老いての階段住宅、どうですか?(小原信治)
古い友との邂逅
古い友との邂逅はタイムリープだ。過去の自分との再会。同時に相手が見ている過去の自分と現在の自分の差違を突きつけられる瞬間でもある。
2016年6月。藤村くんと5年振りに再会したときもそうだった。あれから8年。互いの25年という空白を埋めるかのように毎月往復書簡を続けているけれど、四半世紀というのは昨日今日で埋まるものでもない。ただ、相手が書いたものを読んでいるうちにその行間にうっすらと訊かれたくないこと、言いたくないことが滲み出ているのが見えてくるのは確かだ。きっとぼくの文章を読んでいる藤村くんも同じように感じているのだろう。決して踏み込んではならない聖域。そんな言葉の裏を観客に深読みさせるのが名匠ホン・サンス監督の脚本だ。
憂鬱になる97分
今月の映画メシで紹介させて頂いた最新作「WALK UP」。主演は「あなたの顔の前に」「小説家の映画」でも映画監督を演じたクォン・ヘヒョ。今回も監督のペルソナとも思える主人公ビョンスをウィットに富んだ演技で魅せてくれる。
舞台は小さなアパルトマン。地下一階がオーナーであるインテリアデザイナーの作業場。一階がレストラン。二階が料理教室。三階が賃貸住宅。そして四階が開放的なバルコニーを持つアトリエ。ビョンスが旧知のオーナーに娘を引き合わせようと訪れる一幕を皮切りに時間の流れも関係性もあやふやな四幕の会話劇が各部屋で繰り広げられていく。
正直、見ているうちにどんどん憂鬱な気持ちになる自分がいた。過去の作品で自分を語られるビョンスの表情やしぐさ、あるいは言葉の裏に感じる居心地の悪さ。余裕のなさ。焦燥感。そこには決して他人に踏み込まれたくない彼の聖域が滲んでいた。
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