アートの力、場の魔力
美術作家・白水麻耶子さんの展示を見るため、高円寺の絵本屋さん、えほんやるすばんばんするかいしゃに行った。
森のようだ、と思った。
お店の奥にある展示スペースに入るとはっきりと「別世界に入った」と感じた。
白水さんの描く白い犬のような、馬のような不思議な動物たちに迎えられる。彼らは神様のようにも見えるし、人が獣に姿を変えたようにも見える。畏怖と、あたたかさを感じる不思議な感覚。
人間の世界とファンタジーの世界の境界線が曖昧になった空間にいるようだった。
柔らかな照明と、照明によってできた影。自分の影さえも展示の一部のようで、余計に境界線が曖昧になっていく。
ほんのり落ち着く良い香りがして辺りを見渡すと、円錐型のお香がいくつか置かれていた。
絵やオブジェとともに、イラストの中に描かれているシルエットと同じ形の鏡が飾られていて、その鏡を通じて絵の世界に入れそうだな、と手をかざしてみた。
作品に見入っていると、木の床が軋んでハッとした。床が軋む、という経験を、今はほとんどする機会がないのでないか。一歩ずつ、木の床の感触も味わいながら進む。
壁や柱にも絵が描かれていたり、「え、こんなところに?」という場所にも作品が飾られていたり、自然と全身の感覚が鋭くなっていく。まるで森や洞窟の中を探検するように。
思う存分その空間を味わってから、展示スペースを出た。その途端、日常に戻っていく。やっぱりあそこは異空間だった。
視覚だけでなく、五感すべてで味わう。普段使っていない感覚が目覚めていくような体験だった。
アートの力、場や空間の持つ“魔力”を強く感じた、素晴らしい展示でした。
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