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『はじまりの猫』STFドラマ祭参加作品

(約2000文字、13分ほど)Stand.fmのSTFドラマ祭(2024年4月)のために書き起こした作品です。猫好きが書いた、とてもシンプルな物語りです。気に入った方はどうぞ朗読にお使いください。
登場人物:
*ナナ
*アンナ
*ナナの猫 モモ
*アンナの猫
*ナレーション

『はじまりの猫』奥村薫作

最初に、はじまりの猫がいた。そして、はじまりの猫は、この世での命を完璧に生きつくした猫たちのために天国を作ったのだという。
今は遠い、昔の話。
しかし、その言い伝えは、今もなお魔女たちの間でひそやかに語り継がれている。
【ナナ】(モモに優しく話しかけながら)ねえ、モモ、モモ!大丈夫?こっちを見て、お願い…。
【モモ】(弱々しく答える)にゃあ...
【ナナ】ほら、これ、あなたの大好きな餌よ…少しでも食べられるかな?。
【ナナ】(歩こうとして、でもうまく歩けないモモを見て)あら、うまく歩けないの?モモ...
【モモ】みゃおん...
【ナナ】 ずっと一緒だったのに、こんなに弱ってしまって…。ねえ、私たち、いつまでも一緒にいるんでしょ。もう少しだけでも…

もし、モモが…モモがいなくなるなんて!誰か助けてくれる人はいないのかな。そうだ、あのアンナさんなら...不思議な癒しの力を持っているって聞いたことがある。
でも、あの人、なんだか怖いし、魔女だって噂もあるし...
【ナナ】(自分を励ますように)でも、モモのためなら...怖いものなんてないよね。アンナさんの所へ行ってみよう。モモを救ってもらうんだもの。
【ナナ】(モモを見ながら)ちょっとの間だけだよ、モモ。私が戻るまで、待っててね。きっと、きっと大丈夫だから

(場面転換。アンナの家)
【ナナ】(心の中で)とうとうアンナさんの家まで来てしまった。私の願い、受け入れてもらえるのかしら…でも、モモの為なら何でもする
【音】 ノックする音
【アンナ】ん?…あらまあ、かわいいお客さんだこと!
【ナナ】あっ、あの…私
【アンナ】なんだい?怖がっているのかい?あたしがあんたを取って喰うとでも、大人たちから教わったのかい?
【ナナ】あの…、お話ししちゃいけないって。
【アンナ】あ~、だろうねぇ・そうかい、そうかい
【ナナ】アンナさん!お願いがあります。モモを助けてください。うちのモモはただの猫じゃないんです。ずっと一緒で、私の一番の友達なんです。
【アンナ】おやおや、そのモモとやらは、具合が悪いのかい?
【ナナ】餌を食べなくなって…今日は歩くのも難しくなって
【アンナ】いい年なんじゃないかい?
【ナナ】ええ。でも、まだ...まだ一緒にいたいんです!モモがいなくなるなんて考えられない
【アンナ】なるほどねぇ。でもずっと一緒という訳にもいくまいよ。
【ナナ】でも、魔女の力なら…?
【アンナ】まあ、魔女とも呼ばれてたあたしだけけどね。そして猫たちとの絆も深い。… だが…
【アンナの猫】にゃ~ん
【アンナ】はいよっ(と猫を抱く)
【アンナの猫】(のどをならす、あるいは満足げな声)
【アンナ】そんなに勝手に人と猫の運命をかえちまっても、猫の神さまは喜びはしないよ。
おまえさんにそんなに愛されて、そのモモって猫にとっては幸せな生涯なんじゃないかい?
【ナナ】 ええ、でも、モモがいなくなるなんて。
【アンナ】それはおまえさんの都合さぁね。
【ナナ】(泣きそうになる)でも、私…
【アンナ】ふぅ、では、こういう話を知ってるかい?
昔々、はじまりの猫と呼ばれるものがいてね。はじまりの猫は、この世での役目を果たした猫たちのために、猫の天国を作ったのさ。そこでは、猫たちがぬくもりの中で、ずっと幸せに暮らすんだ。
モモには、そんな素敵な場所が待っているんだよ。
【ナナ】 モモがそんなところへ?でも寂しくてたまらないよ!
【アンナ】(黒猫を撫でながら)ああ、猫はあたしたち人間に多くのことを教えてくれる。喜びとともに生きること、満足すること。そして、愛するものと別れること。
モモと過ごした時間は、あんたに何を教えてくれた?
【ナナ】それはもう、やさしさと…何より、愛を。無償の愛を
【アンナ】そう、その通り。そして今、その身をもって、別れと死とを教えてくれるのさ。
【ナナ】でも、そんな…
【アンナ】 (黒猫を撫でながら)そう、それがこの世の生の美しさなんだ。愛には終わりがない。人は愛することを学び、そして...愛するものとの別れに耐える勇気も学ぶ。
(間)モモの心はいつもあんたと共にあるさ。
【ナナ】モモが猫の天国にいっても?
【アンナ】ああ、そうだよ。こいつもそう言ってる
【アンナの猫】にゃ~ん
【ナナ】(すすり泣きしつつ)そう、きっとそうなのね…。だったら…。あら、あたし、モモのそばにいなきゃ、最期まで。
ごめんなさい、そしてありがとう、魔女さん!
モモ~
(ナナが走り去る)

【アンナ】あ~あ、魔女さん、かい。あたしを捕まえて。
【アンナの猫】(合意したように)にゃ~ん。でもいい子だったじゃないか。
【アンナ】だね。でも、あわてんぼうのあの子は、大事なことろを聞き逃しちまったね。あの話の続きを。
【アンナの猫】にゃ~あ
【アンナ】そう。そうして、猫たちにたくさん愛された人間は、特別に猫の天国に行ける。その時には、先に逝った猫たちがみいんなそろって出迎えてくれる。
(猫たちの鳴き声)
【アンナ】それって、最高のお迎えじゃないか。
【アンナの猫】むふっ、おまえさんも…そろそろ、かねえ。
(欠伸をするように)みゃ~お

音声版

薫のつらつら語り: https://stand.fm/episodes/66108303d7adb3e1ea15a7c2

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