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銀行機能について

銀行の3大機能とは、「預金」「融資」「為替」と言われる。僕が新卒で銀行に就職した頃は、この3つは銀行以外が参入できない「聖域」のように言われていたものだ。

「為替」とは、「お金の受け渡しを現金ではなく、銀行口座間の資金移動等によって行なう」ことである。通常は企業間の多額・多頻度の決済において使われることが多いが、個人が現金を持ち歩くことなしに支払いを可能にするための、いわゆる「キャッシュレス決済」の裏側にも「為替」機能が働いている。「決済」機能と言い換えた方がわかりやすい。

従来ならば、キャッシュレス口座を提供するフィンテック企業は、銀行間の送金システム「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」に加盟できなかった。それが日銀に口座開設する等の一定の条件をクリアすれば、利用者が自分の決済アプリから他人の銀行口座に送金したり、他人が銀行口座から送ったお金を自分のアプリで受け取ることも可能になる。

ちょうど、85年の通信自由化以降、いわゆる新電電と呼ばれる事業者が新規参入することで、通信市場に競争原理が導入されたことと似ている。「聖域」だと思われていた領域に穴が空いたということになる。

振込手数料は参入企業間の競争次第ではあるが、おそらくは現状より安くなるだろう。電話料金や電気・ガス料金と同じである。

「為替」業務だけではない。「預金」も「融資」も既に銀行の固有業務とは言えない。

銀行口座におカネを預けておかなくても、ICOCAのような鉄道系のICカードにチャージしておけば、消費者としては預金と同じである。ペイペイ等のキャッシュレス決済にチャージしておくのも同様。何でも現金払いだった僕のような人間でも、最近は外出時に現金をまったく使わないことも少なくない。銀行口座は一時的に現金をプールする場所、使うためには決済アプリ等の別の場所に移動するのが既に当たり前になってしまっている。

融資だって同様である。少なくとも個人の小口の融資はクレジットカード、信販系カード、消費者金融等、いろいろ多岐にわたる。「NP後払い」のような後払いサービスも小口金融の一種である。

さらに為替(決済)機能も、そういうわけで、実態としては既に銀行固有のものとは言えない状況にある。

しばらく前に、『エンベデッド・ファイナンスの衝撃: すべての企業は金融サービス企業になる』という本を読んだ。「預金」「融資」「為替」といった銀行がこれまで果たしてきた機能は、今後とも必要ではあるが、それは銀行が今のような業態を維持することを意味するわけではない。各機能が姿形を変えつつ、いろいろな場所に必要に応じて組み込まれることで、金融以外のサービス提供企業(非金融企業)が、既存サービスに金融サービスを提供するようになるという。

銀行の「土管化」である。

一等地にある銀行店舗は、あと何年もしないうちに大半が売却されてしまって、何か他の商売をやっているかもしれない。地方の百貨店がどんどん淘汰されているのと同じである。

店舗にわざわざ顧客が出向かなければいけないような業務など考えてみればほとんど皆無である。ネットがあれば概ね解決する。それを昔ながらの旧態依然としたやり方で押し通そうとするのは、そろそろ無理であろう。

ビル・ゲイツは、「銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」という趣旨の発言をしている。

古き良き時代に銀行を卒業しておいて、本当に良かったと思う次第である。


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