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添削屋「ミサキさん」の考察|20|「『文章術のベストセラー100冊』のポイントを1冊にまとめてみた」を読んでみた⑳

|19|からつづく

番外編■人称の問題

少し話がそれますが、主語の話に関連して、小説を書く場合の人称の問題に触れたいと思います。
これはかなり難しくて、自分の理解に不安もあるのですが、参考文献を引いて考えていきます。

大沢在昌さんの『売れる作家の全技術』に、比較的まとまって書かれていますので、長くなりますが引用します。

一人称一視点

 一人称を書く目的の一つは、視点の乱れをなくすということです。日本では神の視点は受け入れられないし、特に新人賞では損をします。視点の乱れは絶対マイナスですから、一人称で書くことでこの問題を克服する訓練をしてほしいんです。
 二つ目は、一人称にすると、情報が一点からしか入ってこなくなるわけで、これは物語を動かす上でかなりの足枷になります。書き手がつい「と言いつつ、実はこうでした」というように書いてしまったらそれだけでアウトです。つまり、限定された視点の中でどこまで読者に情報を提供し、物語を形作れるか、その難しさをぜひ体感してほしいということ。
 三つめは、視点人物、つまり語りてである「私」や「僕」や「俺」の個性をどれだけ読者に伝えられるか。三人称ではないから、主人公のことを「彼(彼女)はこうだった」とは言えないわけで、ではどういう方法で主人公のキャラクターを立たせていくか。例えば、「私」という語り手に対してある女性が、「これまで何人の女を泣かせてきたの?」と言えば、この「私」はモテそうなやつだなと読者は思うし、別の男に、「お前が悪い奴とは知っていたけど、こんなにひどいとは思わなかった」と言わせれば、相当悪い人なんだという印象を読者に与えられます。つまり、会話でキャラクターを立たせていくという手法です。
 一人称で書くためには、この三つのハードルをクリアしなければなりません。かなり難しいはずです。実際に書いてみて、「あれ、一人称だとうまく伝えられないぞ」と気づく人も多いとは思いますし、そこで、一人称にもかかわらず視点の乱れが起こり、つい「○○は真っ赤になって怒った」と書いてしまう。「○○は真っ赤になって怒っているように見えた」でなければいけないのに。
 「一人称一視点で書く」ことによって、自分の能力がどの程度かわかりますから、そこから次のカリキュラムへの一歩を踏み出せるはずなんです。

『売れる作家の全技術』

小説を書かない人には、こういうお話は初めてきくという方もいるのではないでしょうか。
私も、小説投稿サイトに投稿するようになって、こういう話を聞いて感心したものです。

一人称にもかかわらず視点の乱れが起こり、つい「○○は真っ赤になって怒った」と書いてしまう。「○○は真っ赤になって怒っているように見えた」でなければいけないのに。

ここの意味、わかりますか?
多分一人称小説の中でこういう書き方を見ても、さほど違和感は抱かないのではないでしょうか。
それから、おそらく耳慣れない言葉として「三人称神視点」とか「三人称多視点」とか「三人称一視点」とかいう言い方もあります。

 神の視点というのは日本語の小説ではほとんど認められていません。
翻訳小説や一部の時代小説などでは見られますが、もしも私が新人賞の選考委員なら、神視点の作品はすべて落選にします。
 どうして神の視点がだめかというと、神視点である限り、読者は小説につき合う必要がないじゃないですか。オチもラストも謎も、神視点はみんな知っているわけですから、読者は登場人物と感情を共有できなくなります。
 神視点が許される場面があるとすれば、例えば大きな物語のプロローグ。正体の分からない人間が一瞬出て来て何か会話して去っていくとか、「山の中で穴を掘る音が聞こえる。黒い人影がズルズルと重そうに何かを運んできて、ドサッと穴に投げ込んだ」みたいな描写であればオッケーです。逆にそういうシーンを視点人物で書いたら、犯人がバレていることになってしまいますから。
 「神の視点」のように見える作品のほとんどは、三人称多視点、複数の人物の視点が使われているだけで実際には神視点ではない。それに三人称多視点であっても、視点人物がいる限り、その人物に知りようのない情報を書いてはいけないということは、一視点の場合とまったく同じです

同上

難しいですね。
学者ではないので、細かく定義づけることはできませんし、あまり意味はないかと思います。
ともかく、視点のブレ、これに気をつけることが大事な気がします。

でも、三人称神視点とはどういうものか気になりますね。
私が思い浮かぶのは、トルストイの『戦争と平和』? 吉村昭さんの歴史文学? 中村文則の「3つのボール」?

|21|につづく


 


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