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善意にはある程度の瞬発力が必要だよね

これは善意じゃなくてゼイン

8/16(火)のこと。僕はどうするか迷っていた。

8/13(土)に予定されていた横浜FCの試合。それが憎き台風によって中止となり、代替試合として設定された日。
僕自身、まさしくその土曜日からしばらく仕事のお休みを頂いていることもあってテンションは並のものではなかった。
普段一緒に観戦している友人も仕事のシフトが早上がりの日であったため、余裕を持って観戦できるシチュエーション。
楽しむためのコンディションは整っていた。

にも関わらず、僕たちの目の前に突きつけられたのは中止という非情な2文字。
自然の前には人間もなす術が無い。これはもう仕方無い。僕は一緒に行くはずだった友人が仕事中だったため、中止の旨を伝えるLINEを送ってそっとふて寝した。

クラブが動くのは迅速で、それから間も無くのタイミングで3日後の火曜日に代替日が設定された。
ただ、一度楽しむ気概を持っていたところで出鼻を挫かれた経緯がある。
更に代替日は友人が仕事で行けないタイミング。
そもそも僕の家は都内のため、三ツ沢まで1時間以上はかかる。それ故に軽いノリで足を伸ばす感覚がどうも乏しい。
様々な要因が重なっていたため、正直なところ「よっしゃー!行ったるぞー!」というモチベーションからは遠かった。

昼を過ぎても部屋着姿でダラダラとゲームをしている僕。行こうか行かまいか迷う時間。
ゲーム画面上では操作しているウイイレにおいて日本代表がポルトガル代表にボコボコにされている。
悔しいのでクリスティアーノ・ロナウドを削りまくった。退場者をたくさん出し、没収試合になった。
こんなんリアルでやったら02日韓W杯の韓国代表の比じゃないくらい世界からのバッシングがやばい。

PS4の電源を落とし、無意識に着替え出す僕。
ダラダラと着替え、気がついたら外に出ていた。
家を出た瞬間、回した洗濯物を放置しっぱなしだったことに気づいて少し嫌な気持ちに襲われた。

家を出てしまった。最寄駅に着いてしまった。改札を通ってしまった。もう戻れないよ。(King Gnu)
来るところまで来てしまったため、電車内で横浜FCの当日券を購入する。
Jリーグチケット以外から買ったのは初めてだ。操作に少しまごついた。

三ツ沢球技場に着いたのは試合が始まる15分くらい前だった。
やったことのない慣れない発券操作をし、急いでゲートから入場。
ダメ元でアンセムユニホームが買えないか売店で確認。

デブの僕にとってはサイズはLLが最低条件。

「すみません〜。LL売り切れなんですよ〜。」

売店のお姉さんから突きつけられた無情な一言。少し気持ちが落ちる僕。
今日は珍しくスタグルにありつく気にもならない。デブのくせに。お前食べられないデブって人権無いぞ。
ということで人権無いので来月から納税もしたくありません。

何だかんだあって気がついたら三ツ沢の椅子に座っていた。
今日は代替日故か平日の夜故か、いつもより人も少なくて静かな雰囲気。
周りががらんとしていてゆったりできる中でボーッとピッチを眺める。

19:00、キックオフ。
思えば三ツ沢でサッカーを見るのはアルビレックス新潟戦以来。調べたら6/26の試合だったため、おおよそ2ヶ月ぶりの三ツ沢観戦らしい。

改めて感じる。三ツ沢は近くて迫力あるなあ、と。
なんだかんだいってこのスタジアムでサッカーを見るのは楽しい。
いつもと違ってガヤガヤしている空気感では無いけれど、これはこれでまたゆっくりできて良い。

開始9分。サイドでボールを持った武田英二郎が中にクロスを入れると見せかけて近くにいた長谷川竜也に強いパス。
その距離でその強さは鬼だろと思うのも刹那、難なくトラップする竜也。何なんそれ?
あ、そういえば。横浜FCを最後に見たのは7/24のアウェイ東京V戦でしたが、その際は竜也いませんでしたね。お久しぶりです。
そして相手を持ち前のテクニックでいなし、中にクロス供給。十八番キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!

飛び込んできたのは理不尽の一族の血が入っているでお馴染みのサウロ・ミネイロ。瞬く間に先制。

※理不尽の一族の血…かつて世界に存在していたとされる理不尽な能力で相手を蹂躙してしまう一族。
危うく人類を滅ぼしかけたため、一族の多くは迫害されて世界の歴史から抹消された。
今なおその血が僅かに受け継がれているとされ、サッカー界ではズラタン・イブラヒモビッチやケヴィン・デ・ブライネがこの一族の末裔とされる。

とまあ、すぐに先制。
結論から言うと結局これが決勝点となり、1-0のまま勝利で終わったので試合の内容にはこれ以降触れません。

途中、緩い気持ちで楽しんでいる僕はお酒を買いに行ったり、レタスの無いトルティーヤを買いに行ったりした。

ちなみにこのツイートはいいねが全然付きませんでした。
そりゃそうだろ。イマイチ反応しづらいし。あと面白くないし。

更に噂によると、ランダムで誰かしらの直筆サインが当たる選手のカード入りパックが売っているとのこと。
そういう博打は好きだ。カードを買いに行く僕。

???「どうかいかないで…ウワアアアアア…マアアアアアア…」

四方田監督、その節は画像で遊んで大変申し訳ありませんでした。↓


久々の三ツ沢観戦はなんだかんだ楽しいこと尽くしだった。

しかし帰る間際、ちょっとした出来事が起こる。

事の始まりは試合後の選手挨拶の時。
この時、CBのガブリエウが最前列に座っているご家族に近づき、何やらお話をしている。
直後、スタッフの方がそのご家族の方に近づいていろいろ話している。
多分ガブリエウの話していた内容を日本語で伝えているのだろう。

ご家族が手に持っていたボードがチラ見えする。
そこにはガブリエウを応援するような内容。

ただ、ガブリエウが個人的に感銘を受けてリアクションしたというだけであるとしたら、スタッフの方が出てくるのはおかしい。
善良そうなご家族ではあったので少なくともトラブルでは無いと思う。

僕の予想的に感銘を受けたガブリエウがこのご家族に何かサービスをしようと急遽取り計らっているところだったのではないのかなと。

何にせよ選手挨拶が終了し、場内にいる人々はみんな引き上げていく。
僕はお酒が入っていた事もあり、以下のようなクソバカ謎思考に至った。

酔いが覚めた今、全くもって意味がわからない。
何が楽しくてそんなことをやろうとしたのか。
とにかく選手はおろか、観客の大半が引き上げた後もひたすらボーッとしていた。
途中、回ってきたスタッフが「すみませーん!もう間もなく清掃に入るため、速やかな撤収にご協力頂けますと幸いですー!」と叫んでいる。
正直ほとんどの人は撤収済みのため、多分こちらに向けて言っているようなもの。本当悪ノリすぎてすみません。
さすがに申し訳なさがあったので荷物をまとめて撤収の素振りを見せる。

出口まで歩いたところでふと何の気無しに再度ピッチの方に目をやる。
客席の最前には例のご家族が未だに残っており、またもやクラブスタッフが駆け寄ってきて何やらお話をしていた。
というか僕の見間違いじゃなければクラブスタッフは内田智也氏だった気がする。
すると、しばらくしてからピッチを横断してご家族の方に走ってくる影があった。


ガブリエウだ…!!


ガブリエウは手にユニホームを持っており、ご家族の目の前に到着するなりそれを手渡しした。
はしゃいでいる子供たち。お母さんがガブリエウに対してサインペンを渡し、サインを求める。
それに対して爽やかな笑みで応えつつ、ペンを走らせながら写真撮影にも応じる。
ご家族が楽しそうにガブリエウとコミュニケーションを取っている姿を見ていると心が温かくなった。

そういえば今は夏休み真っ只中。
世間はお盆休み。ご家族の普段の観戦事情は正直知らないが、もしかすると全員揃って横浜FCの試合を見ることができる数少ない機会だったのかもしれない。
そうでなくともサッカー選手との直接の触れ合いというサッカー好きの子供にとっては一生忘れられないアルバムの1ページになることは固い出来事。
なんて素晴らしい光景。スポーツって良いなあ…。お酒が入っていたこともあり、目頭が熱くなる。

すると、余韻に浸っている僕の脳内に何者かが語りかけてきた。


???「お前は何をしてんだい?」


だ、誰ですかあなたは!?

???「ワシじゃよ。フットボールの神じゃよ。」

AIが入力した言葉に合わせて絵を描いてくれるアプリで“God of soccer”と入力した結果です。


…え?フットボールの神…?それって、ペレ…マラドーナ…メッシ…。

神「黙らっしゃい!!そいつらの方が後出しだから!!ワシが起源だから!!!」

はあ…。それで、神が一体何の用で…?

神「お前…何のためにそこにずっと残っておったのじゃ…?」

え?いやまあ、特に理由は無いですけど何となく…。

神「あのご家族を見るのじゃ。さっきからガブリエウと共に写真撮影をしておるが、ご両親が交互にカメラ役を務めておる。」

ああ、確かにそうですね。それがどうしたんですか?

神「まだ分からないのかこのバカタレが。鈍すぎるわい。良いか?あのままいくと、いずれご家族の手元に残る写真の内訳はどうなると思う?」

えーと、お子さんたちだけがガブリエウと写ったもの1枚、お母様とお子さんたちがガブリエウと写ったもの1枚、お父様とお子さんたちがガブリエウと写ったもの1枚…。
…あっ!!!

神「そういうことじゃ。ご家族全員とガブリエウが写った1枚が無いのじゃ。やはり思い出は全員余すことなく同じ画角に収まっているものが欲しいところ。しかし周りにはカメラマンを務められるスタッフ等がいない。」

…そういうことですね。神、あなたが僕の脳内に現れた理由…。

神「そうじゃ。これも何かの巡り合わせ。あのご家族にとってかけがえのない思い出の一枚。それをどういう形で残せるのかはお前の手にかかっているのじゃ。」

…!!!

神…。ありがとう…。俺、行ってくるよ!俺の使命はあのご家族のアルバムに厚みを持たせてやることだったんだ…!
いつもは試合終わったらすぐ帰りたがる薄情者と見にきているから成し遂げられなかった使命…。こういうことなんだね…!

神「ウム…。お前にしか出来ないことがあるのじゃ…。ワシは引き続き天から民衆のフットボールライフを見守っていることとしよう…。ではさらばじゃ…!!」

待っててくれ、そこのご家族っ…!
俺がやるべきことを果たすんだ…!!

(back numberの曲カットイン)

☆最近の泣かせてくる系邦画あるある
・予告編でだいたい主人公走っている
・すぐ山崎賢人を起用する
・back number的バンドの曲が使われがち
・タイトルが説明口調

小走りしながら僕はそのご家族に向かって叫んだ。

「すいませーん!宜しければ写真お撮りしましょうか!?」

お母様がこちらに気づき、「ありがとうございます!」と答えてくださる。
そうだ…。これで良かったんだ…。僕がやるべきことだったんだ…!
ようやく言えた一文に安堵しつつ、ピッチの方に目をやった。


ガブリエウはこちらに背を向けて走って帰っていた。


あっ…。ま、まあそうだよね、うん。
選手も暇じゃないんだもんね、うん。

思わず口をついて出る言葉。
「あ、行っちゃった…。」
さすがにガブリエウに対して何か叫んで再度引き止める勇気は無かった。
だって俺の裁量でこの場を仕切るのもなんか違うし。ガブリエウだって忙しいし。そもそも俺咄嗟に叫ぶ機転と勇気微塵も無かったし!!!

そんな僕に対してご両親は「すみませんありがとうございます😊」と声をかけてくれた。

ただ、その声をかけてくださるお二人の顔は反面「何しに来たんこいつ」という表情のようにも見えた。
(僕が勝手にそう見えただけです。ご両親は悪い方々ではないです。)

気遣い、善意。それを原動とした行動に移るのがかなり遅かった。
何歩か間に合わなかった結果、僕は側から見たら「ガブリエウと写真を撮り終わってお開きムードのご家族のところに唐突に押しかけ、意味不明なタイミングで写真撮ろうかと声をかけた頭のおかしい成人男性」という構図が完成してしまっていた。

善意を持つことは大切だ。
しかし、その善意にはある程度の瞬発力が必要なのだろう。
善意の気持ちを持ったところで行動に移すまでが遅ければ、その気持ちは空回りに終わる。

あなたが空回りしていてもきっとご家族にその気持ちは届いているよという綺麗事でフォローしてくれる方もこれを読んだ中にはいるかもしれない。
ありがとう。でもうるせえよ。結果失敗に終わってる時点で気持ちもクソもねえんだよ。気持ち届いたところでだから何って話なんだよ。

時として中途半端な善意と行動力を持っても空回りして何も生まない可能性が高い。
もし善意の気持ちが心の中に発生した時。その時は行動に移さずじっとしているか、即座に行動に移すか。
0か100の判断をする瞬発力も併せて忘れないようにしなければいけない。

偽善者ぶりたくてこの文章を書いたつもりはない。
好感度を上げたくてこの文章を書いたつもりはない。

ただシンプルに恥ずかしくてどうしようもないのでこの気持ちを吐き出したかっただけ。

好感度を上げるつもりが無いということの証明として一つ好感度を下げることを話しておくと、僕この日三ツ沢に向かうまでの電車で自分より年配の方に席譲らず見て見ぬフリして終始座りっぱなしで来ました。
最低です、はい。



結論:ガブリエウは良い人。

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