まいごのイチゴ【#シロクマ文芸部】
舞うイチゴはめあのヘアゴム。めあが動くとイチゴが跳ねる。頭の上の、ふたつのイチゴ。まっかで大きな、めあのイチゴ。
たくとはいつもそれを目印にしてめあを見ている。絵本コーナーでも、体育館でも、イチゴを探せばめあが見つかる。
ある暑い朝、いつものイチゴが片方なくて、そこには花が咲いていた。
「イチゴがどっかいっちゃった」
めあは悲しそうに言う。
「おうちにはなかったの?」
「ほいくえんからかえってきたらなかったの。ゴムがちぎれて、イチゴだけまいごになっちゃったみたい」
そこでたくとはめあと落とし物コーナーへ行き、迷子のイチゴを探した。
「ないね」
「ないねえ」
めあはぐすぐすと鼻水をすする。まぶたが赤い。きっと昨日もたくさん泣いたのだろう。
迷子のイチゴが見つからなくて、悲しいめあは部屋の隅に丸まる。めあにつきあってたくともそこで丸くなり、ふたりでみんなが遊ぶのを眺めている。
「いいもん。おとうさんにまたかってもらうもん」
めあのふくれた頬が、たくとにはまぶしかった。
土曜日、お母さんの仕事がお休みだったので、たくとはショッピングモールに連れていってもらった。たくさんのお店にはしゃいで、お母さんの手を引いて急かしていた、そのとき。
うさぎのぬいぐるみの影に、イチゴが見えた。
「めあちゃんのイチゴ!」
大きな声で叫んだから、お母さんがあわててしまった。
それから、月曜日。
たくとは小さな袋を手にめあを待つ。袋の中身はもちろんイチゴだ。まっかで大きな、めあのイチゴ。
やがて、めあがお父さんに連れられてやってきた。その頭には、まっかなイチゴがふたつ乗っていた。
「おとうさんにあたらしいのかってもらったんだ!」
たくとはとっさに袋を背中に隠した。新しいイチゴはぷっくりつやつやで、たくとのイチゴが急につまらなく思えてしまったから。
先生がめあを呼ぶ。
「探してたイチゴってこれじゃない? 園庭に落ちてたの」
「わあ! まいごのイチゴがかえってきた!」
たくとはがーんと頭を殴られたようだった。迷子のイチゴまで戻ってきたなら、たくとのイチゴなんてますますいらない。
めあがやってくる。新しいイチゴを頭に、迷子のイチゴを手にして。
「たくとくん、みてー」
たくとは奥歯を噛んだ。そして、勇気をふりしぼって、両手を前に突き出した。
「めあちゃん、これ」
「なあに?」
めあが袋を開けて、目をまんまるに開く。
「イチゴだ!」
「どようびにおかあさんとおかいものいって、めあちゃんのイチゴ、みつけたから。かってもらった」
「イチゴがふえた! ありがとう!」
めあがぴょんぴょん跳ねて、イチゴがいつつ、めあの頭と手の中とで踊っている。
「あしたつけてきてもいーい?」
たくとは頬をイチゴみたいにまっかに染めた。
幼い恋は、始まったばかり。
こちらの企画に参加させていただきました。
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