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親が老いたなと思ったとき、親になって老いたなと思ったときは?(小原信治)

人生に目標を持たないことの効用

 人生は想像もしていなかったことばかり起きる。あるいは、想像もしていなかったことばかり起きるのが人生なのだろうか。

 放送作家になったこと。脚本を書いていること。ここまでは子どもの頃から読書ばかりしていたり、国語の成績だけは良かったことを思えばまだ想像の範囲内と言えるかもしれない。けれど、吃音で躓いた人間がラジオのパーソナリティーをやっていること。ましてやそのラジオのジングルが実子の歌声だなんて。それを僕の母であり、娘の祖母であるひとりの女性が毎週楽しみにしているなんて渾沌、果たして想像できただろうか。賭け事で言えば大穴中の大穴。思いがけない幸運。僥倖。棚からぼた餅だ。というわけで、まるで想像し得なかった未来で今、僕はこの文章を書いている。

 「人生に期待するな」と言ったのは北野武さんだ。この言葉には2つの効用がある。ひとつは何もいいことがなくても落ち込まずに済むこと。もうひとつはどんな小さな幸運も大きな幸運に感じられることだ。思えば夢や目標を持ったことがない。やりたくないことはいつも明確だったけれど、やりたいことはいつも茫漠としていた。だからこそ、上記に挙げたすべてが「思いがけないこと」なのかもしれない。台本のない番組が必ず思いがけないものになるのと同じように。なんて、台本を書くことを生業としている人間が言うのもおかしな話なのだけれど。

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