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セックスワークをどう考えるか / 宮台真司さんと藤田孝典さんのやりとりを見て

宮台真司さんが9月6日にTwitter上で怒涛のリプライ返しを始め、ピークの9月7日には、朝8時~深夜3時頃までの間に、約180のリプライを返していました。
その中で、生活困窮者を支援する活動などをしている藤田孝典さんとのやりとりが話題になったようですが、発端はどうやらこのやりとりです。

この「なナみ」という人へのリプライに、藤田孝典さんが言及します↓

それに対して宮台真司さんが激しい言葉で反論します↓

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ここまでを読むと、
「売買春そのものが被害ー加害の関係で成り立っている」と言わんとするような藤田孝典さんの主張には疑問がある。
そしてそれを「愛があるかないか」という観点から語るのはなんかズレてるんじゃないかと感じる。
それはたとえば、介護サービスに対して「お金で介護してもらっても、家族に愛情を持って介護されるような満足感は得られない」と言ってるようなものに思える。

好意的に解釈するなら、藤田孝典さんが言及したのは、
1. 貧困ゆえに性サービス業に従事せざるを得ない女性たちを、金の力で全人格的に支配しようとするという業界の構造
2. そうした構造をつくっている、男性側の「女性を性的にコントロールすることで自己肯定感を得たい」という欲求

で、そうしたものに対して「金の力によるコントロールじゃ、本質的には満たされないよ」ということを言っているのだと捉えられるけれど。

でもツイッターなんてみんな3秒くらいしか文章読まないんだから、3秒で伝わらないこと書いた時点で、正否はともかくとして負けちゃうよね。

そう考えると、宮台真司さんは「童貞男にありがち」とか「経験値の低さ」とか、3秒でわかるようなフレーズを使ってるから強い。
そんな中学生みたいな言葉を、社会的に価値ある活動をしてる大人に対して投げつけるのはどうかとも思うけど、もともとそういう "口汚い学者" ポジションを確立してる方だし、先に絡んでいったのは藤田孝典さんの方なんだし、しょうがないといえばしょうがないのかな。。でも下品だよなぁ。。好きだけど。マル激もずっと見てるし。

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そこから話題の中心は「売買春を法律上どのように位置づけるべきか」という流れになっていく。
これについて、僕には語りたいことが山程あるのだけれど、なるべく端的に書く。

まず今まさに係争中の裁判で、この話題につながるものがある。

みんなもうすっかり忘れてるみたいだけど、
5ヶ月前に国が性風俗業を「本質的に不健全」と言い放ったのは、この「セックスワークにも給付金を」訴訟における出来事。
この裁判は今も行われていて、TwitterやCALL4で状況が逐一報告されています。

弁護団の一人である亀石倫子という弁護士は、過去に警察のGPS捜査の違法性を最高裁判所に認めさせた事件の弁護士で、『刑事弁護人』というストーリー仕立てのおもしろい本も出してる。

僕はこの給付金裁判で「売買春というのはこの国においてどういった位置づけのものなのか」について、なにかはっきりとした回答や道筋が得られるんじゃないかと期待してる。

そもそも日本のソープランドとかは「本番してませんよ」「してたとしたらそれは客と店員同士の私的な人間関係における出来事で、店として本番サービスは提供してませんよ」というアホみたいな建前のもとで成り立っているものだし。
AVのモザイクだって「これでは入ってるかどうかわからんなぁ!」ってことでわいせつ物関係の罪に問われてないんだよ。なのにろくでなし子の3Dマンコデータは有罪なんだよ。アホでしょ。

こういうの全部「法律上は認められていないけど、実際には蔓延してる」っていう建前と本音のズレが生んだ歪みだと僕は思っている。

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でもじゃあどうしたらいいのか、って考えるととても難しくて。

たとえばひとつの案として「建前をぜんぶ取っ払えばいい」つまり、売買春なんて実際にはみんなやってるんだから、法律を変えて合法にすればいい、って考え方もある。僕の考えもそれに近い。

実際にこうした政策を取ってる国もある。
情報が古いのが申し訳ないけど、1999年の『Sex For Sale』という本によれば、オランダでは売買春を合法だと国が認めているので、 公認の売春宿 (Brothel) も存在する。

スペインやイギリスでも売買春そのものは合法。
ただし売春を斡旋することや、路上での客引き行為など、部分的には違法になっている。

アメリカは国としては規定していないので、州によって異なる。
ただ大多数の州で売買春そのものが違法で、唯一ネヴァダ州だけが合法としているよう。

ちなみに日本でも江戸時代には「公娼制度」というかたちで売買春が合法だった。そればかりかオランダのような、国が公認する売春宿 (吉原などの遊郭) が存在していた。
ただし、そうした公認の場以外での売買春は「私娼」と呼ばれて厳しく取り締まられていた。

僕の現在の考えとしては、日本はイギリスなどに習って、売買春つまり金でセックスを買う行為そのものは合法にしつつ、組織的な売買春については、労働者の安全や権利を守るという枠組みの法律で規制するのがいいと思っているけれど。

少なくとも日本の「業種そのものが "そこはかとなく違法"」というアホくさい状態は、早急に改善すべきだと思ってる。こんなんだから「不健全」とかいうワードも出てきちゃうんだと思うし。だから給付金の対象かどうかの線引きもぐずぐずになるんだろうし。

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そこで藤田孝典さんと宮台真司さんのやりとりに戻ると、
おそらく藤田孝典さんは「売買春=金でセックスを買うという文化そのものが悪だ」という考え方なのだと思う。
これは別に突飛な考え方ではなくて、そういう主張をする団体は海外にもある。

すごく簡単に二分化すると、
「売春、つまりセックスの商品化によって、女性は男性に対抗できるような力 (経済力など) を得られる」
と考える "セックスの商品化が女性をエンパワーする" という立場と、

「セックスの商品化は、それ自体が男性にとって都合のいい"女性のモノ化"だ」
と考える "商品化は女性の身体や人格への暴力・冒涜だ" という立場があって。

藤田孝典さんは後者の考え方なんだなと思う。

この問題を具体的な例で考えるとしたら、
たとえば「女性が貧困に陥ったとき、もし売春という手段が存在しなかったらどうなっていたか」を考えるということで。
売春という手段を利用することによって助かった人もいれば、売春という道に進んだことで不幸になった人もいるだろうし。そもそも売春文化がなければ貧困に陥ることもなかったという想像もできる。

そんなこと考えたくもないって人もいるだろうけど、藤田孝典さんがあれだけ必死になるのは、そういう状況を実際に目の当たりにしているからでしょう。

(それを「部分の全体化」とする宮台真司さんの言い分は正しいのだと思うけど、ひとつ前に紹介した"科学"についての記事に書かれていたように、我々個人には部分しか見えず、部分を主張することしかできないのだから、それらを否定せずにまとめていく仕事が必要なんだと思っている)

ただもっと俯瞰して見ると、
こういう問題の語り手として注目されているのが、男性社会学者と男性社会福祉士っていうところが、もうなんか男性しか声を持たない社会なんですかねーって思う。

宮台真司先生に習って、中学生が3秒でわかるまとめ方をすると、
「女性の幸せというのはこうだ!お前はなにもわかっていない!」と男性同士が言い争っている構図。

子どもの頃ありませんでした?親たちが「この子にとっての幸せはこうなんです!」「いやちがう!」とか言い合う場面。
「私の意志」なんてものは置いてけぼりで、決定権も発言権も親たちにしかないんです。

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結論。


「だから選挙に行こう!!!」



※追記
関連記事 「男がジェンダーを語ることの難しさ」


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