見出し画像

根っこ概論-Introduction-

木を描いてください、と言われたとき、あなたはどのような絵を描くでしょうか?
幹は描くでしょう。そして、一緒に枝を描きます。葉を丸く、または緻密に描くでしょうか。

では、根はどうでしょうか?

木の根は土の中にあるため、日常では見ることはできないことからあまりよく知らない人も多いのではないでしょうか。
今日は、根の話をします。

そもそも根とはなんでしょうか?

根の役割は主に3つあります。

  1. 地上部の支持

  2. 水・養分の吸収、運搬

  3. 養分の貯蔵

順に見ていきましょう。

①地上部の支持
植物は一度根が生えたらほぼ自力で移動することができません。
同じ環境に居続ける中で、当然環境の影響も強く受けます。風雨の影響を受けるのは日常であり、地上部が倒れないように踏ん張るのが根の役割になります。

話を発展させると、山においては木や下草が土を捕まえていることで土砂の流出を抑える機能があり、裸地では森林土壌の150倍の土壌が流亡するとされています。また、根が張り巡らされていることで地盤の侵食や崩壊を防ぐ機能がります。

②水・養分の吸収、運搬
根が水や養分を吸収していることは学校でも教わることでしょうから、イメージが付きやすいかと思います。
根から吸い上げられた水はというと、葉から吸収された二酸化炭素から糖を合成するために利用されます。これが光合成というものです。

細かい話をすると、水は光合成だけでなく葉の裏から蒸気として放出されています。これは蒸散と言い、放熱や水ポテンシャル勾配の変化により地中から更に水を吸い上げるという現象です。

養分の話はというと、根と土壌の水分の間で浸透圧を利用して無機塩類などを吸収し、体内の水の流れを使って全身に養分を運んでいます。

肥料に窒素(N)リン酸(P)カリウム(K)の成分費が書いてあるかと思いますが、Nはアミノ酸の構成要素であり酵素や原形質となり、PはDNA・RNA・細胞膜の構成要素であり、Kは細胞膜でイオン輸送や浸透圧の維持に関わっています。
どれも欠かすことができないことから三大栄養素と呼ばれ、根から供給されていきます。

③養分の貯蔵
ニンジンやダイコンなどの根菜を想像してもらえればイメージしやすいですが、根は養分を貯蔵する役割も担っています。野菜ではこれを貯蔵根と言います。樹木でいうと、秋に落葉した葉の養分を根で回収し、冬の間蓄えた後新芽を出すエネルギーとします。

木本植物においては、落葉樹では全身に栄養をためているものの、エネルギー源については主にデンプン型と脂質型に分かれるようですが、根においてはデンプンとして蓄えられることになります。なお、常緑樹については養分の貯蔵は主に葉であり、落葉樹とは異なります。

根系の呼吸代謝

ところで、根も呼吸しています。

根において、酸素の供給は土壌間隙の空気からとなっていますが、根が冠水すると酸素が供給されなくなり衰弱します。水にも溶存酸素は存在しますが、その供給も遅いので最終的には窒息状態になります。結果、根腐れを起こします。

植栽した樹木は、軟弱な土壌などで過度に覆土をすることがありますが、それにより地上付近の根の土が厚くなることで酸欠状態となり枯れてしまうというケースがままあります。

根が呼吸する以上ある程度根が空気に近い位置まで張っている必要がありますが、街路樹においてはそうも言っていられないのが実情です。クスノキなどは根の広がりが大きい樹種であり、狭い範囲に植えられていると根が盛り上がって道路を持ち上げてしまう根上りという現象が生じます。根上り対策として根系誘導耐圧基盤工法(パワーミックス工法)というものがありますが、いちばん重要なのはそもそもの植栽樹種の選択にあると思います。

以上から、根の大事さがなんとなく伝わったでしょうか。

樹木の管理については、根系保護範囲という考え方があります。特に、CRZ(Critical Root Zone)は樹木の構造的安定性・健全性に不可欠な範囲で、それを保護するための外側の範囲をTPZ(Tree Protection Zone)と呼びます。
CRZはDBH(胸高直径)の12倍の範囲であるとされており、大きな木ほど広い範囲の根張が必要となることがわかります。なお、一般的には根は樹冠の幅と同じぐらいとされていますが、街路樹の管理マニュアルは上記の考え方に基づいています。

根は、水や栄養の吸収や呼吸をする”口”であり、体を支える”足”であり、栄養を貯める”内蔵”であることから、筆者は植物は逆立ちして頭が地中にあるとも考えています。なんか変な考え方ですか?

公園や歩道を歩いたとき、街路樹を見かけたらふと根のことも考えてもらえれば幸いです。

ご清聴ありがとうございました。

【Reference】

大山卓爾『ずかん 根っこ」
ISBN:978-4-297-13654-3

東京都建設局『令和3年度 街路樹診断等マニュアル』
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/content/000051876.pdf

都市樹木診断の成り立ちと近年の動向(3)─都市樹木診断の近年の動向─
https://www.jstage.jst.go.jp/article/treeforesthealth/24/2/24_114/_pdf/-char/ja

根の呼吸の日中変動とその要因:根と葉の結びつきを考慮した生態学研究の新たな可能性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/59/1/59_KJ00005488848/_pdf


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?