Kindle Unlimited『密着 最高裁のしごと』川名壮志

2016年『密着 最高裁のしごとー野暮で真摯な事件簿』岩波新書

裁判の基本的な流れや、2009年から始まった裁判員制度について、ものすごく易しいことばで書かれた本です。

著者は毎日新聞の記者の川名壮志さん。学者の本と違って硬いことばもなく、池上彰さんや古市憲寿さん並に読みやすい文体でした。


この本では、法的な "親子" がどのように決まるのか、たとえば妻が浮気して生まれた子どもも、基本的には夫の子として認定される "嫡出推定" について、実際の裁判例が取り上げられています。

僕からすると前時代的に見えるこの嫡出推定は、DNA型鑑定の出現によって見直されつつあるようですが、裁判所がどこまでその現実を判決に反映させられるのか、そこには限界があり、やっぱり新しい法律をつくる国会の役目が重要だ、といった話も出てきます。

この本自体は2016年の本ですが、少し調べてみたらちょうど今年の10月に、嫡出推定を見直す動きが最終段階まできたというニュースが出てきました。


更に2016年発売のこの本では、いま話題の選択的夫婦別姓についても詳しく取り上げられています。先見の明がありますね。

この本によると、1990年代にいちど民法改正の動きが起こり、改正案が国会に提出される直前までいったそうです。
その改正案には 「夫婦別姓を認める」 という規定が含まれていたので、もし成立していれば1990年代の時点で、選択的夫婦別姓が実現していたことになります。

しかし与党の自民党内で反発が起こり、政府の実施した世論調査でも賛成と反対が半々の結果になったため、見送られてしまったそうです。

それから20年以上経って、いまようやく改正の動きが本格化していることを考えると、法律を変えるというのはものすごく大変な仕事なんだなーと、、、あえて党派性を全開にしていうなら、自民党の抵抗を打ち破るのはものすごく大変なんだなーと思いました。


その他に、2009年から始まった裁判員制度についても説明されています。
なにも知らない素人が突然、裁判員の1人に選出されるかもしれないという制度ですが、実はその対象は 「死刑や無期懲役の可能性があるような重い罪の刑事裁判」 だけなんだそうです。

つまり選ばれた一般人は、殺人や強盗致死などの重犯罪の容疑者を目の前に見ながら、裁判員のひとりとして自分の意見をまとめなければいけないと。まったく知りませんでした。

この本で取り上げられている例も、2009年の 「松戸 女子大生殺害放火事件」 という非常に凄惨な事件の裁判です。
僕もいちどだけ殺人事件の裁判を傍聴したことがありますが、目の前にいる人物が、ニュース原稿のように読み上げられる行動を実際におこなって人を殺したんだと考えると、なんだか奇妙な感覚がしました。


それから最後に、Kindle Unlimited本紹介という主旨からは外れますが、裁判や刑事事件の流れを知る上でとても参考になり、なおかつストーリー仕立てでとても読みやすい本が、弁護士・亀石倫子さんの名前で出されています。

2019年の『刑事弁護人』という本で、GPSが普及して捜査に使われるようになったときに、最高裁の大法廷までいって警察の捜査方法が違法だったことを認めさせた歴史的裁判のドキュメンタリーです。

そもそも法律を犯す悪いことをした容疑者をなぜ弁護するのか、という刑事弁護人のそもそも論から、警察による逮捕と起訴までの流れ、裁判の基本的な流れ、最高裁にいくのはほんの一握りの事件のみだということなどが、弁護士たちの奮闘のシーンや心境描写など小説のような物語の中で説明されていきます。

登場人物に感情移入する小説のような読み方もできるし、刑事事件の初歩的な知識を学ぶ目的でも読めるという、とてもおもしろい本だったので、この場を借りて紹介しておきます。 (ちなみに僕は図書館で読ませていただきました)


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