プラスチックあれこれ-Current Status of Alternative Plastics-
コンビニに行くと、レジ袋をどうするかを尋ねられます。2020年にレジ袋が有料化されてからしばらく経ちますが、有料化されようが量が多ければ普通に購入しているような姿が散見されます。
ユニクロや無印良品に行くと紙袋が置いてあり、マクドナルドでは紙製のストローが使用されています。
しかし、現代の生活においてプラスチックに代わるものというのは中々無いもので、現在ではそのプラスチックをどのようなもので製造するかがキーとなっています。
今日は、生分解性プラスチックに関する現状をお話していこうと思います。
Introduction
海洋ゴミ問題については、2017年のG20ハンブルクサミットにおいて「G20海洋ごみ行動計画」が採択されました。その後、2019年の大阪サミットで「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」が採択されることにより、本格的に世界中で海洋ゴミ対策が推進されます。
同年9月に国連本部で開催されたSDGサミット2019ではSDGサミット政治宣言が採択された以降、2023年にSDGサミット2023において日本のSDGs達成に向けた取り組みについて発信されました。
SDGsには17の目標がありますが、海洋ゴミに関しては14番に当たります。
これらを受けて、日本ではプラスチックの3Rが推進されており、プラスチックゴミを減らすための活動を呼びかけています。
プラスチックとは -About synthetic resin-
そもそもプラスチックとはなんなのでしょうか?
日本語では「プラスチック」と呼ばれていますが、これは英語の「plastic (可塑性物質)」に由来します。可塑性を有するというのは金属でも同じであるので、狭義では「(synthetic) resin(合成樹脂; 樹脂)」が用いられることが多いようです。なお、SDGsの記載はplasticsとなっています。
プラスチックの原料は石油です。原油を熱によりガソリンや軽油、重油に分けたときに出来るものの一つが「ナフサ」であり、これをさらに熱を加えることでプラスチックの原料である物質に分けます。
それぞれの物質は単一(モノマー)であり、気体または液体である物質を重合することにより重合体(ポリマー)へと合成することで固体であるプラスチックが生産されます。「()」内がモノマーの単位で、nは結合数(重合度)になります。ポリエチレン(PE)はエチレンが500個重合したものであり、より大きな製品では重合度は更に上がります。
可塑性を持つことから成形が容易であり、水に強いことや絶縁体であることから工業製品として広く普及し、硬度や耐熱性が改善されたエンジニア・プラスチックなどの高性能なものも存在します。
環境問題 -Environmental problem-
プラスチックの使用済廃棄物は放置していてもほとんど変化しません。実際には熱に弱い性質もあり、加熱により大気中の酸素と結合しポリマーが崩れます。また、紫から近紫外線光によっても劣化するため、全く変化しないわけではありません。
困ったことに、強固で便利な性質が仇となりました。それが、ゴミ問題です。
また、プラスチックは容器や基材などの利用だけでなく、微粉末としての用途もあります。このような微小なものや物理的に分解されて微小なサイズとなったプラスチックは「マイクロプラスチック」と呼ばれます。
マイクロプラスチックは生体内で蓄積されることが判明しており、現在生物への悪影響が懸念されています。
日本は年間のプラスチックの廃棄量が世界でも高い水準にあることから、この問題を率先して解決していく必要があります。特に日本は海に囲まれた海洋国家であるため、漂着する海洋ゴミや魚介類に蓄積されるマイクロプラスチックは深刻な問題です。
生分解性プラスチック -Biodegradable plastic-
この問題を解決する一つの方法として開発されたのが、「生分解性プラスチック」です。
「生分解性」というのは、微生物の働きにより分子レベルまで分解し、最終的には二酸化炭素と水となって自然界へと循環していく性質をもつものであり、このような性質をもつプラスチックが生分解性プラスチックです。
生分解性プラスチックには複数種類があり、生物資源(バイオマス)由来のものと石油由来のものがあります。特にバイオマス由来のものはデンプンや植物由来の糖が用いられます。なお、バイオマス由来であっても生分解性がないものもあるので、バイオマス由来のすべてが良いというわけではありません。
しかし、生分解性プラスチックでも、海洋で速やかに分解する生分解性プラスチックはごく一部であるという報告もあります。
特に、バイオマスプラスチックであるPLAは植物由来の乳酸のポリマーですが、1年では分解されず残り続けるという研究結果でした。このように、生分解性プラスチックであっても海洋環境化では分解されにくいものもあることから、生分解性プラスチックといえども環境に応じた改良が必要になります。
海洋生分解性プラスチック -Marine biodegradable plastic-
生分解性プラスチックの中で近年開発された、海洋環境に特化した分解性を有するプラスチックというものが開発されました。
どういうものかというと、ポリマーの内部に海水のナトリウムイオンと反応して分解されるイオン結合を導入することによって、海水に入った時点で分解が開始される「生分解開始スイッチ」を持つプラスチックになります。これが現在国の機関で推進されている研究になります。
イオン結合を有する海洋生分解性プラスチック素材を開発 | ニュース | NEDO
海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業 | 事業 | NEDO
海洋生分解性プラスチックとは? (aist.go.jp)
これは樹脂添加剤となるので、既存の生分解性プラスチックに添加するものとなります。現在、国内プラスチック生産量(約1000万t/年)のうち、国内で流通している生分解性プラスチックは約0.02%と少なく、海洋生分解性プラスチックにいたってはわずかしかないのが現状であることから、市場への展開が期待されます。
木質バイオマス -Feasibility of using Biomass-
バイオマスのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます。
木質バイオマスには、主に、木を切ったりしたときに発生した木材以外の枝や葉(林地残材)や製材工場などから発生する樹皮やのこ屑などのほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝などの種類があります。
山で切られた木というのはすべて利用されているわけではなく、木材として利用できないようなC材やD材はほぼ利用されず山に放置されているのが現状です。実際製材所や建築廃材として発生したものは90%以上は利用されているのに対して、林地残材の利用率は30%以下となっています。
また、木質バイオマスのほとんどは燃料として利用されています。チップやペレットとなった燃料源としての木材は現在では電力需要として奪い合いのような状態になっているようです。
そこで、今まで未利用だった木材や植物の素材を利用することを目的に開発が進められているのが、セルロースナノファイバーです。
セルロースナノファイバー -Cellulose Nanofiber; CNF-
セルロースは植物細胞の細胞壁や繊維の主成分であり、地球上で最も多く存在する炭水化物です。セルロースは植物中では繊維上であり、それを紙や綿などとして利用してきました。
セルロースも糖が直鎖状に繋がったポリマーであり、天然に存在する高分子になります。近年では、それを機械的に解きほぐし繊維や網目構造にして自在に形を変える素材としてセルロースナノファイバー(CNF)の研究開発が進められています。
CNFは軽量、高強度、高弾性、保水性、撥水性、透明性などの特徴を持ち、なおかつ天然素材になるので生分解性・再生可能資源であることが注目されています。素材となるセルロースは植物由来であり、ほぼ無尽蔵の持続的資源であるといえます。
また、このCNFを加工デンプンと混ぜ合わせることで海洋分解性プラスチックフィルムシートを生産する方法が考案されています。デンプンから生産するバイオベースポリマーは従来は耐水性に難があり、実用化されていませんでした。しかし、CNFと複合することによりその弱点を克服し、新たな海洋分解性プラスチックとしての利用が期待されています。
Conclusion
いかがだったでしょうか。プラスチックを取り巻く環境問題と解決に向けた
技術の展開についてお話させていただきました。
特にCNFは利用が推進されることによって、森林の育成をより進めることができ、海洋ゴミ問題だけでなく二酸化炭素問題の解決へも繋がるものであり、どんどん推進していってもらいたいところです。
環境問題の解決には新たな素材が求められているところではありますが、最も大事な部分はまず第一に「個々の消費者の意識の変革」にあると筆者は考えております。再生可能なプラスチックは洗って資源回収に出し、自然に投棄するものをなくし、より環境に負荷の少ない製品を選択していくことが重要だと思われます。
スーパーやコンビニなどでプラスチックトレイの製品を手に取ったとき、このお話を思い出していただければ幸いです。
ご清聴ありがとうございました。