板前の常識は世間の非常識

板前の常識は世間の非常識
「2年目編」

2年目に入ると調理場の事も少しずつ見える様になって来て、あの人とこの人はどうだとか、料理の流れとか板前の非常識にだんだん染まり始めてくる。

賄いの事を書かなかったが、準備は勿論見習いの僕たちの仕事。
利休箸よろしく親方の箸は一寸水に漬けておき口当たりを良くする。
もっともこれは自分がお茶を習っていたからで、他の人間はやっていなかった。
一番後に食べ始めて、一番早く食べ終わり、先輩のご飯のおかわりやお茶のおかわりを聞いて回る。
冷たいお茶が良いとか温かいのが良いとか、親方のだけは良い茶葉を使うとか色々とポイントがある。
20人分だから見習い3、4人で手分けして気を使う。
で、やっぱり性格の悪い奴ってのはどこの世界にもいるので、熱いお茶を掛けてきたりお茶を入れようとすると湯のみを動かしてこぼさせたり、色々なトラップが待ち構えているので、上手くかわさなければならない。
小利口にかわしすぎると先輩も気分が悪いので、たまにはワザと引っかかって「勘弁して下さいよ〜」なんて言ったりしながらね。内心は忙しいから腸煮えくり返ってるんだけどね。
毎日の事だから、飽きると先輩もやらなくなるからじっと我慢。。。

親方の着替えやお風呂の段取りなんかも新入りに引き継いで、運が良ければ焼き場や揚げ場などメインのポジションの脇(補佐)に入らせてもらえる。
僕がいた店は人が多かったので脇脇みたいな人間も存在していた。笑
親方、2番さん、3番さん、煮方、板、脇板、焼き場、揚げ場、八寸場、飯場。
それぞれに更に脇がいて、宴会専門の人や寿司の人がいて計21人だったかな。
僕は運良く八寸場の脇に入らせてもらえた。
諸先輩は経験あるかも知れませんが、見習いなので六寸場とか七寸場ってよくいわれます。笑 僕は一寸場って云われてた。
難しい注文が入るとちょっとしか動けなくなるから。

僕は物覚えがそんなに良くはないから書いて覚える。
調理場で書くと、「てめーぼけっとしてんじゃねー」とか書いたメモ捨てられたりするからもっぱら便所に行って書いて覚えた。
これは非常に非効率で非合理的だと思ってた。 メモ取らなくても覚えられる諜報員みたいな秀才は良いけど凡人には無理があると思う。
で、間違うと「なんでメモ取らないんだ?、お前バカなんだから考えろよ」っていわれるから余計にややこしい。
レシピだのやり方を懇切丁寧に教え合う店はいいね。 もっとも教えすぎると自分で考えなくなるから又頃合いが難しいんだけどね。

八寸場ってのは凄い。
全てのポジションを網羅出来ないとやれない一番難しいポジション。
四季折々の物や、懐敷、焼き加減や揚げ加減、刺身の大きさから高さまで
全てチェックして弁当箱に収めるトータルコーディネーターだ。
僕がいた店は甘味と言われるデザートは甘い物好きの兄貴がいる板が兼任してたから、それ以外の酢の物だとか細かい珍味なんか全て八寸場が仕切っていた。
雲の上の存在の煮方さんなんかも、「コレ同じだと思うんだけどな〜」って言いながら突き返された煮物何かを作り直してた。

勿論焼物も揚げ物も出来ない僕は違いが全くわからないので、「なんでお前わかんないのコレ?、バカなの?」って毎日云われてた。
僕は根が真面目だから鬱になりそうだった。。。。
ってのは冗談で、同じもん焼いてこい焼き場って思ってた。笑
一日のうちの言葉の9割は、ありがとうございます、すいません、お願いしますだった。

だけどね、奥さんと揉めたのは俺のせいじゃないからイライラをぶつけないでくれる? 
馬鹿ってのは毎日云われてると、頭が本当に馬鹿だと認識してしまう。
で、本当に馬鹿な失敗を繰り返す様になる。ただでさえ睡眠不足で意識がもうろうとしてる中で仕事してる訳だから非効率極まりない。

出来る事なら褒めて伸ばしてあげたいと自分は思う。

長いね。。つづく。

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