恋の始まりを久しぶりに

ゲイ、とか、レズ、とか、まあその他諸々。

色々あるけど、この世に圧倒的に多い(と思われている)のは異性愛者。ヘテロセクシュアルだと思う。


その中には、私のように自分が好きになる性を隠して、異性愛者だと言っている人もいるかもしれない。性自認が自分の身体のつくりと違う人もたくさんいると思う。

私は久々に恋愛がしたいと思った。同時に、異性愛者ではない、自分と同じような心の持ち主とつながりを持ちたいと思った。

自分と同じように隠れている人を探し出すのに、一番手っ取り早いのが、そういう人がたくさん集まる場所に行くことだと思った。


行く、と言ってもこんなご時世だし、とりあえず女性限定の出会い系のアプリを探してみた。

ネットには怪しい人がたくさんいるので、慎重に慎重に、何人かとやりとりをしたりする。

こんにちは〜。

こんにちは!

なんて呼べばいいですか〜?

じゃあ、藍で!

という常套句を交わして、その後何度かやりとりをしたら返事が返ってこなくなってそのまま終わる人もいれば、くだらない話がだらだらと続いている人もいる。


当然かもしれないが、そう簡単に、「この子と仲良くなりたい」とか「付き合いたい」とか「実際に会いたい」とか思える人が見つかるわけじゃない。



適当に返信していると、なんだか惨めになってくる。

なんだ、ここでも出会えないか。

でもリアルじゃもっと出会うのは難しいだろうし、そもそも相手が異性愛者だったらもっともっと難攻不落で...。

ああそれなら、もういっそ恋愛などしたいなんて思わない心だったらよかったのに。

でもしてみたい。

恋愛、女の子と、してみたい。


色んな感情が渦巻いている。

バイトの休憩でアプリをチェックして、そのたびに、こんな意味ないことやめようと思ってしまう。

そもそも恋愛ってなんだ?とか、本当に私に必要か?とか、堂々巡りの中に、1人で毎晩毎晩沈んでいた。


一昨日、の、前日、くらいに

「はじめまして。よかったらお話ししませんか。年齢も同じです!」


みたいなメッセージが、新たな人から来ていたので、おもむろにチャットの画面を開いて、へえ、ふうん、どんな子だろうと顔写真を見た。

ぽちゃ、とした頬が横に広がっている。

片手に一つずつ、ピースを作っている。八重歯が少し、飛び出していた。

茶色くて薄い前髪のすぐ下に、細い目がある。


このアプリではじめて、可愛く、あるいはかっこよく映ろうと努力していない写真を見た気がした。


本物の笑顔だ、これは。って思う瞬間、あるじゃない?

嘘の笑顔とかって、なんとなく伝わってしまうものだから。

まあ、それでその子に、一目惚れをしたわけではないけれど、信じたいとは思えた。

もしかしたら世間ではそれを、一目惚れと呼ぶのかもしれないけれど。



その子からの返信にだけ、やけに敏感になってしまった。

言葉も交わしたこともない。

身長もよくわからない。

だけどこんなに、心惹かれることがあるのだなと、妙に感心してしまう。



早く返信しすぎちゃだめだ、とか、難しい単語を並べて自分語りなんて御法度。なんて思いながら、その子に送る文章を、今夜も、何度も何度も打ち直している。




恋愛の、「普通」について考えてみる。

そこにいつもいるのは、「異性愛者」であり「女らしさ」であり「男らしさ」だ。

そんなんじゃない、そんな時代じゃないと言われても、それならどうして私は今、異性愛者でいられない自分を認めてあげられずにいるんだろうと思う。


同性愛を貶す言葉をまた、生活の中で聞いた。

同性愛は普通ではないと、生活の中で感じた。


携帯の向こう側の彼女も、その笑顔に惹かれただけの私も、きっと普通の恋愛と呼ばれたくて、ここで今、恋を始めようとしている。



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