【レビュー】 原作どおりが気持ちいい 「カラオケ行こ!」
ちょっと前の話になりますが、2月12日に映画を観てきました。山下敦弘監督、綾野剛・齋藤潤W主演の「カラオケ行こ!」です。
公開日は1月16日なので、公開から1か月も経ってるので空いてるだろうなと思って行きました。そもそもわしはガラガラの席で映画を観るのが大好きなのです。
ところがですよ。2日前にネットで席を予約した時点で3割の入りだったのに、当日はほぼ満席の状態でした。公開から1か月も経つのにこんなに客が入るというのは嘘偽りなしの「大ヒット上映中」ってやつです。パンフレットもグッズも全部売り切れでした。
(多くの映画の公式サイトには「大ヒット上映中」の文字が躍っております。これが本当なら、今頃映画業界は大儲けですね。ちなみに、あんまり売れてないと自覚している映画のサイトには「絶賛上映中」の文字が躍ります。こっちは1人でも絶賛すれば嘘にならないですから。)
なぜ、この映画を観ようと思ったのか?
それは3年くらい前に和山やま先生の原作コミックを読んでいて、その独特の世界観と雰囲気にやられちゃったからなんです。あのマンガの映画化なら観ねばなるまいとずっと思っていたのですが、ついつい観ぬまま1か月が過ぎちゃったんです。
なぜ、1か月も観なかったのか?
怖かったんだよ…。わしの大好きなあのマンガが蹂躙されて全くの別物になってしまうのが。
でもね、公開日から徐々に映画の評判が伝わってくるわけさ。そして、そのほとんどが良い評価なんだよ。わしの周りでも観に行った人が結構いて、全員が全員「面白かった~!」って感想なわけさ。
おいおい。マジですか。わしは、「進〇の巨〇」とか「ジ〇ジ〇の〇〇な〇〇」とかで痛い目に合ったトラウマがあるんよ。今度はダイジョブですか?行っていいの?本当に観てもいいの?
ということで恐る恐る映画館に行ったわけです。
結論を先に書きます。
観に行って良かった!面白かった!
あなたがもし今観たい映画がないのなら、わしはあなたの背中をそっと押してあげたい。
お兄さん、お兄さん。ちょっといい映画があるんですがいかがですか?へっへっへと客引きをしたい。
おっと、すみません。
どんな映画か分からないで観に行くほど、みなさんお人好しじゃありませんよね。
では、ご紹介しましょう。映画のあらすじです。
どうよ?バリバリのドタバタコメディーだと思うでしょ?これだけ見れば。
ところが、
あにはからんや、ですよ
全編の雰囲気は終始しっとりとしていて、恋愛映画じゃないのに痛いくらい胸が切なくなります。
もちろんコメディー映画なので笑えるシーンがたくさんあります。
このバランスが実に絶妙なんです。
あれ?この感じ。どこかで感じたことがある…。
!!。なんだよ~。原作の漫画を初めて読んだ時の感想じゃん。
映画は、原作のストーリーを忠実に再現しながら、それを補完するシーンをいい具合に挟んで進んでいきます。その補完シーンは、原作を読んでいる人にとっても全く邪魔なものではなく、むしろ最初から原作にあったんじゃないかと思わせるほど自然です。
まさに、マンガの実写化はこうあるべきという見本のような作品です。
原作を読んだ人も読んだことがない人もともに楽しめる稀有な作品だと思います。
さて、ここまでこの映画を褒めてきましたが、ここからは…、
さらに褒めちぎります。(ネタばれっぽいかも。ご注意)
■ 綾野剛(成田狂児 役)の演技が新境地へ
ニヒルな綾野剛、おちゃらけた綾野剛、いろいろな綾野剛を見てきたけど、この映画の綾野剛はハイブリッドな感情を表現できる俳優に進化していました。
「超抑えた演技」で、「飄々としながら」もその目に「悲しみ」と「慈しみ」の感情を湛え、時には子どもっぽく、時にはアニキっぽく、時にはヤクザそのものの隠している激しい情念と冷徹さを剥き出しにする綾野剛はとても凄みがあります。
わしが一番好きなのは、ビルの屋上で岡聡美(齋藤潤)とじゃれ合う狂児(綾野剛)の優しいまなざしです。わしが女子なら絶対惚れてるわ。
■ 齋藤潤(岡聡美 役)の紅
初めて映画で「カラオケ行こ!」を知った方は、齋藤君の演技って随分淡々とし過ぎじゃないの?って思うかもしれません。
でもね、原作の岡聡美はもっともっと淡々としています。感情がないんじゃない?ってくらいに。
齋藤君は主人公に感情移入しやすいようにいい具合に色を付けて表現しています。
中学3年生という少年期特有の多感で揺れ動く心情を見事に表現しています。してるよね?してると思う。
その淡々とした演技が、映画が進むにしたがってどのように変わっていくのか?それもお楽しみください。
そして、これは誰もが書いていますが、齋藤君が歌う「紅」は心に迫るものがあります。
変声期の岡聡美が声を振り絞って歌う、苦しそうにサビを歌うシーンはこの映画のクライマックスです。
原作では表し切れなかった部分を見事に表現しました。そりゃそうだ。マンガから音は聞こえてこないもんね。実写化して良かったねえと思えた瞬間でありました。
■ 原作どおりが気持ちいい
原作マンガの「カラオケ行こ!」は全一巻で見事に完結しています。
最初にこれを読み終わった時、まるで1本の映画を観たような気持ちになったもんです。
だから映画化に当たっては、もう既に出来上がっている映画を壊してほしくなかった。
ちょっと分かりにくいね。
簡単にいうと、余計なことをして原作の世界観を壊してほしくなかったんです。
でも、製作陣は偉いね。
その辺ちゃんと分かっていて、元の世界観を維持しながらしっかりと厚みを持たせています。
もう1回書きますね。
マンガの実写化はこうあるべきという見本のような作品です。
【次回作にも期待しちゃうぞ】
今、本屋さんに行くと和山先生の「ファミレス行こ。(上巻)」が売られています。
これ、大学生になった岡聡美がファミレスでバイトをしていて遭遇するあれやこれやの物語です。
もちろん狂児さんも再登場します。
新たなキャラクターも出てきてワチャワチャやってます。
まだ下巻が出てないので最後はどうなるのか分かりませんが、とても面白く読ませてもらいました。
前作から4年後くらいの話なので、あと4年後くらいに映画化したら齋藤潤君の年齢的にもピッタリじゃないの?なんてニヤニヤしています。
4年後の綾野剛にも期待してます。果たしてどこまで進化しているのか。
とりあえず、「ファミレス行こ。」の映画化を楽しみに待つことにします。
今度は公開初日に行くからね。
(ひとりごと)
今の綾野剛さんには、かつて松田優作さんが自ら野獣の皮を脱ぎ捨てて一人の人間を演じようともがいていた頃の姿がオーバーラップします。
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