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「社内公募制」について

前に、脱「年功制」について書いた。

その際に、それぞれのポストに在職限期間を設けて、定期的に改選するようにして、オープンに競わせればよい、ついでに「役職定年制」も廃止すればよいという話をした。

今日の日経新聞に、「パナソニックホールディングス(HD)の子会社で電子部品を生産するパナソニックインダストリー(PID)は10月をめどに、課長職と部長職を公募制にする。」という記事が載っていた。

同じ記事に、リコーやNTTグループでも同様の動きがあるということも触れられている。

文脈としては、シニア人材の活用というよりか、若手社員の早期登用による組織活性化の方に重点が置かれているような気がするが、それでも「役職ごとに必要なスキルや職責、処遇を明示」しつつ、「職務を明確にしたジョブ型の人事制度を取り入れることで、キャリア形成の主体性や異動の透明性を向上させる」というのは、評価してもよいと思う。

あとは、実際の運用がどうなるかであるが、実はこちらの方がとてもハードルが高いと思う。

つまり、立派な制度を設計しても、運用が「腰砕け」になってしまうと、何も現行と変わらないということになってしまうからである。

どこの企業でも、現状に危機意識を持った「改革推進派」がいる一方で、現状のあり方を踏襲することに安心感を持ち、変化を嫌う「守旧派」もいる。というか、どちらかといえば、後者の方が大多数であったりする。

たぶん、この制度がうまくいくかどうかのポイントは、「選考プロセスを誰が担うのか」であろう。各部門内に任せるのでは意味がない。旧来の論理から脱却するのは難しい。何も変わっていないと言われると困るから、アリバイづくり的に、女性管理職とか、若手ホープとか、見栄えの良いアドバルーンのような人材を少数は登用するのかもしれないが、大多数のポストは従来と何も変わらないというようなことが想定される。

各部門の選考に人事部がある程度は関与するとしても、所詮は同じような感じになる。社内の論理とか空気みたいなものは無視できないからである。

1つの対策としては、各ポストに任期を設けて、任期が来たら、改めて改選することである。何回もリセットしているうちに、徐々に各ポストに見合った人材が登用されるようになるかもしれない。

2つめの対策は、社外取締役とか外部の有識者といった「世間の目」を選考プロセスにどこまで関与させることができるか、「市場価値」に基づいた選考が行われるかどうかである。社外取締役とか外部の有識者とて、「誰を呼ぶか」は企業判断であるが、社内の密室で選考することに比べれば、ある程度の透明性や公平性は期待できるだろう。

3つめの対策としては、「社内公募」にとどまらず、「社内(外)公募」にしてしまって、ポストごとの「職務要件表」を世間に公表し、「我こそはと思う人は、どうぞいらっしゃい」というところまで一気に進めてしまうことである。「ビズリーチ」みたいなサイトに「職務要件表」を公開して、実際に公募すれば、どの程度の人材が市場には存在するのか、社内人材と相対比較してみることが可能であるし、否が応でも「市場価値」を意識せざるを得なくなる。

オーケストラのコンサートマスターは、平楽員とは別ルートで公募して、オーディションを行なって選考される。平楽員が何年頑張ろうと、年功序列で自動的にコンサートマスターに選ばれることはない。コンサートマスターになりたいと思えば、自分も改めてオーディションに参加して選考を受けるしかない。オーディションに合格してコンサートマスターに選ばれたとしても、一定の試用期間を経て、改めて正式採用か否か判断される。単に技量が優れているだけではダメで、コンマスに相応しいリーダーシップや人間性まで含めて評価されることになる。

文字どおりの実力の世界である。でも年功制に守られた「ぬるま湯」みたいなところから脱却するには、日本企業もこういう刺激的な世界に飛び込むしかないのではないかとも思ってしまう。

バブルの頃までは、「日本的経営」がもてはやされたが、その後の失われた30年を経て、日本企業の世界的な相対的地位は下がる一方である。日本という国自体も同様であるが、結局のところ、「ムラ社会の内向きな論理」だけに凝り固まって、旧来のやり方を大胆に改められなかった結果、世の中の動きの速さに乗り切れなかったという点で、日本という国も、日本企業も似たようなところがある。

もう既に手遅れなのかもしれないが、経済が沈むと国も沈む以上、とりあえずは各企業は大きいところも小さいところも、自分のところだけは生き延びるための手立てを講じる必要がある。そのためには荒療治も必要だし、社内で軋轢が起きて、反乱軍が暴動を起こすくらいのことをやらないと、どうしようもないような気がする。

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