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東大生の就職先について

東大生は、就職活動をするにあたっては、有利な選択肢をいろいろと自由に比較検討できる立場であることから、彼らの選ぶ進路を見れば、その時点における「美味しい」職業ランキングみたいなものが、浮き彫りになって来ると言えるかもしれない。

過去においては、東大、特に東大法学部出身者の進路と言えば、「キャリア官僚」というのが、長らくの代表格であった。

たしかに仕事はキツイし、若い頃は給料も安いのかもしれないが、年功序列的にある程度のポストまでは上がって行けるし、天下り先での報酬やら退職金までトータルした生涯賃金ベースでの旨味は侮れない。しかも天下国家を動かすスケールの大きな仕事もできるとあって、民間企業に就職するよりも、キャリア官僚として中央官庁に就職する方が、明らかに「格上」であると認識されていたようだ。

それが、いつの間にやら、キャリア官僚になりたがる東大生が徐々に減少して、とうとう24年春の国家公務員総合職試験の合格者は過去最低になったという。代わって、<23年3月に東大を卒業・修了した学生の就職先で最も多かったのは楽天グループの17人だった。大学院修了生だとコンサルティング大手のアクセンチュアの41人となった。>とのことである。

ずいぶんと世の中、変わってしまったようである。

たしかに、深夜までの残業が当たり前だし、頭の悪そうな政治家の先生方にもペコペコしないといけないし、これはコロナ渦でも明らかになったことだが、業務のIT化が恐ろしく遅れており、「昭和かよ」と言いたくなるような、アナログで非効率な仕事のやり方がいまだ改められないままだし、おまけに民間に比べると給料は安いしで、今の若者としては、年功序列でそこそこのポジションに昇進するまで、辛抱して待っていられないということになるのだろう。

それにしてもである。「楽天」が3年連続で就職先の第1位というのには、かなり驚かされた。長年、社会人をやっていた身としては、違和感しかない。

失礼だが、「単なるECサイトやん」という感じである。それに同じECサイトであっても、ユーザーの立場から見れば、Amazonの方がよほど万事に洗練されており、使い勝手が良い。携帯電話は大赤字だし、10年後に存続しているかどうかさえ怪しい会社である。おまけに創業者のワンマン企業、実態は個人商店である。

楽天に就職する東大生(特に学部卒の文系)が多い理由としては、とにかく大量に新卒を採用しているということがあるらしい。<楽天Gは20〜23年に国内新卒を700〜800人ほども採用している。メガバンクをはるかに上回る採用人数は、快進撃の要因のひとつだろう。24年卒は約220人に絞ったことで東大卒の人数も減りそうだが、同社によると「東大卒の比率は微増」になるという。>

かつては、メガバンクがどこも競って大量採用をしていたが、今は楽天が同じような立ち位置のようである。と言うのも、楽天が必ずしも第1志望というわけではなくて、外資系企業やコンサルに通らなかった学生の受け皿となっているというのが実態のようだからである。

同社が、英語を公用語化していることも、就活マーケットにおいてプラスに作用するらしい。海外留学経験者などグローバル志向の強い人材が集まるとのことである。他には、昇進スピードが他社よりも早い、ITスキルが身につくといった理由が挙げられている。

離職率はそこそこ高いようだが、今の若い人はもはや定年まで同じ会社で勤め上げようという意識が希薄になっているから、これは楽天に限った話ではない。

が、しかしである。

昔から、「東大生がたくさん入社するようになったら、その業界、その会社はそろそろオワリ」という話をしばしば耳にするのも事実である。

かつては、繊維産業、映画業界、その後は、メガバンク(都市銀行)といった具合で、その時々で脚光を浴びる業種・業界はめまぐるしく変遷している。繊維も映画も銀行も、今は昔年の面影はない。

就活マーケットでの最強者である東大生は、他大学の学生に比べて、いろいろな選択肢から選り取り見どりで選べる立場にあるから、彼らの進路を見れば、その時点で多くの若者が「就職したい」と思うような業種・業界を示していることになる。いわば、最大公約数的に誰にでもわかりやすい、「旬の業界」とほぼ重なると言えそうである。

言い換えれば、「旬の業界」ということは、もう後は凋落するしかないという意味でもある。所詮、大学生の見立てであるから、中長期的な視点ではなく、表層的、近視眼的な視点での判断である。業界のポテンシャルや将来性まで見ているわけではない。

景気動向を示す指数として、先行指数、一致指数、遅行指数というのがある。このうち、遅行指数というのは、実際の景気の動きよりも遅れて反映されるような指数であり、具体的には、完全失業率、法人税収入、家計消費支出等がある。いわば、結果を事後検証するために使われる指数である。

そういう意味では、東大生の就職先ランキングというのは、世の中のトレンドの遅行指数の1つと考えることができるかもしれない。つまり、ここに上がって来るようになれば、誰が見ても「良い業界」「良い会社」ということであり、それはすなわち、そろそろ業界としても企業としても、旬を過ぎており、もう間もなく落ち目になるだろうということである。

僕が就職した頃の都市銀行(今のメガバンク)は、飛ぶ鳥を落とす勢いで、時価総額で世界トップを競うほどであった。まさか、今みたいな体たらくにまで落ちぶれることになろうとは、その頃、誰も思わなかった。

楽天も、やがて、あと数年か経てば、今のメガバンクみたいになっているとしても、何ら不思議ではない。というか、メガバンクの場合は、「腐っても鯛」であり、名前や看板は変わったとしても、今も存続しているわけだが、楽天の場合、どうなっているやら、もはや僕には想像もつかない。

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