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レコードについて

僕はアラカンなので、大学生時代くらいまでは、音楽を聴くことと、アナログ・レコードを購入することは、ほとんど同義であった。

CDが一般的に普及するようになったのは、社会人になってしばらく経過した頃であった。ステレオに接続するCDプレーヤーが当時の価格で十数万円したのを覚えている。当時はまだCDのソフトがあまり普及しておらず、依然としてアナログ・レコードの方が幅を利かせていたものだ。

初めてCDの音を聴いた時、アナログ・レコードのレコード盤と針が擦れるザラザラという音がしないことにまずは感心したものである。

やがて、アナログ・レコードからCDへの乗り換えが急速に進み、カセット・テープなんてものも廃れた。気がついたらレコード・プレーヤーも持っていないし、それどころかCDプレーヤー自体もはや持っていない。パソコンに読み込んでスマホで聴くから必要ないからである。

ある時期までは、アナログ・レコードを数百枚単位で保有していたものだが、たび重なる引っ越しの際の負担感に耐えかねて、すべて処分してしまった。ブックオフで売ったのではないだろうか。値段はたぶん二束三文であったやに思う。

オペラの全曲盤などは、LPレコード3枚組とか4枚組であり、豪華な箱に入っており、大いに所有欲が満たされる。「音楽を所有している」という感じがしたものである。CDはあまりそういう感じがしない。たとえるならば、アナログ・レコードは「資産」であるが、CDは「消耗品」という感覚である。中身のコンテンツに意味はあっても、CDという媒体にはあまり思い入れを持つ人は少ないのではないだろうか。

ストリーミングがここに来て一気に広がったのは、インターネットや通信回線の普及というインフラの整備もあるが、CDという媒体の「素っ気なさ」にも関係あるのかもしれない。それでも日本はどういうわけだか、いまだ「世界で一番CDが売れる国」らしいが。

デジタル・ミュージックがこれだけ普及しても、アナログ・レコードにこだわる人たちが一定数は存在することは知っている。一般的な音楽CDでは、人間の可聴域(音が聞こえる範囲)である20Hz~20,000Hzの間の音だけを取り出しデジタル処理(サンプリング)して記録するのに対して、アナログ・レコードでは状況によっては20,000Hz以上の音やデジタル処理時にこぼれてしまった音も理屈的には記録可能だから、「CDでは聴こえないものも聴こえる」ということらしい。まあ、こういうのは、音にこだわりのあるオーディオ・マニアの人たちのいわば「趣味の世界」の話なのだろう。

Z世代を中心とする若い人たちが、再びアナログ・レコードに注目しているという話は、たいへん興味深い。

理由はいくつかあるのだろう。先ほど書いた音質の優位性にこだわる人たちもいるのだろうし、所有欲が満たされるといったこともあるかもしれない。単にお洒落なインテリアといった側面もあるのだろうか。あるいは昔のJポップのリバイバル・ブームに乗って中古レコード店で昔のLPやドーナツ盤を発掘して、それらを単純に聴いてみたいということなのかもしれない。

世の中、何が流行るのか、本当にわからないものである。

こんなことならば、二束三文でブックオフで処分せずに、もう少し辛抱してアナログ・レコードを保管しておけば良かったのかもしれない。


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