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小野伸二の引退について

サッカー元日本代表の小野伸二が今シーズン限りで引退することになった。ずっと怪我に苦しめられ続けた選手生活であったから、44歳まで現役であったこと自体が快挙であり、とんでもない偉業であると言えよう。

少年時代から天才ぶりを発揮した選手である。今でも、YouTubeを検索すれば、いろいろな過去の動画が閲覧できるが、テクニックの点に関しては、日本人選手としては異次元の領域である。特にトラップ、つまりボールを止める技術は傑出している。魔法のようにボールが足元に収まるのだ。彼のような名手のプレイを見ていると、サッカーが本当に簡単そうに思える。ただ単にボールと戯れているようにしか見えないのだ。

杉山茂樹も書いているが、この不世出の天才、日本サッカー界の至宝を潰したのは、日本サッカー協会であろう。

<99年7月4日。小野を語る時、この日に見舞われた重大事故を外すことはできない。シドニー五輪アジア地区1次予選対フィリピン戦で、左膝に悪質なタックルを受けた一件だ。第1戦は13-0だった。日本はすでに最終予選進出を決めていて、その最終戦となる消化試合が、フィリピンとの第2戦。ホーム開催のリターンマッチだった。>
<小野は直後にパラグアイで開催されるコパアメリカ1999に臨む日本代表の一員に選ばれていた。だが、出発の間際になって、フィリピン戦を戦う五輪チームの一員に移された。観戦チケットが売れていなかったからだと言われている。小野を客寄せパンダにしようとしたわけである。国立競技場にはその結果、3万9000人が集まった。その前半30分過ぎ、小野は相手選手に蟹挟みを食い、靭帯に大ケガを負った。>

日本サッカー協会は、どうでも良いような試合でも、代表選となると、ベストメンバーをずらりと揃えたがる。スポンサーとの関係性や興行政策等のオトナの事情が絡むのは理解できるが、この辺のスタンスに関しては今でもまったく進歩していない。要するに、大局的な視点が欠如しているのだ。消化試合のような、格下相手のしょうもない試合なんぞ、若手に国際試合経験を積ませるテストマッチみたいなものと割り切れば良いのにである。

強豪国などは、その辺り、露骨なまでにメンバーを入れ替えている。W杯で勝ち上がろうと思えば、予選レベルからムキになっても仕方がないのだ。主力は適当に温存しつつ、いろいろな選手をテストすることで、いざという時の選択肢を増やしておく必要があるからだ。トップ選手は力量は把握できているわけだし、代表戦よりも所属クラブでのポジション争いの方を優先してもらうべきなのだ。

いずれにせよ、小野伸二は、不見識な日本サッカー協会の犠牲になったわけで、この試合での大怪我が彼の輝かしいキャリアに後々も祟ることになる。この時の怪我さえなければ、ワールドクラスのサッカー選手としてビッグクラブで大活躍したかもしれない。惜しいことをしたものである。

小野伸二が、18歳で代表デビューした頃に比べたら、日本人選手が海外で大勢活躍するようになり、代表チームの主要選手たちの多くは海外クラブ所属となっている。隔世の感がある。今や多士済々と言っても良い。

W杯のアジア出場枠も、98年フランス大会の頃は、わずか2枠だったのが、22年カタール大会では、4.5枠(主催国は除外)、26年大会では、8.5枠になるらしい。アジア・中東諸国のおカネのパワーによるものであろうが、現在のアジアでの日本のランキングを考えれば、W杯に出場すること自体は、あまり難しい話ではない。というか、出場できなかったらどうかしている。

だったら、予選レベルでベストメンバーを揃えるのは、興行的な事情を除けば、なんとも大人げないし、選手の無駄遣いである。本大会でベスト8に入るのが目標であれば、中長期的な視点に基づき、割り切った戦い方に変えていく必要がある。予選レベルの試合においては、若い選手や実績がまだ未知数の選手を積極的に起用して、代表クラスの選手層の厚みを増強することを主たる狙いであると頭を切り替えるべきであろう。

そうでないと、小野伸二のような逸材を、つまらない試合で使い潰してしまう愚をまた繰り返すことにもなりかねない。日本サッカー協会は、もっと学習能力を向上させるべきであろう。


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