6つの技術で上手くいく!先生初心者のための授業の教科書 3.発問の技術
「主体的・対話的っていうけど、そんなのどうやって作ればいいの?」「そうしたくても、うちの生徒は考えてくれない!」こんな悩みのある先生はいらっしゃいませんか?
本稿は、私の10年間の経験をもとに授業を「する」ための基本となる技術を6つにまとめた「授業技術の教科書」の第3章です。お読みいただき、書かれている技術をマスターすれば、最低限の「普通の授業」ができるようになり、冒頭のような悩みが少しだけ減るはずです。私が本稿を書くに至った思いなどは、1.はじめにをお読みいただければ幸いです。
本章では、発問の技術について詳しく書いていきたいと思います。
【発問とは何か】
発問とは、先生が投げかける問いによって、生徒の思考を促す技術です。これを上手く使えば、説明だけでは受動的になってしまう授業を、能動的な時間に変えることができます。「主体的・対話的で深い学び」が求められている現在、授業技術の中で最も重要な技術かもしれません。
「生徒の思考を促す技術」ですから、思考した生徒が多ければ多いほどよい発問だったということになり、思考した生徒が少なかったり、そもそも生徒が思考する気をなくしてしまったりしたら、悪い発問だったということになります。「うちの生徒は考えてくれない」と生徒のせいにしてしまわず、自分が発問の技術を上手く使えていたのかを振り返ってみることが大切だと思います。
【どうやって発問すればよいか】
発問の技術を用いる際のポイントは、次の3つです。
①発問フローを徹底する ②考えやすさを調整する ③追い発問を活用する
①発問フローを徹底する
発問フローとは、次の流れのことです。
「発問 → 間 → 指名 → 傾聴 → 拡声 → 評価」
発問をする際は、かならずこの流れに乗っ取るべきです。
発問をしたら、必ず間をあけましょう。生徒に考える時間を与えるためです。すぐに指名したのでは、生徒から考える時間を奪うことになってしまいます。またすぐに答えを言ってしまう生徒は止めるべきです。その生徒が他の生徒の考える時間を奪っていることになるからです。
十分に間を開けたら、発言してほしい生徒を指名します。指名しないという方法も含めて様々な「発言させる技術」がありますが、ここでは基本技術として指名を挙げておきます。指名は先生の意図をもって行います。この発問はすぐに正解させて次に進みたいのか、あえて間違いを言わせて思考を深めさせたいのか。その発問をどう扱いたいのかによって指名する生徒を決めます。また生徒に自信をつけさせたいのか、もっと注意深く考えるようにと伝えたいのか、といった観点からも、指名構想を行うことができます。この際、後述の7.観察の技術が必要になるので、そちらもご確認ください。なお、指名してから発問をする先生をたまに見かけますが、これは悪い例です。他の生徒は考えなくていいことになるからです。
指名し生徒が発言したら、その発言を傾聴します。発言している生徒の目を見て、うなずきながら聞きます。発言のキーワードを板書してもよいでしょう。間違っても別のことをしてはいけません。生徒の発言中はその生徒の発言をよく聞くこと=傾聴に専念します。「この先生は、せっかく発言しても聞いてくれない」と感じさせてしまったら、二度と発言してくれなくなってしまうからです。
生徒の発言が終わったら、拡声を行います。拡声とは、生徒の発言を先生の声で繰り返す(場合によっては言い換えたりしてまとめる)ことです。拡声には2つの効果があります。第一に、発言した生徒に「きちんと伝わった」という安心感を与えることができるということです。この安心感は、次の発言に繋がります。第二に、他の生徒全員に発言内容を共有できるということです。生徒の発言は聞き流している生徒も多いですし、発言した生徒の声が聞こえないということもあります。先生の声で拡声することで全員に内容を共有し、先生と発言した生徒との一対一の会話で終わってしまわないようにします。
最後に評価を行います。詳しくは6.評価の技術をお読みいただきたいのですが、ここで言う評価とは点数や成績のことではなく、フィードバックのことです。「なるほど」「ありがとう」「いい考えですね」など、発言した生徒が嬉しく感じられるような、また発言したいと思えるような言葉を伝えます。生徒の答えが間違いだったときには、特に注意が必要です。「もう発言したくない」と思わせないよう、発言したという「行動」を褒めること、間違いを言ってくれたことでより深く考えられたということを伝え、「たとえ間違いでも発言することに意味がある」という価値観を示さなければなりません。
②考えやすさを調整する
目の前にいる生徒たちにとって考えやすい発問をしなければ、生徒の思考を促すことはできません。「難しすぎるとあきらめ、易しすぎるとあきる」これが生徒の行動原則です。
考えやすさを調整するためには、発問の種類を把握する必要があります。様々な分類がありますが、ここでは2つの軸を下に、4つの難易度に分けておきます。
まず「クローズドクエッション」と「オープンクエッション」の分類です。クローズドクエッションとはYES/NO、もしくはいくつかの選択肢から1つを選ぶというような、思考の範囲が限定された問です。これに対してオープンクエッションとは、自由に意見を言うような、答えが限定されていない問です。オープンクエッションを推奨する本が多いですが、私はクローズドクエッションの方が考えやすいと思っています。なぜなら、選択するだけで考えたことになるからです。自由に考えなさいというのは、一見簡単そうに見えてとてもむずかしいことです。0から考え始めなければいけないからです。
次に「事実問い」と「思考問い」の分類です。事実問いとは「教科書には何と書かれていますか」「朝ごはんには何を食べましたか」といった、明確な事実を聞く問いです。「1+1は?」「江戸幕府をつくったのは誰?」なども事実問いです。思考問いとは、「教科書に書かれていることから何がわかりますか」「朝ごはんには何を食べるといいと思いますか」といった、解釈や意見を聞く問いです。事実よりも解釈や意見の方がより深い思考を必要とします。そのため思考問いよりも事実問いのほうが考えやすいと言えます。
まとめると、次の表のようになります。
クローズドな事実問いが最も考えやすいということになりますが、先述の通り「難しすぎるとあきらめ、易しすぎるとあきる」のが生徒です。7.観察の技術を駆使して生徒の情報を読み取り、目の前にいる生徒にとって適切な考えやすさの発問をすることが大切です。
③追い発問を活用する
追い発問とは、②を使って計画的に行った発問の答えに対して、追加で行う発問のことです。これを行うことで、より「主体的・対話的で深い」思考を促すことができます。
追い発問には、次の三種類があります。
・深める発問:生徒の発言をさらに掘り下げる発問。「なぜ?」「こういう場合は?」など。
・広げる発問:1人の生徒の考えを受けて、他の生徒から異なる考えを引き出す発問。「他には?」「反対(違う)意見の人はいる?」など。
・まとめる発問:深まったり広がったりした考えを、わかりやすく言い換えさせる発問。「つまりどういうこと?」「今までの発言を整理するとどうなる?」
追い発問の文言を見ると、②で言うオープンな思考問いになっているため、難しすぎると感じるかもしれません。しかし一人目の発言をヒントにできるため、それ以降の発問は生徒にとってより簡単に感じられます。1つ目の発問と追い発問は、分けて考えるべきです。
【まとめ】
発問、つまり「先生が投げかける問いによって、生徒の思考を促す技術」を高めるには、①発問フローを徹底する、②答えやすさを調整する、③追い発問を活用する、の3つを意識することが大切です。
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