|11|からつづく
さて、比喩の例をあげるときりがないので、少し変わり種をいくつか。
L.M.モンゴメリ『赤毛のアン』の一節から。訳文は松本侑子さん。
「過去は忘却のマントで覆い隠しましょう」、こんな比喩はふつう日常会話では使いませんね。実はこれはアンがイギリスの詩から引用したものなんです。
原文は、I shall cover the past with the mantle of oblivionです。
もう一つ、変わり種をご紹介します。
ドストエフスキー『罪と罰』の一節。岩波文庫の旧版(中村白葉訳)と新版(江川卓訳)。ちなみに中村白葉訳は戦前のものです。
(注釈を入れると、主人公ラスコーリニコフの友人、ラズーミヒンが、ラスコーリニコフの妹アフドーチヤ(アヴドーチヤ)に一目ぼれをし、興奮して饒舌になるシーンです。)
「至善、純潔、霊智、それから……完成の泉」と「善と、純潔と、理性と……完成のみなもと」。この場合に限っていえば、旧訳の方が雰囲気がでているような気がします(笑)。
最後は、大正の作家、有島武郎『カインの末裔』より。
短い文章の中に、よく見るとかなりの比喩が使用されていますね。
2⃣より強い印象を与えたいときは「隠喩」
|13|につづく