに、映画さながらの高画質映像。やっている内容もオチもシュールなのに、映像的見応えはコントの域を超えている。
 
 
三本目:フィラデルフィアの三〇〇〇坪の小屋

出産間近の女優(松雪泰子)が、映画の告知番組に出演している設定。ネタバレにならないよう説明するのが難しいが、ある俳優(タレント?)いじりが面白い。3本の中では一番オーソドックスなコント。
 
 
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以上。とにかく二本目が、色んな意味で見応えあり。
あの人が出ているが、お蔵入りにならなくてよかった。
 

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