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#20 仮面ライダー龍騎5周目だから蓮視点で鑑賞してみる(まとめ)

 みなさんこんにちは。スヤコヤ小柴です。前回、新しい世界でのエンディングは、ハッピーエンドなのか? を今回のまとめで考えていくと書きました。今回は、それに加えて、全話の振り返りと、俯瞰的な考察をしていきたいと思っています。

 まずは、新しい世界でのエンディングはハッピーエンドなのか? です。このエンディングがハッピーエンドなのかどうかを考えるためには、蓮に旧世界の記憶があるのかどうかを考える必要がありそうです。蓮を演じた松田悟志さんは、覚えているつもりで演じたという噂を聞いたことがあります。(本当かどうかはわかりませんが)ですが、忘れていても、覚えていても、どっちにしろ辛いですね。忘れていると、旧世界での真司たちとの暮らしさえも忘れてしまっているということですし。ですが、覚えている時は覚えている時で、ライダーバトルの苦しい記憶を一生背負って生きていくというのは、おそらくとても辛いことですし、真司に出会っても何も言わずに去っていく蓮、というシーンが、さらに居た堪れなくなってきます。つまり、どちらにしろハッピーエンドでバッドエンドということですね。これをトゥルーエンドというのでしょうか。ですが、私個人の思いとしては、やっぱり、蓮には旧世界のことを覚えていて欲しいと感じます。

 次に、蓮は何に迷ってきたのかを振り返りたいと思います。
①人を殺せないこと(第9話〜第35話)
②なかなか行動に出られないこと(第26話〜第33話)
③自分の正義が本当に正しい正義なのかどうかということ(第48話、第49話)
④人のために戦うか自分のために戦うか(第48話、第49話)
⑤人の正義のために戦うか人の命のために戦うか(第48話、第49話)

 まずは、①人を殺せないこと(第9話〜第35話)についてです。蓮の願いは恵里を助けることです。そして、その願いは最初から最後まで変わりません。蓮は、頭では自分の願いのために人を殺そうと決意しているが、いざ人を目の前にすると人を殺せない。ということに第35話まで迷います。この悩みは、第35話でオーディンを殺すことによって一旦解決します。そして、第36話以降は、「大切な人がいるのならば何を犠牲にしてもその人を守ればいい」という正義を確かなものにしたことで、この悩みは蓮にとって大した問題ではなくなりました。
 次に、②のなかなか行動に出られないこと(第26話〜第33話)です。第21話の真司との会話で蓮は、「正面から戦いに向き合う。ますは浅倉を倒す」という答えを出したのでそれまでの色々な苦悩は一旦解決します。ですが、そこから蓮は行動を起こすことができず、第33話で恵里があと少しで死んでしまうということを知って、行動しなかったことを悔やむことになります。
 次に、③自分の正義が本当に正しい正義なのかどうかということ(第48話、第49話)です。蓮は、優衣が人のために自ら命を断とうとする様子を見て、「大切な人がいるのならば何を犠牲にしてもその人を守ればいい」という正義が、本当に正しい正義なのかどうかということに疑問を持ち始めます。
 最後に、④人のために戦うか自分のために戦うか(第48話、第49話)と⑤人の正義のために戦うか人の命のために戦うか(第48話、第49話)です。④と⑤は、第48話、第49話の蓮の状況だと「人のため(人の正義のため)に戦うか自分のため(人の命のため)に戦うか」と表すことができます。何故、人の命のために戦うことが自分のために戦うことになるのかというと、蓮の、恵里や優衣を助けたいという願いは、恵里や優衣のためではなく、蓮のための願いだからです。その証拠に、第38話で、恵里に、「自分のために……(おそらく生きて、や戦ってなどでしょう)」と言われた蓮は、「俺はそうしてる」と答えます。ですが、優衣が自ら命を断とうとしたことや、その後の真司の行動を見て、人のため、つまり人の正義や意志のために戦うことが、正しいことなのではないかと蓮は悩むことになります。
蓮の悩みについては各回で詳しく考察しているので、是非読んでみてください。

 続いては、最終的な蓮の正義、理念、願い、感情についてです。
正義 大切な人がいるのならば何を犠牲にしてもその人を守るべきだ。自分のた
   めではなく、他人のために戦うべきだ。人の命を尊重するべきだ。
理念 大切な人がいるのならばその人の意思や正義、理念よりも、その人の命を
   尊重する(無理矢理でも生きている方がいい)。
願い 恵里に生きていてほしい。
感情 死んだら終わりだ。大切な人に死んでほしくない。
この4つの要素についてはhttps://note.com/kaorukorarara/n/n6812503193b2?magazine_key=m10c041c654f2でも触れました。蓮は、願いと感情の矛盾や、正義と正義の矛盾など、この4つの要素の矛盾に悩まされてきました。

 次に、登場人物への印象のまとめです。
真司への印象
初期 何も考えていない奴。
中期 ライダーバトルを止めようとする邪魔な奴。
後期 よく悩んでいる。すぐに行動でき、命を尊重している尊敬すべき人間。
最後 人のために生きることを選べる人間。正しい人間。

優衣への印象
初期 士郎の手掛かりになるかもしれない。可哀想だ。
中期 責任を感じているようだが、優衣に責任はない。
後期 優衣も、自分と同じように孤独だったのか。
最後 優衣が人の命なんかいらないという選択をしたことは、蓮の心の揺らぎの
   主な理由になる。

士郎への印象
初期 恵里を昏睡状態にした張本人。憎い。
後期 士郎も、自分と同じように大切な人を助けるためにライダーバトルを仕組
   んだのか
最後 自分で戦わないなんて。軽蔑。

北岡への印象
初期 プライドを潰された。自分のためだけに戦うなんて理解できない。
後期 自分のために戦っているという共通点で、感情を共有。

手塚への印象
初期 変わった奴。付き纏ってくる。鬱陶しい。脅威。
後期 手塚もきっと大切な人のために戦っている。だが、大切な人の命を守るた
   めに戦っている訳ではないだろう。少し戦友のような気持ち。

香川への印象
自分の正義や理念のために大切な人を犠牲にするなんて理解できない。
香川は、蓮が正義を確かなものにする理由の一つになった。

 続いては、蓮視点で見て感じたこと、新たに気がついたことについてです。
①恵里への強い思い
②蓮の人間的な成長
③真司を尊敬していること
④蓮にも正義があること
⑤神崎士郎と蓮は、同じ目的のために生きているということ
 まずは、①恵里への強い思い。です。蓮は、私たちが思っているよりも、もっと強力な恵里への思いを持っていたのだと感じました。恵里がいないと生きていけない。恵里だけが生きる支えだということを、蓮は毎日感じていたのだと思います。
 次に、②蓮の人間的な成長。です。先ほど書いた通り、蓮は今まで恵里だけを生きる支えにしていました。ですが、ライダーとして生きていくにつれ、えりに生きていて欲しいという理由が、恵里がいないと生きていけないという理由から、恵里は生きるべき人間だという理由に変化しました。それには、真司や優衣といった新たな生きる支えとなる人ができたことが関係しているのではないでしょうか。さらに、蓮はライダーとして生きること、真司や優衣と暮らすことによって、前にはなかった他人に対する優しさを手に入れたと思います。第36話で蓮は恵里に、「俺は変わったか」と問います。恵里は「ちょっと、顔が、優しくなったかな」と答えます。この一年間は蓮にとって、ライダーとして戦った一年という意味だけではなく、新たな生きる支えを見つけ、自分の信念を確固たるものにしていき、人間的に成長した一年と言えるでしょう。
 続いては、③真司を尊敬していること。についてです。蓮視点で見る前は、真司への印象の変化は、共に過ごした時間の積み重ねだけによるものだと思っていましたが、そうではなく、真司を人間としてもライダーとしても尊敬していたことが、より一層真司への印象の変化をもたらしたということが今回わかりました。真司への尊敬の具体的な例としては、
・すぐに行動できるところ
・全ての命を尊重していること
・人のために生きるということができるところ
などが挙げられます。
 次に、④蓮にも正義があること。です。蓮視点で見る前、蓮は正義(人は〜すべきだ)を持たない人間だと思っていました。私がそう考えていた理由としては、主に手塚の行動や言葉との対比があります。(これに関しては後に書きます)ですので、第41話で香川と東條に放つ言葉がずっと引っかかっていました。ですが、蓮視点で見てみて、蓮も、正しいと確信している期間は短いが、「大切な人がいるのならば何を犠牲にしてもその人を守るべきだ」という正義を持っていたことに気がつきました。蓮がこの正義を正しいと信じるきっかけになったのは、少しの間とはいえ恵里と共に過ごしたからです。そして、蓮の正義の一番の特徴は、蓮の正義は感情と願いから生まれ、感情と願いに支えられているという部分です。
 最後は、⑤神崎士郎と蓮は、同じ目的のために生きているということ。についてです。同じ目的とは、大切な人を助けるという目的です。神崎士郎は優衣を、蓮は恵里を助けるためだけに生きています。ですが、蓮が真司や優衣と出会い人間的な成長を遂げるのに比べて、神崎士郎はずっと一人、孤独なままです。神崎士郎に関してはまたいつか考察しようと思いますが、神崎士郎と蓮のこの共通点は、『仮面ライダー龍騎』を読み解く重要なポイントになりそうです。

 次に、俯瞰的な考察です。 まずは、他の人物との対比についてです。
 はじめに、真司との対比についてです。真司と蓮の一番の相違点は、真司は人の正義や意志のために戦おうとし、蓮は人の命のために戦おうとする。という点です。この違いは第48話の二人の会話によく現れています。
 次に、北岡との対比についてです。北岡と蓮の対比は、それぞれの行動に現れています。最終回で、蓮は恵里の命を救うという選択をとります。それと対比して、北岡は、浅倉と戦うという選択をとることを選びます。正義や意志のために戦うのかなどの紆余曲折を経て、命のために戦うと決めた蓮と、ずっと自分の命のために戦ってきたけれど、最後は勝ち負けのためではなく浅倉と戦おうとする北岡は、両極端の位置にいるとも言えるでしょう。
 次に、手塚との対比についてです。蓮と手塚には、大切な人のために戦っている。という共通点があります。ですが、手塚は大切な人(斉藤雄一)の正義のために戦い、蓮は大切な人(恵里)の命のために戦っています。大切なひとの正義のために戦うのか、命のために戦うのかという違いは、今まで見てきた通り、最終回近くで蓮を苦しませる一番の要因になるのですが、この頃から、蓮の目の前にあったのですね。もし、手塚が生きていたら、優衣がいなくなればミラーワールドを閉じることができるということがわかった時、彼はどのような行動を取ったのでしょう。またいつか、考察したいと思います。
 次に、「悲しみの連鎖」についてです。蓮がライダーになるきっかけは、神崎士郎の実験によって、恵里が昏睡状態に陥ってしまって、恵里を助ける道を選んだことです。そして、神崎士郎がその実験をするきっかけになったのは、二十歳になったら消えてしまう優衣を、なんとしてでも救おうとしたことです。ここに、「悲しみの連鎖」を見出すことができます。
神崎士郎が優衣を助けようとする

恵里が昏睡状態になる

蓮が恵里を助けようとする

他のライダーが犠牲になる(可能性がある)
という連鎖です。「憎しみの連鎖」というのは、争いが起こる、続く原因として色々な作品で扱われているイメージがありますが、「悲しみの連鎖」については扱っている作品があまりないように感じます。命を尊重する心や、大切な人を失いたくないという感情、孤独になりたくないという切実な感情から起こる「悲しみの連鎖」は、『仮面ライダー龍騎』の視聴後のやるせなさや無力感の理由の一つなのかもしれません。
 続いては、『仮面ライダー龍騎』は登場人物の人生の一部(一年間)なのだということについてです。『仮面ライダー龍騎』は、神視点で見ると、ただの50話のテレビ番組ですが、蓮などの登場人物の視点で見ると、登場人物それぞれに過去があって、登場人物みんなに当たり前の日常というものがある。つまり、登場人物は決して特別な人間ではなく、ただの人間なのだということです。

 最後に、蓮視点で見た時の『仮面ライダー龍騎』のテーマについてです。ここで、『仮面ライダー龍騎ファンタスティックコレクション』というムック本に掲載されている小林靖子先生のインタビューの一部を紹介します。

「結局、最後にはみんな死んでいくんですけど、死んだことで何かが解決しないようにというのは心がけていました。うん、死ぬのが嫌なのね、むちゃくちゃ。だから<死>がかっこよく見えたりとか、死んだ甲斐があったとか、そういうのは逆にないようにと。みんなが何かやり残して死ぬことで「死ぬことは、すごくいやなことだ」って思ってもらおうと、ことさらイベントにはしないように書きました。ともすれば劇的なことにしそうになってしまっていたんですが、そこを押さえて、<死>には意味がないようにと。——でも、それすら『龍騎』という物語が出した答えなのかもしれません。」

『仮面ライダー龍騎ファンタスティックコレクション』より

 蓮視点で見た時の『仮面ライダー龍騎』のテーマは、「死んだら、終わりだぞ」という言葉に集約されていると感じます。正義や理念、願いなどは勿論大切だけれど、死ねば全てがなくなる。そして、蓮は迷いながらも新しい命を手に入れるという選択をとります。この選択は、「生きてさえいれば、新しい道もある」という言葉と重なります。さらに、第49話の真司との会話の後の、戦いに行くという蓮の行動は、何が正しい正義なのか、ということよりも、自分の信じるものを大切にする。ということを表しているように感じます。以上のことから、蓮視点で見る『仮面ライダー龍騎』のテーマは、
「死んだら終わりだ。正義や理念を大切にするのもいいが、それよりも、自分の感情や信じるものを大切にする。」
だと言えるのではないでしょうか。

 もし、今までの記事や、今回の記事に対して、感想や意見がありましたら、是非コメントしてください! ありがとうございました!


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