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モダン
※私が読んだ本の書き出しとざっくりした内容を書き留める読書記録です
はじめの一行
中断された展覧会の記憶
二〇一一年三月十一日金曜日、午前六時五十五分。よほど疲れていない限り、いつもなら、七時にセットした時計のアラームが鳴り出すほんの少しまえに必ず目が覚める。
その朝はよほどつかれていたのだろう、夫に声をかけられるまで、杏子が自然に目覚めることはなかった。
昨夜、目下進めている博士論文に添付する資料を、マンハッタンの百九十丁目にある自宅アパートのプリンターで印刷していたのだが、これが思いのほか時間のかかる作業だった。夫のディルは、勤勉な妻に付き合うつもりでか、録り溜めていた『ビッグ・バン・セオリー』を延々と見ていたが、午前一時半頃に「もう寝るよ」と、書斎にあるリンターの前で腕組みしている杏子に声をかけた。
2011年3月11日といえば、日本人ならピンとくる事件がある。
そう。東日本大震災。
そこと関連するというだけで、どこか重い空気がある。
そこに、どこからそれが醸されるかはわからないのですが、原田マハさんの小説にはたいていじっとりと重いムードが漂う気がするのは私だけでしょうか。
はじめの数行で、主人公杏子の心象、住んでいる環境、夫との関係をぼんやりと見せてくれるこの書き出し。
なんだかさすがだなぁと感じてしまいます。
本書の内容
短編集
本書は、原田マハさんによる短編集。
全体ととおして、MoMA(ニューヨーク近代美術館)が背景にある物語ばかり。
タイトルを並べてみると・・・
・中断された展覧会の記憶
・ロックフェラー・ギャラリーの幽霊
・私の好きなマシン
・新しい出口
・あえてよかった
という五篇。
じつは、個人的には、短編というのはあまり好きではありません。
なんというか、浅いんですね。短いぶん。
主人公への感情移入も難しい状態で結末が来る。
そんなケースが多いのですが、この本に収められた作品というのがどれも素晴らしい。
短い物語の中に、けっこうなドラマがあります。
あえてよかった
その中でも特にお気に入りなのが、20ページにも満たない「あえてよかった」です。
ニューヨークで働く女性。
その女性の身の回りを取り巻く人々との何気ないやり取りが中心。
別に大した事件が起こるわけではないのですが、小さな物事の積み重ねと、周囲の人とのやり取りが最後のちょっとしたラストシーンに帰結します。
本の最後を飾るにふさわしい物語だな、と余韻を残しながら本を閉じました。
短編集と言われるものの中では、一番のお気に入りになりました。
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