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「デマンド交通」について

経済学者の野口悠紀雄の『2040年の日本』を読むと、近い将来、自動運転が当たり前になった世の中で起きることとして、①地域間格差の是正、都市内の地価の平準化が進む、②自動車は所有する物ではなく利用する物になり、自動車の保有台数は激減する、③駐車場スペースが不要となり、地価が暴落するといった現象が起きることが予測されるのだという。

そういう中長期的な視野で眺めるならば、今の状況は「過渡期」ということになるのだろう。

ただし、②③はよくわかるが、①は少し違和感がある。というか、都市部はともかくとして、地方の過疎地ではあまり進展しないような気がする。

現在、進めている「デマンド交通」は実証実験ということで、自治体の補助金が前提で成り立っているようなところがある。過疎地でコマーシャルベースで成り立つのかどうかとなると疑問が残る。

もっとも、公営の路線バスを廃止する代替策として、自治体からの支援が恒久的に受けられる前提であれば成立する可能性はある。

しかしながら、人口減少が進み、都市インフラの維持管理にもカネがかかることを考えれば、本来ならば、過疎地の住民を都市部に移住する方向に誘導するべきであり、行政のあるべき方向性としては、あまり便利にならない方が望ましいのだろう。

都市部においても、公営の路線バスの代替手段として考えるのであれば、補助金があっても良い。その場合は、現在ある路線バスは縮小、廃止というシナリオにすべきである。

タクシーとの競合に関しては、ある部分でマーケットの取り合いになるのだろうが、コアな部分においてはタクシー需要は依然として残るであろう。他人との乗り合いに抵抗がある人、自分の都合やスケジュールを最優先したい人にとっては、多少のコスト高は関係ない。

僕自身としても、「流し」のタクシーを利用する機会は以前に比べたら激減している。あらかじめどこかに出かける予定がある場合、タクシー・アプリ(「GO」とか)で予約するのが当たり前になった。決済もキャッシュレスだし、多少の割高よりも利便性が上回る。しかし、そのためには、利用したい日時、乗る場所、行き先等すべて自分の意思が反映されないことにはメリットが薄れる。たぶん、他人との乗り合いは僕にはNGである。

②によって、自動車の保有台数は激減することとなれば、日本の基幹産業たる自動車メーカーとその周辺企業の将来性はあまり明るくないということになるし、結果として日本経済はますます地盤沈下することになる。裾野が広い産業だけに、影響は甚大であろうし、EVへの代替では食えない企業が出てくるだろう。どういうことになるのやら。

③に関しては、都市部の遊休地が増えるので、地方の過疎地から都市部への人口移動が進むのではないだろうか。人口減少が確実に進むことを考えれば、特に地方においては計画的に「縮む」施策を進めないと、自治体そのものが成り立たなくなる。鳥取県と島根県が一緒になるレベルの大胆な取り組みが必要になるのだろう。


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