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資格試験について

先日、NHKの「ドキュメント72時間」で、「資格試験の予備校」のエピソードの回をたまたま視聴した。

大阪梅田にある大手資格予備校が今回の舞台である。NHKだから固有名詞は出されていなかったが、「LEC梅田校」であった。実は、昔、ここで「宅建」の「実務講習」を受講したことがあったので、見覚えがあったのだ。ちなみに、「実務講習」というのは、2年以上の不動産関係の実務経験がない宅建合格者が都道府県知事の資格登録を受ける際に必要な法定講習である。

番組ではいろいろな事情を抱えた人たちが取材を受けていた。サラリーマンとして働きながら、将来のことを考えて国家資格の受験をめざす若い人たち、定年後を見据えて今から着々と専門性を身につけようと準備中であったり、バブル入社で上がつかえていてポストもなくリストラの不安を抱えるシニア・サラリーマンたち、子育てが一段落して再就職をめざす主婦、新卒で入社した会社が合わず退職して、その後も職を転々としている女性等々、置かれている状況や立場はそれぞれである。

決して安くはない学費を納めて、貴重な時間を費やして、サボりたい気持ちを克服して、懸命に勉強する人たちの姿勢に対しては、ただただ純粋に敬意を表するしかない。僕自身には、もはやそういう気力も根性も残されていないからである。

「リスキリング」「リカレント」「学び直し」といった言葉を、あちこちで目にする機会が増えたし、「勉強しなくっちゃ」と考える人は、老若男女問わず確実に増えているのは結構なことだと思う。

終身雇用、年功序列を所与のものと考え、一旦、就職してしまったら、社内研修等を除けば、自発的な「学び」というのは決して活発とは言えなかった状況に変化が生じてきたのは、終身雇用的な人事制度が崩れ、自分のキャリアは自分で切り拓くしかないという考え方が浸透してきたとも言えるし、勤め先企業に対する信頼感が昔よりも低下してきたのだとも言える。いずれせよ、就職したら一生ご安泰な世の中ではないのは間違いない。

資格取得をめざす若い人たちは、まずは資格を取得して、それから実務経験を積むというキャリアパスが展望できるのだろうが、この番組でも登場していた中高年に関しては、ちょっと事情が違ってくる。

中高年の場合、転職するにしても、まずは期待されるのはこれまでの実務経験であり実績である。それらを裏づけるためであったり、箔をつけるための資格取得であれば問題ないが、前者がないのに後者があっても、転職マーケットではたぶん評価されない。仮に「3大難関資格」と言われる「医師、司法試験、公認会計士試験」であっても同じであろう。

現在、放映中で来週最終回を迎える「星降る夜に」というドラマに、ディーン・フジオカ演じる45歳の新米医師が登場するが、現実にはこういう人を受け入れてくれる職場はなかなか見つからないだろう。中年の新人弁護士とか新人会計士も同じである。親子ほど年齢差のある他の新人と並べて教育するには、教育する側にとってコスパが悪すぎるからである。

それでも、幾つになっても向学心や向上意欲があることを示す指標にはなるのだろうし、資格取得に取り組む姿勢は否定されるものではない。少なくとも何もせず、ボーッと生きているよりかは遥かにマシである。

米国では、採用選考において、年齢、人種、性別で差別するのは違法であり禁止されているので、書類選考は年齢や性別の記載も写真もなしで行われるという。もちろん、面接すればわかることだし、最終的に誰を採用するかを判断するのは採用する側の裁量だから、多分にタテマエの世界の話ではあるが、日本でも同じような制度が導入されることになる可能性は十分ある。

それに、高齢になっても働きたい意欲のある人は昔よりは増えているだろうし、平均寿命も延びている一方で、年金制度もアテにならないし、必要に迫られて働かざるを得ない人も多いだろう。そうなれば、履歴書の資格欄に運転免許くらいしか記載事項がない人よりも、いろいろと持ちネタのある人の方が優遇されることは間違いないだろう。

おカネは使ってしまったらそれでオワリだけど、勉強して身につけたことはなくならないという話は、昔から繰り返し聞かされてきたことである。

だが、今の世の中、勉強しなければならないという気持ちはあっても、何を学べば良いのかわからないという人が多いという話も耳にする。危機感ばかり煽られて、焦りを感じている人もいるのだろう。

まあ、こういうのも当たり外れはあるのだろうし、興味や適性のないことに取り組んでもシンドイだけだろうから、自分の仕事に関連があって興味を持てそうなことから着手するしかないだろう。

で、ここまで書いてきて、ふと思ったことであるが、「勉強しなくっちゃ」と考える人たちが増えれば、確実に儲かるのは教育産業、たとえば今回のテレビ番組の舞台になっていた資格予備校のような機関である。取材を受けていた司法書士をめざす人たちが受講していたコースもずいぶんと高い学費がかかるようであった。無事に難関資格を突破すれば最終的に元が取れるのかもしれないが、合格率が低い難関資格であれば途中で挫折する人も多いということになる。それでも資格予備校は確実に売上が上がる。なかなか美味しい商売である。

米国のゴールドラッシュで儲かったのは、金を掘りに行った人ではなくて、作業着を作って売ったリーバイスだという話を思い出してしまった。




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