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オンライン漬け人生について

先日、他社で役員を務める知人と会話していて、「ほう」と思った話をする。

知人の会社は、伝統的中堅企業なので、いまだに「新卒一括採用」をやっているらしい。コロナ渦でもあり、最終面接以外はオンライン面接で採用選考を進めているのだという。

昨今の学生さんは、20年頃からもう2年以上も大学の方もオンライン授業が主体であり、大学でのリアルな授業の方がどちらかと言えば少ない。したがって選考プロセスでもオンラインでの対応は手慣れたものであり、その点に関しては何ら問題はない。

会社に入社してからも、その会社は全部ではないがテレワークを導入しており、週の半分くらいは在宅で仕事をするようになっているのだと。新入社員の研修なども大半はリモートである。

で、知人の話に戻る。

彼は、「大学時代もオンライン授業、採用面接もオンライン、入社後の研修もオンライン、仕事もオンライン、まるでオンライン漬けでしょ。こんなんで数年後に彼らはまともな社員になっているんですかねえ」と言って、心配しているのだ。

「いまの新人が中堅になる頃には、どうせ私は会社にいるかどうかもわかりませんがね。でも、同じようなことが日本国中で起きていると思うと、何やら空恐ろしい気がするんです」

たしかに、そのとおりである。過去になかったことが、いま起きている。この先、どういう光景が見えてくるのか、誰もわからない。何やら不安な気持ちになるのは、僕も同じである。

大学の方はどうでもいい。大教室でのマスプロ授業なんか、どうせ一方通行の情報の切り売りである。オンライン授業の方が、むしろ先生の顔もよく見えるし、動画配信であれば、本人の理解度に応じて、何回でも繰り返し見て復習することもできるし、却って効果的かもしれない。どこかの予備校の授業と同じだと思えば良い。少人数のゼミ活動とかも、まあリモートでやれなくもない。先生との1オン1での質疑応答や意見交換もリモートで十分対応可能である。

新入社員教育も、まあリモートでやれる。どうせ研修なんか誰も大して期待していない。

問題はビジネスパーソンとしてのOJT教育の方であろう。こちらは徒弟制度みたいなものだからである。特に日本企業の場合はそんな感じである。必ずしも体系的なカリキュラムがあるわけでもない。上司や先輩の背中を見ながら覚えろというクラシックな教育が、伝統的企業であればなおさら現在も行われているはずである。銀行もご多分に漏れずであった。

リモートでいろいろな知識をインプットしつつ、課題を与えて、レビューを行ない、教育指導も行なう。お客さんとの営業活動もリモートで実施するから、上司や部下とお客さんとの商談に新人も陪席させて勉強させることになる。議事録を作成させたり、レポートを書かせたりすれば、理解度をチェックすることも可能であろう。慣れてくれば、企画書や商談に関して徐々に新人に独り立ちさせていけば良い。何か問題があれば指導する。

考えてみると、案外、何とかなりそうな気もしてくる。上司・先輩と部下のタテの関係においては、従来リアルに向かい合ってやっていたことをリモートに移行するだけのことである。

厄介なのは、ヨコのつながりである。同期とか似たような世代の同僚との交流が希薄になる。それはそれでオンラインの交流会でも定期的に実施すれば良いのかもしれないが、「同じ釜の飯を食う」的な濃密な人間関係や仲間意識を醸成するのは難しいかもしれない。

大学生も同じである。せっかく大学に入学したのに、ろくすっぽ大学に通わないで卒業して、単位や卒業証書はもらえたとしても、かつての我々が学生だった頃と比べたら、多種雑多な人間と出会う機会は確実に減ったはずである。

日本企業は「メンバーシップ制」で、欧米企業は「ジョブ制」だという話をよく耳にするが、リモート漬けの状態が今後も続いた場合、この辺の違いは崩れてくるような気がする。日本企業も、早晩、「ジョブ制」的な文化に染まって来るだろう。

チームで何とかするという感じではなく、より仕事本位な感覚になる。与えられた課題に対する成果で評価される。個人のスキルを磨き、それに見合った報酬や処遇を与えてくれる会社にどんどんと機会を求めて転職する。チームワークよりも個人主義である。

あと何年かすれば、そんな感じになりそうである。でも、それが吉と出るのか凶と出るのかは、わからない。


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