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添削屋「ミサキさん」の考察|8|「『文章術のベストセラー100冊』のポイントを1冊にまとめてみた」を読んでみた⑧

|7|からつづく

例文をあげはじめるときりがないので、そろそろ「『文章術のベストセラー100冊』のポイントを1冊にまとめてみた」に戻ります。

3⃣見た目を良くすると、文章のリズムも良くなる

 文章の見た目を整えると、音感的なリズムも良くなります。「音感的なリズムが良い文章」とは、「音読したときに読みやすい文章」のことです。
 どうして、「音読したときの読みやすさ」が大切なのでしょうか。『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版)の著者、梅田悟司さんの言葉をお借りすれば、
文章を読む時、誰もが『内なる言葉』を使って、頭の中で音読している
読みにくい言葉は、心に入ってこない
 からです。
 大正から昭和にかけて活躍した作家、川端康成も、『新文章讀本』(新潮社)の中で、
『耳できいて解る文章』とは、私の年来の祈りである
 と音のリズムの重要性を説いています。

「『文章術のベストセラー100冊』のポイントを1冊にまとめてみた」48ページ

◇リズムの悪さ=読みづらさ

 改行のタイミング、段落の区切り方、句読点の打ち方、表記(漢字とひらがな)によって、見た目だけでなく、文章のリズムが変わります。文章のリズムが変わると、読みやすさも変わります。
「段落が長すぎる(または短すぎる)」
「行長(1行に入る文字数)が長すぎる」
「改行がない(あっても少ない)」
「句読点が少ない」
 とリズムが悪くなります。
 リズムの悪さは、読み手にとっては読みづらさやわかりづらさにつながりやすく、誤読の原因にもなりがちです。

「『文章術のベストセラー100冊』のポイントを1冊にまとめてみた」49ページ

少しはた、と考えてしまいました。
「見た目」と「リズム」をほぼイコールでいうのはどうなのかな? と。
わかりやすいようにこう説明しているのかな?
ただ、私も先に紹介したように、「漢字をできるだけひらがなにすることによってリズムが損なわれるのを避ける」という意見は賛成です。

ともあれ、「音読したときに読みやすい文章」というのは一般的に言えることでしょう。
余談ですが、私は小説投稿サイトで小説を発表し、サイト内の友人ともやりとりしますが、自分の作品を音読して推敲する、という方が多くて驚きました。私自身はやったことがないのですが(恥ずかしい)、音読の効果というのはとても大きいそうです。

参考までに、|7|でご紹介した太宰治ヴィヨンの妻』、文庫本のページを見てみます。

『ヴィヨンの妻』

見栄えも確かによいですね。

リズミカルな文章を書く作家は多いですが、私見で思い浮かぶのは村上春樹さんでしょうか。デビュー作『風の歌を聴け』から引用してみます。

 彼女は決して美人ではなかった。しかし「美人ではなかった」という言い方はフェアではないだろう。
 「彼女は彼女にとってふさわしいだけの美人でなかった」というのが正確な表現だと思う。
 僕は彼女の写真を一枚だけ持っている。裏に日付けがメモしてあり、それは1963年6月となっている。ケネディー大統領が頭を撃ち抜かれた年だ。彼女は何処かの避暑地らしい海岸の防潮堤に座り、少し居心地悪そうに微笑んでいる。髪はジーン・セバーグ風に短く刈り込み(どちらかというとその髪型は僕にアウシュヴィツを連想させたのだが)、赤いギンガムの裾の長いワンピースを着ている。彼女は幾らか不器用そうに見え、そして美しかった。それは見た人の心の中の最もデリケートな部分にまで突き通ってしまいそうな美しさだった。
 軽くあわされた唇と、繊細な触角のように小さく上を向いた鼻、自分でカットしたらしい前髪は無造作に広い額に落ちかかり、そこからわずかに盛り上がった頬にかけて微かなニキビの痕跡が残っている。

当該ページの画像です。実に読みやすそうです(笑)。でも、見栄えだけでなく実際音読しやすい文章ですよね。人によって好き嫌いはあるとは思いますが。

『風の歌を聴け』

『ヴィヨンの妻』も『風の歌を聴け』も、いずれも新潮文庫で、字体、文字の大きさ、行間の空き方は同じでした。
(余談ですが、文庫でいちばん読みやすいのはやはり新潮文庫かなぁなどと私見ですが、思ってます。)

では、川端康成の実際の小説の文章はどうでしょうか? それから、はっきりいって「リズムがない」と評価されがちな、川端康成につづいて2人目の日本のノーベル文学賞作家、大江健三郎さんの文章を見ていきたいと思います。

|9|につづく


 



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