見出し画像

ひとりでできるもん

4月の最終週、我が家の1LDKにて5日間お留守番をした。

お留守番という言い方はやけに子供っぽいが、要は旦那が出張に行っている間一人で暇だったという話である。

何日も一人でいるのは結婚してからそうそうなく、とりあえずソファに腰掛けるとがらんとした部屋をぼーっと眺めた。ぽかんとして、口も開いていたと思う。

我が家はと言うと決して広くはなく、パソコンとゲームと収まりきらず本棚から溢れた大量の本とぬいぐるみのある部屋は、そこだけ見ると一人暮らしの頃の自分の部屋と似ていた。当時は6畳の部屋に住んでいたと思う。狭く決してきれいではないが好きなものしかなくて気に入った空間だった。

いつも一緒に過ごしている人がいて、夜になっても帰ってこないということだけが大きく違っていた。

ぽつねんとはこういうことだろうか。

さらになぜか私はこのタイミングで風邪を引き、喉の激痛と滝のような鼻水と発熱と戦っていた。(PCR検査は陰性)

咳をしてもひとり、いかにも具合の悪そうなゴホゴホという音が壁に反響するだけだ。具合が悪くて寝るにも寝られないが、起きていても仕方がない。横になろうとよろよろとベッドに向かった。

ベッドにはねこのぬいぐるみとカワウソの大きいぬいぐるみがある。
さあ家族3人で川の字になろう。この子たちは私から風邪をうつされることはないのだ。物言わぬ2匹をぎゅうとして、同じ布団にくるまった。
心なしか心配そうな面持ちで私を見ている気がした。

「ともこちゃん、だいじょうぶ?」

脳内に直接響いた。まったく優しい子供たちである。
私はよしよしと二人の頭を力の入らない熱っぽい手で撫でてやった。

熱でおかしくなったのではない。
私はすっかり寂しくなっていたのだ。

風邪のため誰かに会うこともできない、深夜になっても熱と喉の痛みで寝苦しく、すぐに目が覚めて眠れない。ただの風邪ではあるが、症状と孤独感が相まって明確に苦しい。

薄暗い部屋でスマホから好きな配信者の生配信を見ることで少し救われた。
生きた人の声がするのは良いものだ。コメントが読まれると、リアルタイムで人とコミュニケーションを取れていると実感でき嬉しかった。

そんな孤独な夜に耐えながら3日間が過ぎたところで症状もだいぶ落ち着いてきた。声はガラガラだが、咳は出ないし鼻水もマシになった。外に出られそうだ。

冷蔵庫に何もないのを確認して、スーパーへ向かった。すぐ食べられる系の総菜を数点、そしてハイボールのロング缶と、いくらの大きいパックを購入。

そう、私はこういうことがしたかったのだ。
ちょっとお高いけれど好きなものを、好きなだけ、人の目を気にせずに食うという贅沢。
カポッと聞きなれた気持ちの良い音を立て、9%の角ハイボールを喉に流し込む。数日間ひどく炎症していた喉の表面を潤す冷たい感触がとても心地よく、思わず口角が上がってしまう。いくらの濃厚で塩っ気のあるいつもの味と食感も楽しい。ちゃんと一人で楽しい夜を過ごし、買ったゲームを少しやり始めたらどハマりし、飲みながら好きなだけプレイして好きな時間に寝た。なあんだ一人でも楽しいじゃん。お留守番最高だ。

翌日はシアターGOO出勤で、一人で家にいたくなかったから朝まで残って店で飲んでいた。寂しさをいいちこロックで飲み込むのだ。それに今日はここにみんながいるからひとりじゃないもの。平気だもん。

ひと眠りして昼過ぎになると、旦那が帰宅し我が家はいつもの1LDKに戻った。
おかえりと声をかけた私の目が勝手に少しうるんだが、こんなのは確実に私側だけであるから知られたくなくて元気にお土産を受け取った。
絶対に秘密である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?