板前の常識は世間の非常識 バトルロワイヤル編

板前の常識は世間の非常識。
三つ巴のバトルロイヤルin初島編

文句を言いながらも白衣を着て調理場に入ると、先ず
「うわっ、汚い調理場だな!」
が第一印象。

冷蔵庫は整理してないし、下には何かの汁が垂れてるし…
「えっ?冷凍イカソーメン?」
「生で食べて大丈夫なの?」
え?既製品ばっかり?
どっかのダイニングなの?

なんでみんな挨拶出来ないの?
なんで睨んでくるの?
ヤンキーなの?

書いたらキリがないくらいの事が沢山飛び込んできた…

それもそのはず、初島には今までいたオータニのスタッフと新たにエクシブから派遣されたスタッフ、更に東京から来た僕たちよくわかってない軍団の3団体が同時に仕事をし始めたからだ。
調理場だけでなくホテル全体がだ。

もうグチャグチャ。
足の引っ張り合い。
文句の言い合い。
まーーったくお客様には関係無いんだけど、三つ巴のバトルロイヤルのゴングが鳴らされたのである。

ただでさえ血気盛んな若者の多い調理場スタッフは、何かあると
「なんだコラ?、テメー何様だ?」
と、一瞬にしてビーバップハイスクールになってしまう…
で、事を重く見た親方は僕たちに喧嘩禁止令を出した程である。

とても引き継ぎどころではない。

リニューアルオープンに向け、幸か不幸か工事が入る事になり、
僕たちは、研修という名目で他のエクシブ施設に暫くの間散り散りに預けられる事になった。


その後

3ヶ月ぶりに初島に着いた。
皆それぞれの経験や思い出話しや不満を吐き出していた。

僕は.....ゲロを吐き出していた。
船に揺られたもんだからもう最悪...
話しになんない。

その後新しくデザインされた、東京の店の時と同じ関西割烹白衣に袖を通し仕事に取りかかった。
着慣れた白衣はやはり良い、気が引き締まる思いである。
前掛けをするともう仕事モードに切り替わる。

使い慣れなかった冷凍食材や既製品なんかも皆文句を言いながらも便利さを再発見して使う様になっていった。
ただ本当に必要最低限でしたね。
このとき初めて「大名仕事」の良さを認識した。
あーー、もっと良い部分だけ使いたいな〜。
ここ使いたく無いな〜。なんてね。

ホテル内の他のセクションの人たちとも何となく上手く出来る様になってきた。
お互い新しい会社のやり方を理解して一歩近づいたからだと思う。
この時は親方がもの凄いリーダーシップを発揮してホテルをひとつに纏めた様に思う。
他のセクションのヘッドを怒鳴りつけたり、トレーナーと怒鳴り合いの喧嘩をしょっちゅうしてたけど、なんか問題があると皆で問題を解決しようと一生懸命考えて動く。(喧嘩すんなって言ったのアンタだよね?)
ちょっと前の状態が信じられないくらいに協力体制が出来上がった。
後にも先にもあの時の状態はない位本当に凄かった。
この時の親方の苦労は大変な物だったと思う。

ただ、兄貴も本当に大変だった。
ライオンみたいな親方が対外的にホテルスタッフを纏める一方、調理場スタッフへの負担は半端ない。
朝は3時30から夜は12時まで。
完全に労働基準法違反でしょ。
あり得ない時間だよね。
ただでさえ時間のかかる仕事をしていたのに、今度はホテルだから朝食も作らなくてはならない。
おまけにキツすぎて逃げる若い衆が後をたたない(当たり前)
兄貴が何度も説得するんだけど、やっぱりキツいから無理。
その度に親方が兄貴を怒鳴りつけ「お前の仕切りが甘いからだ!」
「お前に任せといたら調理場が空中分解しちまうわ、ばかやろー」ってもう散々。
怒鳴られて倒れてしまう先輩もいた位だもん。
親方が兄貴を殴っていて、見かねた僕が止めに入って僕が殴られた事もあるもんね。
おまけに若いサービスマネージャーが、陰で料理がたいした事無いとか言いやがるしね。
まあよくやってたよ。自分を褒めたいね。
みんな夢遊病者みたいに仕事してたしね。立ちながら寝ちゃったりしてさ。

でもね良い事もあったの。
この会社は施設を競わせるの。
CS(顧客満足度)って言葉は今は珍しく無いけど当時は新鮮だった。
この満足度が初島はぶっちぎりで他所の施設より良かったの。
もう毎回一番。
お客様に認めてもらってるってのが唯一の救いだったね。
マネージャーも料理が認められてるってのを認識して偉そうな事言わなくなったしね。笑

今はこの競わせるシステムは嫌いだね。
なぜって、みんな仲間なんだから協力させれば良いじゃん。
めんどくさいからか、技術を競わせて上がる様にする為だか分からないが、遺恨を残すと僕は考える。
僕も良いけどアンタも良いね。って奴だよ。
お互い一長一短あるんだからそれを認めて協力しないで顧客満足も無いもんだろう。

つづく。。。

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